第15回アジア太平洋研究賞(井植記念賞)受賞者 李 暉氏

論文タイトル「『営造法式』にみる中国宋代における技術設計原理と部材加工技術」

写真 李 暉 氏
李 暉

【略歴】

  1998年中国北京第二外国語学院旅游英語学部卒業。2006年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。この間、アメリカカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)へ交換留学(2005~2006)。ユニ・チャーム株式会社(2006~2009)を経て、2015年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了(博士(工学))。2015年10月より奈良文化財研究所客員研究員、現在に至る。

 

【要旨】

 
  中国の北宋代(960 ~1127)に、建築技術書『営造法式』(1103)が中央政府により刊行された。この著作に関して、これまで多数の研究成果が蓄積されてきたが、その多くは設計者側の視点が中心になっており、「施工」面への言及は少なかった。本論では大工道具に注目し、建築の軸部材に関する「大木作制度」(部材寸法)・大木作「料例」(用材規格)・「大木作功限」(仕事量)の内容を相互に参照して読み解くことで、宋代の大工道具の全体像を明らかにし、当時の建築造営における設計原理や加工技術の実態解明を試みる。
まず「大木作制度」で部材寸法を表わすのに使われる「材」・「栔」・「分°」の3つの単位の用い方と意義を分析し、宋代の造営における「主要構造の設計段階」と「部材の細部加工」という2段階の明確なプロセスの存在を指摘できた。部材の加工のみならず設計においても、大工が主役を果たしていたと推測した。ついで、部材(特に軸部材の梁材)の規格を考察した結果、「料例」の文面以上の部材の規格が明らかになり、実際存在しなかった巨大な梁材を推測した。
 大工道具に関する記述は、道具別に整理することで、宋代は、鉋類を除けば、今日伝統的な木造建築の造営において用いられる主な道具がすでに出揃っていたことがわかった。つづいて、部材の製材工程を考察した。まず製材の対象は原木ではなく、すでに荒加工を施したものを対象としたと指摘できた。明代の絵画資料や近代の古写真を用いて、製材時の木材の据え方から作業の姿勢まで考察した。最後に、梁と柱の加工・組立作業と取替作業における仕事量の比較から、宋代における取替工事の技術的背景の一面を垣間見た。
補論では、筆者が2012年から2013年にかけて実施した北京故宮修繕組織の大工道具における現地調査成果を報告し、伝統的技術の伝承に関する問題提起の側面も持つ。
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