第11回「アジア太平洋フォーラム・淡路会議」フォーラムの概要

プログラム
  • 日時
    2010年8月7日(土)
    9:30~15:00
  • 場所
    兵庫県立淡路夢舞台国際会議場
    (兵庫県淡路市夢舞台1番地)
  • テーマ
    「新しい東アジア世界
     -アジアと日本の社会像-」
  • 内容
    (コーディネーター)
    • 片山 裕
      神戸大学大学院国際協力研究科教授
    • ○基調提案
      「日本の生きる道」
      講師: 安藤 忠雄
      (建築家)
    • ○分科会
      第1分科会-韓国から学ぶもの-
      コーディネーター: 小此木 政夫
      (慶應義塾大学法学部教授)
      ディスカッションリーダー: 尹 德敏
      (韓国 外交安保研究院教授)
      第2分科会-中国から学ぶもの-
      コーディネーター: 須藤 健一
      (国立民族学博物館長)
      ディスカッションリーダー: 毛里 和子
      (早稲田大学名誉教授)
      第3分科会-日本の未来-
      コーディネーター: 阿部 茂行
      (同志社大学政策学部教授)
      ディスカッションリーダー: 林 敏彦
      (同志社大学大学院総合政策科学研究科教授、公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構研究統括)
    • ○全体会・討論

      写真 フォーラム2010会場風景

井植敏淡路会議代表理事の挨拶に続いて、神戸大学国際協力研究科片山裕教授の進行により、建築家の安藤忠雄氏から「日本の生きる道」をテーマに基調提案をいただきました。

写真 フォーラム2010会場風景提案の中で安藤氏は、「日本は長引く不況の中で元気を失い、世界的な金融危機に追い打ちをかけられ、先行きが真っ暗な状態の中で、もともと日本は資源が乏しく、エネルギーも食料も不足しており、これから先どうすれば日本を復活させることができるか、真剣に考えないといけない時期を我々は迎えている」と述べ、そのような状況の中で一つの可能性として、瀬戸内海や日本海など特定の海域を牧場に見立て、そこに魚を放流して育てていくことで環境保全と漁獲量の確保を図り、新たな食料源とする『海洋牧場構想』を紹介するとともに、2007年より取り組む、東京湾のゴミの埋立地を緑の森にする募金活動についても触れ、「感性の高い子供たちをつくることによって、次の時代の日本人があるのではないか」との提案がありました。

基調提案に引き続き、参加者は「韓国から学ぶもの」「中国から学ぶもの」「日本の未来」の3つの分科会に別れ、それぞれのテーマで活発な討論を行い、午後からの全体会では各分科会のコーディネーターから報告がありました。

【第1分科会報告「韓国から学ぶもの」の要点】
報告者:小此木政夫コーディネーター(慶應義塾大学法学部教授)

日韓の歴史を振り返るのではなく、20年後の日韓がどうなっているかを考え、そこから逆算して何をすべきかを話し合った。キーワードは「競争と協力」。競争の側面からは、韓国人はやはり日本を超えなければ満足しないのではないか、日米韓の同盟は可能か等について、協力の側面では、北朝鮮の脅威を考えて両国の協力は必要不可欠であるとともに、中国との関係において日韓はどのような立場に立たされているのか、また、民主化と経済発展の結果、韓流ドラマやその他の文化交流を通じて、市民レベルでの交流が活発になっていること等が話し合われた。

韓国の現在の成功はどこから来たのか。尹先生によれば韓国はもともと開放された国家ではなかったが、97年の通貨危機が韓国を動かす大きなきっかけとなって国を開くことや自由化に熱心になり、危機が国の形を変化させる効用をもたらした。サッカーワールドカップでの韓国の躍進も、開放の重要性を学ぶという点において誘因となったのではないかと指摘された。

日本から見ると韓国は通信情報機器関連の躍進やハブ空港の成功が目覚ましい。開放政策、世界標準を求めるグローバル化、政府がダイナミックに行った産業調整などが成長のエンジンとなり、韓国の成功に国家が大きな役割を果たした。その意味で日本はダイナミックな動きに欠けており、政治色の強いリーダーシップの発揮が求められる。だが、韓国の発展には同時に光と影の部分があり、多くの課題も抱えており、その影の部分への対応が求められることになる。結局20年後、日韓はよく似た2つの国となるということが考えられ、そのためにも2国間の「競争と協力」を深く検討していく必要がある。

【第2分科会報告「中国から学ぶもの」の要点】
報告者:須藤健一コーディネーター(国立民族学博物館長)

中国は国家戦略として近代化に取り組み、初期はキャッチアップ型で成功し今日の発展となったが、一方で日本・韓国と同様に少子高齢化問題、道徳や社会秩序の崩壊に直面している。

経済的には、中国国内での雁行的発展経済が行われており、ある都市が経済的に停滞しても、違う都市が発展することで、全体として成長する特徴が見られる。また、やがてバブルが起きる懸念に関しては、中国は市場経済というより、政府がバランスを取って政策をコントロールしておりその心配はないと考えられると指摘された。

中国の場合、共産党員は優秀で質が高く、非常にいい人材が政治家となっていくという意味で人材のシステムについて学ぶべき点があり、内向的な日本に比べ、中国では移民・移住など国外に出ていこうとするパワーがあり、ヨーロッパの研究者の話として「中国人は世界のどこへ行ってもくつろげる、すなわち自分がくつろげる場を自分で作る」という言葉が紹介されたが、それこそが日本が学ぶべき生き方ではないかとの意見が出された。

中国の民主化で、国内・国外のどのような力が鍵になるかについては、毛里先生から、国内の勢力が力を持っており、その力が民主化に動いていくことになるだろうとの指摘があった。

日・中・韓による東アジア共同体や、政治・経済、ソフトパワーに対する中国の関わりについては、中国は一国レベルのものの考え方から、地域、あるいは世界に目を向けていくべきであるが、一方、東アジア共同体の実現には、協力し得る共通の財産を作り出す動きがなければ困難ではないかとの指摘がなされた。

結論としては、中国は現在、外のインパクト、外圧をてこに国内の改革に向けて努力する時期である、しかし国内的に存在する急激な成長がもたらすゆがみや衝突を適切に処理するメカニズムが今はまだできていない。そういう国内危機をいかに解決していくのかが、今、中国にとって大きな問題だろうということで議論は終結した。

【第3分科会報告「日本の未来」の要点】
報告者:阿部茂行コーディネーター(同志社大学政策学部教授)

日本に元気がないのは、そもそも目標を失ったからであり、どのような新しい目標を立てるべきかについて議論を深めた。

目標の一つは、グローバルガバナンスである。日本は世界の模範となるような環境技術等があり、エコロジーという面では、これを拡充し経済化していくことが必要である。そして、外国人看護師の国家試験制度を改めるなど、海外からの人材をより導入することで、高福祉社会を実現することが必要である。

国際化に関しては、韓国のサムスンなどは世界中から優れた人材を集めているが、日本企業にはそうした対応が出来ておらず、こうした企業の国際化にも目標を置くべきで、人材の確保だけでなく、必要な人材を育成していくことも大切であるとの意見が出された。農業に関しては、農業特区をつくり日本の食文化を輸出すれば農業の活性化につながるとの意見が出された。

日本の未来の明るい側面としては、日本には世界に誇れる独自の文化があり、それを発信して世界に貢献しながら、収益にも結び付けることが必要である。また、日本では博士号を取っても行く先が少ないことが往々にしてあるが、博士号を取った人の能力を活かして日本の中で知的産業を育てるべきだと指摘された。

また、国家の目標だけではなく、地域としても目標をもつことが大切で、災害に強い都市をつくり、安全・安心に関してのビジョンやシステムを明確にする努力が必要である。さらに為替政策をはじめとする日本の政策について無策とも思える時期があり、企業を守る立場も取られなかった等の問題も議論されたほか、コンプライアンスに関しても日本は行き過ぎの面があることなどが指摘された。

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