フォーラム2012の概要

写真 フォーラム2012会場風景

プログラム
  • 日時
    2012年8月4日(土)
    9:00~16:00
  • 場所
    兵庫県立淡路夢舞台国際会議場
    (兵庫県淡路市夢舞台1番地)
  • テーマ
    「日本の未来と人づくり」
  • 内容
    コーディネーター:村田 晃嗣
    (同志社大学法学部長)
    • ○基調提案
      ①「地域をつくる人をつくる!」
      講師: 飯盛 義徳
      (慶応義塾大学総合政策学部准教授)
      ②「21世紀社会の人づくり」
      講師: 五百旗頭 真
      (公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構理事長、前防衛大学校長)
      ③「企業社会の人づくり-グローバル人材の要件-」
      講師: 家次 恒
      (シスメックス株式会社代表取締役社長)
    • ○分科会
      第1分科会「地域の未来」
      座長: 加藤 弘之
      (神戸大学大学院経済学研究科教授)
      第2分科会「21世紀社会の人づくり」
      座長: 片山 裕
      (神戸大学大学院国際協力研究科教授)
      第3分科会「企業の人材育成」
      座長: 阿部 茂行
      (同志社大学政策学部教授)
    • ○全体会・討論

フォーラムでは、井植 敏 淡路会議代表理事の挨拶に続いて、村田晃嗣 同志社大学法学部長の進行により、3人の講師から基調提案をいただき、そのあと、参加者は3つの分科会に別れて、それぞれのテーマで活発な討論を行いました。

昼食を挟んで午後から行われた全体会では、初めに分科会の座長から、各分科会での討論の概要について報告があったあと、参加者全員でさらに議論を深め、最後に2日間にわたる淡路会議の締め括りとして、五百旗頭 真 淡路会議常任理事より総括と謝辞が述べられ閉会しました。

◇基調提案の要旨

①「地域をつくる人をつくる!」
飯盛いさがい 義徳 (慶応義塾大学総合政策学部准教授)

どうしたら地域の元気をとり戻せるのか。地域には、自然、歴史、文化、食などの豊潤な資源がある。これらを存分にいかすことで道は開ける。そのためには、①地域資源の再認識、②人々のつながり形成・意味づけ、③資源の戦略的展開、という「資源化プロセス」を打ち立てること肝要だ。つまり、資源があるとかないとかではなく、資源にしていくという姿勢が大切なのである。そこで注目したいのが資源化を担う主体だ。実は活躍している地域づくりのリーダーたちは命令や強制をすることなく、さまざまな人や組織を巻き込みながら見事に資源化を果たしている。このような人材を「プラットフォーム・アーキテクト」(創発をもたらす場づくりのできるリーダー)と呼んでいる。このような人材をどのように育成すればよいのか。大切な資質は、問題発見解決能力、行動力、起業家精神などであろうと述べた。

②「21世紀社会の人づくり」
五百旗頭いおきべ 真 (公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構理事長・前防衛大学校長)

豊かな人間形成のためには知徳体すべての成長を図り、大事なことは勝利と敗北を両方経験することで、勝つことと負けることを心の糧にして、そこから教訓を学ぶ姿勢を作っていくことが豊かな人間性の土台となるとした上で、防衛大学校における人材づくりを例に、グローバル化する時代においては、国際経験のある者でなければ真のリーダーは務まらず、自国への誇りや愛国心は不可欠だが、他国の軍人やリーダーもまたそれを持っていることを理解し、尊重する姿勢がなければよきリーダーたり得ないと述べ、東日本大震災の当日の防衛大学校の生徒の行動や現地での自衛隊の活動等にも触れながら、これからの社会に求められる人づくりについて述べた。

③「企業社会の人づくり-グローバル人材の要件-」
家次いえつぐ ひさし (シスメックス株式会社代表取締役社長)

リーマンショックや欧州の金融危機に伴う円高、新興国の台頭、異業種からの市場参入など、ビジ ネス環境が大きく変化する中で、企業存亡の鍵を握るのは人、特にグローバルに活躍できる人材の確 保や育成が喫緊の課題とした上で、グローバル人材の要件は単に語学力ではなく、まずはビジネス パーソンとして世界の多様な人々と渡り合える知識、スキル、情報を持っていることで、またチャレンジ精神にあふれ、自らのビジョン、信念に基づいて行動できることが必要条件である。加えて日本人としてのアイデンティティを持ち、多様性を認め、受け入れていけることが求められる。そのためには、若いうちから様々な経験をさせ、場数を踏まえることが大切である。何より、企業そのものがグローバル化し、魅力ある会社であることが必要であると述べた。

◇分科会での討論の概要

○第1分科会「地域の未来」
報告者: 加藤 弘之 (神戸大学大学院経済学研究科教授)

「地域づくり」には「人づくり」が重要であることから、特に若者をどのように地域の発展に取り込み、若者にモチベーションを与えるかを中心として、いかに地域の資源を発見し共有化するか、また、地域の担い手となるキーパーソンをどのように育成するかについて議論した。

第1に、若者を地域づくりに生かし、その活躍の場を与える場合、その地域にコミュニティがしっかりと形成されていることが重要であり、その場合のコミュニティは、地域の共同体や最末端の行政組織という面も備えているが、こうした組織がなければ若者を地域に取り込むことができないことが指摘された。

第2に、コミュニティをどのようにつくり上げるかという前に、地域の中にいる人と外から入ってきた人をいかにうまく結び付けるかが重要で、内と外の人間とがうまく結び合って協働することで、初めてコミュニティが再編され再活性化される。そういうものとしてコミュニティをとらえることが重要だということも指摘された。

第3に、コミュニティを中心として地域を発展させる場合、働く場所を確保することが重要で、農業や林業のような一次産業を見直し、若い人たちが新たに参入できるような仕組みをつくり、付加価値の高い競争力のある農業とするなど、産業の活性化・再編が一つの方向性と考えられるのではないかという意見が出された。

第4に、上記と関連して、地域の活性化を図る上で、さまざまな活動に制約があり、規制緩和を目指さないと、根本的に地域の活性化を追求するのは難しいのではないかという意見も示された。

最後に、若者を地域づくりに取り込むためには、高齢者も含めたコミュニティ、バランスの取れた地域の在り方が前提であり、それがあって初めて若者もモチベーションを持って地域の発展に貢献できるような体制が生まれるのではないかという指摘がなされ終了した。

○第2分科会「21世紀社会の人づくり」
報告者: 片山 裕 (神戸大学大学院国際協力研究科教授)

日本企業は本当にグローバル人材を必要としているか、について議論を始めたが、本当の意味で企業は、多様な価値観を持ち、自分で情報発信できるグローバル人材を必要としているという意見が多数であった。

どういう人材を必要とするかについて、特に大学はグローバル化への対応が一番遅れており、社会や企業が必要とする人材をつくり得ていないのではないか、また、もっと早い段階からグローバル化に対応しないと間に合わないのではないか、という意見も示された。

日本とアメリカの大学との比較では、アメリカへの留学生数は中国や韓国の方が多く、特に韓国は、大学教育や留学制度も含めエリートを育てるコンセンサスができているが、日本はその点中途半端であると指摘された。他方、アメリカでの日本人留学生は、確かに減少しているが、留学先は多様化しているので必ずしも悲観することはない、とする意見も示された。

また、人づくりを考えるときには、20年後や50年後の日本がどうなり、そして、これからどのように進むべきか、という議論なしには考えられず、まさに人づくりは今後の日本のあり方とセットで考える必要があるとの重要な指摘もなされた。

そのほかにも、大学は実際に人々が出会い、コミュニケーションを取って刺激し合う場であることが重要で、一方的に授業を受けるだけではなく、教師との交流も含め、真にコミュニケーションを取れる場所であることが望ましいとの意見も示された。

さらに、東日本大震災後、特に女性は原発に対する不安感、生命や環境について非常に深い思いを抱いているが、男性優位の日本社会ではそうした思いが正しく反映されていないと指摘があり、日本の人づくりでは、女性の声をきちんと反映することが重要との認識も示された。

最後に、高等教育でもリベラルアーツが大切で、大学でリベラルアーツを勉強する重要性を指摘する意見も出された。今の若者はインターネットなどで必要な情報を入手する手法に慣れ、リベラルアーツ的な勉強をすることが非常に苦手とする指摘に対しては、人間は90歳まで生きられるから、大学を出るまでにリベラルアーツを身に付けなくても、50歳や60歳になってもできるから心配することはない、との心強い意見も示されて終了した。

○第3分科会「企業の人材育成」
報告者: 阿部 茂行 (同志社大学政策学部教授)

企業における人材育成を考える際の視点として、「求める人材とは何か」「人材をどのような方法で育てるか」「人材を育てる環境」の3点を中心に議論した。

第1の「求める人材とは何か」については、英語が出来ることがグローバルではなく、“説得力のある交渉”ができる人材の育成が重要だとの指摘がなされる一方、英語でのコミュニケーションが基本となる現在、英語を使えないのは問題であるとの意見も示された。

いずれの場合も、リーダーには相手を説得できる力が必要で、日本企業で技術屋がマネジメントをすると、技術は技術だけで、マネジメントの要素の育成がうまくいかないように、その辺は真剣に考えていく必要があるとの意見が示された。

第2に「人材をどのような方法で育てるか」という点について、新入社員を中国やインドに派遣し、現地の企業や大学生と議論させると、きちんとコミュニケーションが取れる人材になる必要に気付き、いろいろなことを学び始めるが、外から学ばせるのではなく、“学ばなければならない”というインセンティブを与えることが非常に重要だとの指摘がなされた。その一方、国際的に評価されるためには日本のイノベーションが必要で、日本らしさを高めることで、国際的なステータスも上がる可能性があるという指摘もなされた。また、国際化の考え方の中に、英語だけでなく現地の言葉を習得する必要性もあるとの意見も出され、マーケットに応じた第2外国語習得の必要性も指摘された。

次に3番目の「人材を育てる環境」について、アメリカの大学に企業が社員をMBA取得のために派遣するケースを例に、多くの場合、帰国後も特別扱いすることはないが、人材を生かすならば、MBAの経験を生かせる適切なポストや処遇をする必要がある、との意見も示された。突出したトップを生み出すためには、ある程度の差別化を企業の中に求めることも非常に重要との指摘がなされた。

最後に、日本がなかなか不況から乗り切れず、国際化が進展しないのは、日本社会全体の問題で、平等性を重視した教育の結果、“競争しない社会”となったとの指摘がなされた。突出した能力のある人を適切に処遇したり、海外の技術者やマネージャーなどを採用するだけの差別的な給与体系の導入にはなかなか至らないが、こうした点にも配慮する必要があるとの議論がなされた。

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