フォーラム2013の概要

写真 フォーラム2012会場風景

プログラム
  • 日時
    2013年8月3日(土)
    8:50~16:00
  • 場所
    兵庫県立淡路夢舞台国際会議場
    (兵庫県淡路市夢舞台1番地)
  • テーマ
    「エネルギー安全保障-世界の状況と日本の選択-」
  • 内容
    コーディネーター:窪田 幸子
    (神戸大学大学院国際文化学研究科教授)
    • ○基調提案
      ①「日本のエネルギー戦略」
      講師: 小林 英夫
      (早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授、自動車部品産業研究所所長)
      ②「デジタルグリッドがもたらす未来」
      講師: 阿部 力也
      (東京大学特任教授、一般社団法人デジタルグリッドコンソーシアム代表理事)
      ③「中国のエネルギー戦略と取り組みの動向-低炭素社会に向けて-」
      講師:李 志東
      (長岡技術科学大学経営情報系教授)
      ④「エネルギーとライフスタイル」
      講師:津田 信哉
      (三洋電機株式会社執行役員、パナソニック株式会社R&D本部技術政策推進室室長)
    • ○事例紹介
      「プラチナ構想ネットワークにおける水素活用WGの取り組み」
      発表者: 池松 正樹
      (JX日鉱日石リサーチ株式会社取締役常務執行役員、プラチナ構想ネットワーク副事務局長(兼務))
    • ○分科会
      第1分科会「世界のエネルギー戦略」
      座長: 簑原 俊洋
      (神戸大学大学院法学研究科教授)
      第2分科会「日本のエネルギー戦略と課題」
      座長: 片山 裕
      (神戸大学大学院国際協力研究科教授)
      第3分科会「エネルギーとライフスタイル」
      座長: 窪田 幸子
      (神戸大学大学院国際文化学研究科教授)
    • ○全体会・討論
      コーディネーター 村田 晃嗣
      (同志社大学学長)

フォーラムでは、井植 敏 淡路会議代表理事の挨拶に続いて、窪田幸子 神戸大学大学院国際文化学研究科教授の進行により、4人の講師からの基調提案とプラチナ構想ネットワークからの事例紹介をいただき、そのあと、参加者は3つの分科会に別れて、それぞれのテーマで活発な討論を行いました。

昼食を挟んで午後から行われた全体会では、村田晃嗣 同志社大学学長の進行により、初めに分科会の座長から各分科会での討論の概要について報告をいただき、参加者全員でさらに議論を深め、最後に2日間にわたる淡路会議の締め括りとして、五百旗頭 真 淡路会議常任理事から総括と謝辞が述べられ閉会しました。

◇基調提案の要旨

①「日本のエネルギー戦略」
小林 英夫(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授、自動車部品産業研究所所長)

今日ほど、エネルギーの効率的利用と環境問題への配慮が重視される時代はない。エネルギーの有限性がこれまで幾度かにわたって議論されてきたが、2011年3月の東日本大震災を契機に原発問題とも絡んで一層その重要度は増してきている。

自動車の持つエネルギー消費や地球環境に与える影響が非常に大きいことから、自動車及び自動車産業にブレークダウンして日本のエネルギー戦略を考えてみる。

2030年には世界の自動車の30%をアジアで保有することになり、東欧及び南欧を含めた新興国市場が全体の半分を占めることになる。新興国市場では低価格がポイントになるため、環境やエネルギー消費の面で甚だ効率のよくない自動車が爆発的に増大しないように、自動車先進生産国はどう対応すべきなのかという問題がある。

次世代自動車の環境対策としては、①エンジン、トランスミッション技術の改善、②ハイブリッド車、③電気自動車、④燃料電池車の4つのタイプがあり、各国の市場の特殊性を反映して全体解として省エネが実現されていく方法が展開されていけばよい。日本の場合、長い自動車技術の伝統を持ち、すり合わせ技術において高い水準を達成していることから、エンジン、トランスミッション技術の改善という方向が一つの優れた方法である。

また、各社のエコカー戦略をみてみると、トヨタやホンダはハイブリッド車が中心、日産や三菱は電気自動車が中心になっているが、今後は燃料電池車の方向に進んでいる印象を強く持っている。

②「デジタルグリッドがもたらす未来」
阿部 力也(東京大学特任教授、一般社団法人デジタルグリッドコンソーシアム代表理事)

情報のデジタル化や経済のデジタル化は、わずか数十年の間に我々の社会を大きく変革した。一方、大きな社会資本である電力は140年の歴史を経て世界中に広まったが、電話で言えば黒電話に相当するアナログ技術のままである。果たして電力がデジタル化された時に情報や経済のような大変革が起きるのかを考えてみたい。

電力のデジタル化とはアナログ交流をデジタル化して直流に整形し、これをアナログ交流に再生することであり、輸送電力の保存ができる。現在の効率的ではあるが1箇所で事故が起こると広範囲に拡大しやすい巨大な電力系統の中央管理ではなく、デジタルグリッドの導入による分散管理ができることになる。

デジタルグリッドは、電力を識別し、電気的制約から解放し、エネルギーを持つ交換財として扱えるようにするとともに、電力系統を災害に強い強靭な仕組みに転換し、エネルギー効率が飛躍的に高いハイブリッド構造を提供する。

電力の時間別、発電ソース別の識別が可能になると、新しいサービス、市場が近い将来生まれる可能性があり、先進国のみならず、新興国、途上国で大きな変化をもたらすと思う。世界の84%、13億人が無電化状態にあるが、デジタルグリッドルーターを使って、無電化地域で電力の量り売りサービスが提供できる。5年で世界を変えたい。

③「中国のエネルギー戦略と取り組みの動向-低炭素社会に向けて-」
李 志東(長岡技術科学大学経営情報系教授)

世界は低炭素競争時代に入った。中国も例外ではない。政府は2010年1月末、CO2排出原単位を2020年に2005年比40~45%削減とする自主行動目標を国際公約として国連に提出した。全国人民代表大会が2011年3月、目標達成の担保となる「第12次5カ年計画」を決議した。「論」よりも、低炭素社会の先導者となり、「実利」を狙う戦略である。中国の場合、エネルギーの利用効率が悪いので省エネが1番目、石炭エネルギーが7割を占めるので脱石炭化が2番目、CO2を吸収するための植林が3番目の取り組みとなる。

取り組みに当たっては、政府が主導して、低炭素に有利な活動をすれば得、しなければ損と実感できる低炭素システムを整備しつつ、①省エネと非化石エネルギーの利用拡大、②エネルギー安定供給の確保、③低炭素産業の育成を3本柱として推進している。福島第一原発事故を受け、省エネと再生可能エネルギーの利用拡大を図るとともに、第3世代の最新式でなければ建設できないなど原子力安全確保への取り組みがさらに強化された。

低炭素型技術の開発、産業育成ということで特に力を入れているのは次世代自動車である。国内の巨大市場をバックに、次世代自動車産業の育成を目指している。

日中間の技術格差が縮小しつつあるが、協力拡大の余地は大きい。実現には、進展中の米中原子力技術協力や双方の比較優位性を活かすような新しいビジネスモデルの開発が不可欠である。また、制度設計や国際規格づくり、エネルギー安全保障や原子力安全分野などでの協力も期待される。

④「エネルギーとライフスタイル」
津田 信哉(三洋電機株式会社執行役員、パナソニック株式会社R&D本部技術政策推進室室長)

私たちの日々の生活において、エネルギーを強く意識することは少ないが、エネルギーとライフスタイルは密接に関わり合っている。福島原発事故により電力消費の抑制が必要になったこと、シェールガス革命により燃料価格が下がったこと等がその例である。これらの事象で注目度が下がったものの、化石燃料の大量消費による地球温暖化のリスクは、逆にこれらの事象で深刻化する。省エネは大事なプロセスであるが、これだけでは大きな問題を解決できない。

エネルギーをつくるという創エネが必要であり、これを自然エネルギーや再生可能エネルギーで賄おうとすると不安定なので蓄エネも必要。つくり出したエネルギーをいかに上手に使うかという意味で活エネ、エネルギーマネジメントあるいはスマートエナジーシステムという形でのエネルギーの賢い使い方が、今後は重要になってくる。

身近な省エネから地球温暖化防止を進め、住宅、店舗、工場、集合住宅、そして街全体のスマート化を進めていくことにより、スマートコミュニティを実現する必要がある。再生可能エネルギーをうまく導入しようとすると、ITでエネルギーを制御するスマートコミュニティの実現が大きな方向性になる。私どもは既に天津、大連、シンガポール、藤沢などでスマートシティプロジェクトを展開している。

そして、最終的にはGENESIS(太陽電池と超電導ケーブルを組み合わせたネットワークによる世界的太陽光発電システム)という形で、環境問題とエネルギー問題を解決するような仕組みにつなげていきたい。

◇事例紹介の要旨

「プラチナ構想ネットワークにおける水素活用WGの取り組み」
発表者:池松 正樹(JX日鉱日石リサーチ株式会社取締役常務執行役員、プラチナ構想ネットワーク副事務局長(兼務))

プラチナ構想ネットワークは、小宮山 宏会長の提唱するプラチナ構想の実現を目指す産官学の連携組織であり、当会では、次世代のクリーンエネルギーキャリアーとして、水素に注目し、プラチナ構想の具現化を目的とした「まちづくり」への水素の応用を検討する水素活用WG等の活動を行っている。

水素の活用でエネルギー効率を2倍にできること、水素がクリーンエネルギーであること、電力の貯蔵能力が高いことに大きな魅力がある。2015年には燃料電池自動車を一般ユーザーに市販するというシナリオで、100箇所程度の水素供給ステーションを4大都市圏に先行整備することを目指している。

水素も組み合わせた分散型エネルギーネットワークを構築することによってエネルギーのベストミックスが実現できる。具体例としては、福岡県における水素タウンプロジェクトがある。また、NEDO JHFC3の実証ステーションがある。さらに、FCV・FCバスの実証研究も進んでいる。国際的にも新ベルリン空港では空港の中を全部水素ステーション化、水素ターミナル化しようとする計画があると聞いている。

◇分科会での討論の概要

○第1分科会「世界のエネルギー戦略」
報告者: 簑原 俊洋(神戸大学大学院法学研究科教授)

最初に、安全保障の観点から、アメリカの対中東政策はシェール革命によっていかに変化するのかという質問に対し、中東への石油依存度の低下に従い、アメリカの中東へのコミットメントはどんどん減っていく、他方で、シーレーン防衛など、アジアに対するpivotはますます強化されていくという意見が示された。

2点目として、アメリカ以外の地域で、より広く世界を見渡して何が学べるのかという観点で議論が進んだ。韓国では原発のトラブルが続いており、多くの原発がシャットダウンされているなど、日本とエネルギー事情が非常に似ている、日韓の政治情勢には難しいところがあるが、もう少し協力関係があってもいいのではないかという意見があり、日本にはハイテク、省エネ技術があるので、送電線をつなげて日韓友好のシンボルにするなどの意見も示された。

また、中国のエネルギー戦略については、エネルギー需要が大きく、脱原子力エネルギーというわけにはいかないが、4000万kWを原子力で賄うという計画を1600万kWに下げ、その代わり最新型である第3世代の原発のみを使用する。他方で、シェールについては、水問題がある上、かなり深いところに賦存しているので、当面、アメリカと違った形でのエネルギーの問題を考えなければいけないという意見が示された。

さらに、スウェーデンでは、環境に優しいが故にCO2に対しても敏感で、原発を継続して使おうという国レベルの決定がなされたという報告があった。

終わりの方では、われわれは、エネルギーを作る方法や節約する方法の議論はかなりするけれども、その後の話があまりない。地球市民として、使用済み核燃料をどうするのか、地中に埋めて1万年後の人類に処理を託すということで本当にいいのかという議論があった。

最後に、日本は石油ショック後のエネルギー問題に対しては産業界を中心に隊伍を組んだが、ポスト福島は民生、一般の市民レベルで考えなければいけない。例えば家の断熱等にもう少し補助金を出すといった、大きな動きがあってもいいのではないかという意見が示された。

○第2分科会「日本のエネルギー戦略と課題」
報告者:片山 裕(神戸大学大学院国際協力研究科教授)

1点目に、デジタルグリッドをはじめとする技術革新やパラダイムシフトが急速に進んでいくとすると、原子力発電所を将来どうするかを早く決めないと日本の原子力業界が壊滅的な打撃を受け、経済にも深刻な影響が出てくるという条件が、変わってくるのかどうか。つまり、今は技術的な進歩が急速なので、もしかすると原子力発電所を全部シャットダウンしてもサスティナブル(持続可能)なエネルギー供給を確保できるのではないかという問題提起がなされ、再生可能エネルギーや省エネなどの新しい技術への移行期において、確実に、原子力依存度が低下していくが、どのくらいのスピードで進んでいくのかははっきりしておらず、少なくとも10~20年はかかるだろうとの意見が示された。また、電気エネルギーを識別して商品として売るという電気のパケット化が実現すれば、売り方や商品化の仕方によって、急速に自然エネルギーに向かい出す可能性が十分にあるだろうという意見も示された。

2点目に、専門家の英知を集めて2ndベスト、3rdベストの解が得られたとしても、原発に対して強い恐怖心と不信感を持っている福島県民やお子さんを持つ母親などに対して、どのようにして理解してもらえばいいか。そういう努力をどのようにしていけばいいかという問題提起がなされ、専門家から住民に対する一方向の啓発や周知には限界があり、住民の中に専門家や行政との間に立ち、情報を主体的に学び、相談会や学習会を仕掛けていくキーパーソンが生まれている。このような第3の働き手がNPOなどの中に生まれてきているので、彼らのネットワーク化、仕組み化を支援していくことが必要なのではないかという意見が示された。また、技術者の立場から、技術的な説明が一般の人にうまく伝わりにくいのが悩みの種であり、むしろ人文社会系の方に情報発信していただくと分かりやすくて良いとの意見も示された。

原発問題について、すぐに解があるわけではなく、比較的リスクの少ない原発を再開させるにしても、どうやって地元自治体だけでなく国民全体の理解を得るかというのは難しいが、専門家に任せておけばいいという話ではなく、今回の事故をきっかけに政府や専門家のやることは全部駄目だというゼロサムゲームでもなく、市民がどうやってこの問題を自分の問題として捉えていくかについて努力しなければいけない。誰にでも分かる論理と言葉でこの問題の実態に迫り、分かりやすい言葉で情報を発信していくことが、遠回りに見えても一番着実なアプローチかもしれないとの意見が示された

○第3分科会「エネルギーとライフスタイル」
報告者:窪田 幸子(神戸大学大学院国際文化学研究科教授)

最初に、日本のエネルギー問題を変えていくことは、日本の産業の活性化につながる問題であるという意見が、複数の方から示された。特に中小企業の弱体化が日本の産業構造にとって非常に大きな問題になっているが、新しいエネルギー戦略を動かしていく中で、産業の活性化につながる可能性があるという指摘である。エネルギー問題は多面的に考えることができ、いろいろな解決法があるので、そこに中小企業が関わっていく可能性を見いだすことができるだろうという意見も示された。

2点目に、日本は、ピラミッド型のトップダウンの形から、水平型もしくは分散型システムに変わっていく必要があるだろうし、実際にそういう動きもあるという意見が示された。国の規制を撤廃していくことが水平型社会を実現するためには重要であり、安倍政権がこれを推進しようと強いリーダーシップを発揮していることに期待するという意見も示された。それ以外にも、一体何を解決し克服していけば、日本が本当の意味での水平型ネットワーク社会に移行していけるのか。世界を考える視点を持ち得る日本になるには、一方で強いリーダーシップが必要であり、なおかつ規制は減らさなくてはいけないという、非常に難しい問題があるという議論が交わされた。

3点目に、今回の提言の多くは産業側の視点が強調されていたが、実際は消費者の視点から考えていかなくてはいけないという意見が示された。消費者側には、コストということが非常に大きく、採算が取れるのならば新しいエネルギーに移行しても良いという傾向が強いので、消費者が受け入れられるような状況に持っていくには、何が必要なのかという議論が交わされた。

一方、消費者側自身の問題点として、被害者としての消費者イメージばかりが強調されているが、日本の消費者自体もしくは市民自体がまだ市民になっていない。自分で社会を考えるというボトムアップの視点が重要であるが、いわゆる市民運動につながるような動きが日本の中では見られず、どのように醸成していけるのかという意見も示された。

それ以外にも、例えば農業や林業など他分野との連携をどのように考えていくのか、職住接近のようなことで論じられるエネルギーコストの問題も考えなくてはいけないという多面的な意見や、若い世代に対する環境・エネルギー教育の重要性や、地熱エネルギーなど多様なエネルギーを導入する努力の必要性についても意見が示された。

最後に、ITによるスマートコミュニティなどの実現が言われているけれども、本当にそういうところに住みたいのか。循環型社会の再生というもっと基本的なところもぜひ考えてほしいという意見が示された。

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