フォーラム2015の概要

写真 フォーラム2015会場風景

プログラム
  • 日時
    2015年8月1日(土)
    9:00~16:00
  • 場所
    兵庫県立淡路夢舞台国際会議場
    (兵庫県淡路市夢舞台1番地)
  • テーマ
    「アジアの未来―政治・経済・文化―」
  • 内容
    • ○基調提案
      コーディネーター 窪田 幸子
      (神戸大学大学院国際文化学研究科教授)
      ①「日本とアジアの対話の可能性」
      講師: 高原 明生
      (東京大学大学院法学政治学研究科教授)
      ②「海外展開の新時代、アジアとの『ものづくりパートナーシップ』の提案」
      講師: 大野 泉
      (政策研究大学院大学教授、一般財団法人アジア太平洋研究所上席研究員)
      ③「アジアの人と文化の交流―歴史的・文明史的視点から―」
      講師:近藤 誠一
      (近藤文化・外交研究所代表、前文化庁長官)
    • ○分科会
      第1分科会「東アジアにおける政治的コミュニケーションの再構築」
      座長: 大西 裕
      (神戸大学大学院法学研究科教授)
      第2分科会「経済の連携とネットワーク」
      座長: 阿部 茂行
      (同志社大学政策学部教授)
      第3分科会「アジアの人と文化の交流」
      座長: 片山 裕
      (京都ノートルダム女子大学副学長)
    • ○全体会
      コーディネーター 村田 晃嗣
      (同志社大学学長)

フォーラムでは、井植 敏 淡路会議代表理事の挨拶に続いて、窪田幸子 神戸大学大学院国際文化学研究科教授の進行により、3人の講師からの基調提案をいただき、そのあと、参加者は3つの分科会に別れて、それぞれのテーマで活発な討論を行いました。

昼食を挟んで午後から行われた全体会では、村田晃嗣 同志社大学学長の進行により、初めに分科会の座長から各分科会での討論の概要について報告をいただき、参加者全員でさらに議論を深め、最後に2日間にわたる淡路会議の締め括りとして、五百旗頭 真 淡路会議常任理事から総括と謝辞が述べられ閉会しました。

◇基調提案の要旨

「日本とアジアの対話の可能性」
高原 明生 東京大学大学院法学政治学研究科教授

四半世紀前の冷戦の終了は、国際社会の構造を大きく変容させた。だが、21世紀に入り、そして戦後70年が経った今日、第二次世界大戦後に形成された国際秩序が根底から大きく揺らいでいる。米国ブッシュ政権の単独行動主義、中国の海洋における領土「回復」の動き、ロシアのウクライナ侵攻などがその現れである。どのような理念や原則に基づいて新しい国際秩序を築いていくべきか、日本は近隣のアジア諸国と積極的な対話を行うべきである。その際に、第二次世界大戦から人類が得た教訓が、対話の基礎となることは言うを俟たない。一つ目の教訓は、力で自分の意志を他の国民や民族に押し付けてはいけない、二つ目は、国際紛争はルールにのっとって平和的な手段で解決しなければならない、三つ目は、ルールの変更もルールにのっとって行わなければならない、ということである。

アジアの新しい秩序構築の鍵は、この地域において、経済的にも軍事的にも突出した中国が握っている。この地域における平和を保っていくために、中国との間で経済交流や非伝統的安全保障協力も含めた相互依存関係を構築する、日米同盟の強化と同時に中国との間で民間、政府間、軍人間で対話を進め信頼醸成を図る、人々の価値観や意識、規範の共有化を図ることが必要である。また、公論外交(パブリックディプロマシー)を進めて、中国の一般の方々に正しい情報を届けることのできる、本当の意味での民間交流を進めていくべきだと考える。

日本は、戦争で加害者であったことを決して忘れてはならない。他のアジアの人々との対話を通して、戦争の歴史、そして戦後70年間の国際秩序の歴史を共に振り返ることにより、日本人の歴史認識に対する疑念を払拭し、協働して未来を創ることが可能になるであろう。

「海外展開の新時代、アジアとの『ものづくりパートナーシップ』の提案」
大野 泉 政策研究大学院大学教授、一般財団法人アジア太平洋研究所上席研究員

国際化の新たな波のなかで、大手製造業の系列に入っていない中小の製造業が自らの経営判断でアセアン諸国等に進出する事例が急増している。背景には、国内市場の縮小、日本式生産ピラミッドの崩壊、技能継承問題等の構造的要因がある。

厳しい現実をうけて、(「空洞化」懸念から)中小企業の海外進出に慎重だった政府や地方自治体も、2010年後半から積極支援へ政策転換した。しかし数値目標が先行しがちで、日本はアジアとどのようなものづくり関係の構築をめざすのか、将来ビジョンについての議論は必ずしも十分でない。

海外展開の新時代を切り開く指針として、①新産業の創出、②日本型ものづくりの国外での継承と発展、③町工場をグローバル企業に育てる、④後発国との対等なパートナー関係の構築、⑤ものづくりパートナー国の選定と集中的支援、を提案したい。技術オンリーだが可能性を秘めた町工場の国際化を、いろいろな支援機能を組み合わせて助け、またODAや経済協力も動員して現地の人材や裾野産業、組織を育てながら、彼らを担い手として日本型ものづくりをアジアで展開していく。日本の町工場をグローバル企業に育てていくこと、品質を作り込んでいく日本型ものづくりの核心をアジアへ伝えること――これらをセットで進めていくことが、アジアとの共創的な「ものづくりパートナーシップ」構築のあり方ではないかと考える。

そのためにも、日本型ものづくりに習熟した現地人材・組織の育成やネットワーク構築など、現地社会とのつながり深化が重要である。

「アジアの人と文化の交流―歴史的・文明史的視点から―」
近藤 誠一 近藤文化・外交研究所代表、前文化庁長官

地域、国、ひと、文化は、普段何の意識もなく使っている概念だが、それぞれどのような関係にあるのだろうか。

人類は数百万年の間に、独特の特徴をもった民族、文化を生んだ。文化は常にその底流に、人間として共通のものを保ち、境は常にあいまいである。それが次第に支配者同士の勢力争いによって、自然発生的な文化の広がりを無視した「国家」がつくられ、地球はそれらによって分割された。

暴力と支配の論理によって立つ「国家」は、17世紀以来の「近代主権国家」という概念によって固まり、今では当たり前のものとなった。しかし「国家」に代表される欧州主導の「近代文明」が行き詰まっているいま、我々はこうした「国家」の概念を見直し、国家、ひと、文化の関係を改めて考えるべき時期にきている。

一人一人が心の中に持っている善性を引き出し、それを横につなげることによって、主権国家が直面している限界を乗り越えることができるのではないか。アジア地域に人の善性がより伸びるような仕組みをつくる必要がある。具体的にはヨーロッパにある学生の留学・交流促進のためのエラスムスプログラム、そして若いアーティストを招いて自由に創造活動と交流をさせるアーティスト・イン・レジデンスを、大々的にこの地域に導入すべきである。

◇分科会での討論の概要

○第1分科会「東アジアにおける政治的コミュニケーションの再構築」
報告者:大西 裕(神戸大学大学院法学研究科教授)

最初に、公論外交を今後どのように展開していくかということで、日本国内の情報が十分発信されていないということ、また、インターネットを使って情報発信を、特に中国と韓国に対して行う必要性があるという議論があった。

2点目に、中国の立ち位置の複雑さを理解する必要があるという意見が示された。中国は、発展途上国であるにもかかわらず、非常に影響力のある大国であり、かつて世界の中心であったことへの憧憬が残っており、さらに、露骨に力に依存する傾向が現在も強い国である。そのような複雑な立ち位置にあることを理解しなければいけないということである。

3点目に、外国とのコミュニケーションを再構築するためには、日本国内の議論の整理も必要であり、戦後の清算が国民レベルでできていないので、例えば歴史教育をもう少し日本国内できちんと行うなど、日本国内での対話のインフラをつくっていくことが必要だという議論があった。

4点目に、政治的対話に向けて市民レベルで何かできることはないかということで、首脳レベルでの取り組みだけでなく、市民レベルで相互の国の信頼構築のベースになるような取り組みが必要であるという議論があった。

○第2分科会「経済の連携とネットワーク」
報告者:阿部 茂行(同志社大学政策学部教授)

最初に、現地にどのようなルールやリスクがあるかを企業にあらかじめ教える場がなければ、中小企業が海外に進出しても、それらの罠に引っ掛かってしまうという報告があった。

また、ASEAN(東南アジア諸国連合)におけるコモナリティについても、自動車という日本の生命線である産業に絡めた議論があった。ASEANで日本製自動車が成功した要因の一つは、アセアンコンプリメンテーション(the ASEAN Industrial Complementation)であり、エンジンはタイ、ミッションはフィリピンという、ある種の譲り合いのシステムを日本企業がリーダーシップを取って運営したことであり、今後もそういう配慮が必要という議論があった。

それから、タイ企業と日本企業と中国の国営企業が提携して世界展開していくという動きもある中で、東南アジアがもともと持っている比較優位性が顕在化してきており、パームオイルを足場にした化学製品など、アグリビジネス分野の研究開発が行われており、それに日本がどう関わっていくべきか、日本の技術は生かせるのかという議論もあった。

メード・イン・ジャパンとメード・イン・チャイナというブランドについての議論もあった。建設機械などは、中国製だと売れなくて日本製だとよく売れるので、今後は日本製(メード・イン・ジャパン)というブランドを磨くことが非常に大切になってくる。一方、コンピュータなどは、重要な機器は安全・安心を買うということで高品質なものの需要があるが、2~3年で壊れることが前提のものは中品質で十分という割り切りもあり、そこに中国製品の需要がある。従って、ものづくりにおいては、高品質、中品質、低品質のバランスを考えることが重要だろうという議論があった。

その他、連携・協力等はどうしても製造業に偏ってきているが、農業も非常に重要だという意見や、中小企業は信用情報が足りないので新興国での資金調達に困難さを抱えているから、そういう情報の収集・共有をきちんとやると中小企業の発展に資するだろうという意見、日本では陳腐化した技術でもアジアではすごく役に立つので、技術移転はどんどんするべきだという意見、高速道路の運営ノウハウなど、日本は先進国としてより広範囲のアドバイスできる力があるとの意見も示された。

最後に、多重的・多層的なネットワークづくりの重要性が、分科会を通しての重要な論点であった。ものづくりだけでなく都市づくりでの連携なども非常に重要で、政府、自治体、大使館、現地コミュニティなどが情報交換し、交流できるような機能をつくっていく必要があり、また、ソフト面のネットワークを発展させてリスクを未然に防ぐ努力も必要だろうという議論があった。

○第3分科会「アジアの人と文化の交流」
報告者:片山 裕(京都ノートルダム女子大学副学長)

最初に、日本から海外へ留学する、あるいはアジア諸国から日本に受け入れる学生の数は決して増えておらず、むしろ縮小傾向にあることは非常に問題である、これを何とかしなければいけないという議論で始まった。この問題の背景には、日本社会では留学が就職につながらず、むしろハンディになってしまう可能性があること、人的交流がフレキシブルではない人事制度があること、企業の意思決定システムが欧米的なものの見方や考え方を持つ人を無意識に排除してしまう傾向にあることなどが指摘され、また、文科省の政策にもあまり一貫性が見られないという意見も示された。

また、中国は多くの留学生・移民を海外に出しており、非常に強いネットワークをつくっていることから、2~3世代後にもなれば欧米における世論形成に大きな影響を与えることが予想される一方、日本は留学生だけでなく移民も含めて海外に出ている人が少なく、それが日本の国際社会における発言力やプレゼンスの低下にもつながっており、非常に深刻な問題であるという意見が示された。

一方、中小企業でも海外の人材を採用する例が増えており、最近ではICT(情報通信技術)やコンビニ業界などでも受け入れているという例が報告された。また、今の若者は確かに英語などを習いはじめたときには欧米志向であるけれども、むしろ古い世代よりもアジアへの偏見や先入観がないので、アジアの国々と対等な視点で交流する可能性も十分に開花させているという報告があった。

それから、日本が海外に人的交流や文化の面で対等以上に頑張れる例の一つとして、防災についての報告があった。防災で一番重要なのは命を守ることで、地域の生活や文化を理解することが非常に重要であること、日本は防災教育の分野で海外からの研修生をたくさん受け入れるとともに、海外に専門家を送っており、人的交流という意味で非常に積極的な役割を果たしていることから、日本は留学生が少ないからといって、必ずしも悲観するに当たらないという意見が示された。

留学生だけでなく人的交流面が依然として期待ほど大きくないことは、日本社会の多様性(ダイバーシティ)を深めるという意味では問題で、日本に男性優位社会の構造がいまだに残っていて、女性の活躍の機会が実質的にはなかなか広がらないという問題とも絡んでくる。海外から留学生だけでなくいろいろな人を受け入れる、あるいは海外へ送り出すことによって、日本社会の多様性を深め、今後の日本のグローバル時代における生存戦略の幅を広げることは非常に重要で、この問題は日本の移民政策とも深く関わってくるだろうという議論が展開された。

ページのトップへ戻る