第14回「アジア太平洋フォーラム・淡路会議」国際シンポジウムの概要

写真:第14回国際シンポジウム会場風景

プログラム
  • 日時
    2013年8月2日(金)
    13:00~17:10
  • 場所
    兵庫県立淡路夢舞台国際会議場
    (兵庫県淡路市夢舞台1番地)
  • テーマ
    「エネルギー安全保障-世界の状況と日本の選択-」
  • 内容
    • ○開会挨拶
      井植 敏
      アジア太平洋フォーラム・淡路会議代表理事
    • ○歓迎挨拶
      井戸 敏三
      兵庫県知事
    • ○第12回アジア太平洋研究賞(井植記念賞)授賞式
    • ○淡路会議開催趣旨説明
      阿部 茂行
      同志社大学政策学部教授
    • ○記念講演

      「エネルギーを巡る世界の動きと日本の課題」

       
      講師: 十市 勉
      (一般財団法人日本エネルギー経済研究所研究顧問)
      「アジア太平洋のエネルギー情勢と国際協力」
      講師: ミッカル・ハーバーグ
      (米アジア研究所(NBR)研究部長)
       「原発政策と日本経済再生のあり方」
      講師: 齊藤 誠
      (一橋大学大学院経済学研究科教授)
    • ○コーディネーター
      村田 晃嗣
      同志社大学学長

シンポジウムでは、井植敏 淡路会議代表理事による開会挨拶、井戸敏三 兵庫県知事による歓迎挨拶、アジア太平洋研究賞授賞式に続いて、阿部茂行 同志社大学政策学部教授による淡路会議開催の趣旨説明が行われ、そのあと、村田晃嗣 同志社大学学長をコーディネーターに、3名の講師による記念講演が行われました。

各講演の要旨については以下のとおりです。

◇記念講演「エネルギーを巡る世界の動きと日本の課題」の要点
講師:十市 勉(一般財団法人日本エネルギー経済研究所研究顧問)
  1. 高まる中東の地政学リスクとシェール革命

    世界の石油・天然ガス供給基地である中東では、民主化運動によって地政学的リスクが高まっている。日本は、石油の9割近く、LNGの4分の1をホルムズ海峡を経由する中東地域からの輸入に依存しているため、中東情勢によって非常に大きな影響を受けることになる。

    同時に、アメリカの「シェール革命」は、世界のエネルギー市場に劇的な変化をもたらしている。中東への石油依存度の低下により、アメリカは中東政策への関与を低下させていくのではないかという見方があるが、アメリカが中東政策で重視しているのは石油だけではない。ただ、アメリカ国内では、中東から大量の資源を輸入する日本・中国・韓国が、アメリカに代わって中東の安定化のための安全保障コストを負担すべきという議論が出てきている。

  2. 世界の原子力発電の動向と日本の課題

    福島事故後、引き続き原子力発電の開発を進めようとする国と脱原発を目指そうとする国がある中で、日本のエネルギー政策を考える上で直接的な影響があるのはドイツと中国である。ドイツの脱原発政策においては、コストや買取価格が産業競争力の足かせとなっていることや新たな高圧送電線の建設に対する住民の反対など、大きな問題に直面しているが、EU全体で見るとバランスの取れた電力構成となっており、ドイツ一国だけではなくEU全体でどのようなエネルギー政策を取っているかを考えるべきだ。中国は、2020年にはアメリカに次ぐ原子力大国になるとみられ、万が一、福島原発のような重大事故が起きた場合には、日本にその影響が及ぶことは必至である。したがって、原子力の安全利用については、周辺国を含めて世界規模で考えていく視点を持たなくてはならない。

    東日本大震災・福島原発事故により、エネルギー政策に対して大きく四つの教訓が示された。一つ目は、大規模集中型システムの脆弱性が露呈し、自然災害に強い分散型システムの活用が求められること。二つ目は、IT技術を使った省エネ機器の使用、電気料金メニューの多様化等を活用し、電力使用の効率化を図っていく必要があること。三つ目は、再生可能エネルギーを大量導入するためにも、電力系統の広域的な運用やスマートグリッドの普及を図る必要があること。最後に、原子力に対する国民の信頼を回復すべく、国・企業の原子力ガバナンスを強化し、安全規制、リスク管理、危機管理の抜本的な見直しをハード・ソフトの両面から進めていく必要があることである。

    福島事故後の全国の原発停止に伴う火力発電の増加は、経済だけでなく環境にも大きな影響を及ぼす。日本は2020年までにCO2排出量を1990年比25%削減することを国際公約としているが、達成は不可能とみられている。他方、EUやアメリカは削減目標を視界に捉えており、今後日本がこの問題にどう取り組むかは大きな問題になると思われる。

     今後、日本が原子力とどう向き合うかは、非常に難しい問題である。人間が作った技術である以上、リスクゼロは実現不可能だ。そこで、リスクトレードオフの視点を持たなければならない。原子力の場合は電気料金の上昇、立地地域の経済的打撃、地球温暖化などの他のリスクもあるので、社会としてどこまで原子力のリスクを受け入れるかを議論し、国民的コンセンサスを形成していく必要がある。

  3. 電力システム改革:多様性を持つエネルギーミックスと総合的戦略

    日本は今、広域系統運用機関の設立、小売全面自由化、送配電分離という方向性で電力システム改革を進めようとしているが、その一番の問題は、原子力政策をめぐる議論が不十分であることだ。原子力の位置付けの議論なしで改革はできない。電力の安定的な供給確保を図りつつ、発電小売市場の効率化や電力料金の引き下げを達成できるよう、民間の活力を生かして卸発電市場の活性化をどう進めるかが重要課題である。

    日本のエネルギー政策には、多様性を持つエネルギーミックスと総合的な戦略が求められる。まずは、地域共存で住民参加の仕組みを作り、省エネ・再生可能エネルギーの利用拡大を図る。同時に、天然ガスの安定確保と調達コストの引き下げを図る。さらに、再生エネルギー、スマートグリッド、蓄電池の研究開発、原子力安全や廃棄物処分などの技術革新と人材育成が必要である。また、総合的な視点でエネルギー戦略を考える政府の体制がこれまで以上に求められている。

◇記念講演「アジア太平洋のエネルギー情勢と国際協力」の要点
講師:ミッカル・ハーバーグ(米アジア研究所(NBR)研究部長)
  1. シェール革命がアメリカに及ぼす影響

    シェール革命により、アメリカにおけるタイトオイル生産量は6年間で8倍ほどに増え、これはクウェート一国分の石油生産量を上回る。2020年には1日当たり1,000万バレルのタイトオイルの生産が見込まれており、自動車の燃費規制導入により、国内の消費減少も見込まれているため、2030年には、アメリカは石油の純輸出国に転じると考えられる。しかし、現状の法律ではカナダ以外には原油を輸出できないため、輸出を解禁するか否かの議論が行われている。

    また、シェールガスについてもFTA締結国以外に輸出するためには、エネルギー省の特別な許可が必要とされるが、輸出に反対する環境保護論者や国内の天然ガス消費産業からの政治的圧力により、許可手続きには多大な時間がかかっている。現在計画中の輸出プロジェクトが全て承認されると、9,000万~1億トンの輸出がされることになり、市場に劇的な変化を及ぼすだろう。

  2. アメリカにとってのアジアのエネルギー安全保障

    シェール革命により、エネルギー価格が安くなり、競争力が高まり、中東への石油依存度が低下し、アメリカの中東からの独立性が高まっている。また、アメリカにおけるガス生産量の急激な増加は、アジアにとっても、より多様なLNG供給を受けられるようになるという利益がある。

    その一方で、アメリカが世界のエネルギー安全保障に果たすコミットメントは低下することが考えられる。なぜなら、アメリカのペルシャ湾に対する政策は、中東からの自国への安定供給を確保することと、石油価格の高騰による世界経済への損失を防ぐことを目的としているからだ。

    ヨーロッパでも、ロシアや中央アジア、アフリカからの供給があるため、中東依存度は低下してきている。他方、中東の石油の90%以上はアジアに供給されている。従来、シーレーンの安全保障にはアメリカが多大な役割を果たしてきたが、現状、中東からの供給に直接被益しているのはアジア、特に中国なのである。

    財政的制約からも、今後、アメリカの中東に対する関与は減っていくだろう。しかし、中東のシーレーンの安定性を確保するだけの軍事力を持っているのはアメリカだけである。アジアの繁栄はアメリカにとっても重要であり、その繁栄は中東からの安定したエネルギー供給なくして実現できないので、アメリカは撤退したいけれどもできず、石油価格の安定は依然としてアメリカの能力に依存することになると思う。

    アメリカのコミットメントが低下していく中で、日本、韓国、インド、その他のアジア諸国がどんな同盟関係を築いていくのか、日本とアメリカがパートナーシップとリーダーシップを発揮して、新たなエネルギー安全保障の仕組みを考える必要がある。同時に、北米からアジアへのLNG供給を強化し、IEA(国際エネルギー機関)のようなエネルギー機関を構築・強化して、地域間のエネルギー協力関係を構築することが重要である。

◇記念講演「原発政策と日本経済再生のあり方」の要点
講師:齊藤 誠(一橋大学大学院経済学研究科教授)

大きく変わろうとしている世界のエネルギー情勢への対応が迫られる中で、原発施設はある意味で負の遺産になっている。

使用済み核燃料や放射性廃棄物の処分、福島第一原発の廃炉など負の遺産を、最小のコストで最大限の安全を保ちつつ、どのように世界の環境に対応していくかを考えなければならない。

今のような状況で最適な政策を導くのは難しいため、2ndベスト、3rdベスト、下手をすると5th、6thベストの政策を展開していかなければならない。最適な政策を行ったかというよりも、共同体の中の人間がどこまで納得し、政策に関する合意形成を積み重ねてきたかが重要になる。

  1. 福島第一原発では、なぜ事態がここまで深刻になったのか

    格納容器の外にまで放射性物質が漏れ出してしまい、事態がこれほど深刻になった最大の理由は、原発施設の古さに起因している。福島第一原発の1~5号炉までは1970年代に稼働を開始したMarkⅠタイプの炉で、1980年代に稼働を開始した福島第二原発のMarkⅡという新しいタイプの炉では事故は起きていない。

  2. 再稼働をどう進めるか

    現在、泊、大飯、高浜、伊方、川内、玄海の各原発施設が安全審査を申請している。これらは日本の原発の中でも新しく、高性能のものである。柏崎刈羽も含め、こうしたところは十分に安全を担保した上で、再稼働を進めてよいのではないか。それと同時に、電力事業者は、発電能力が小さく、減価償却や廃炉費用引当をほぼ終えている1970年代に稼働を開始した原発の廃炉を進めていくべきと考える。

  3. 使用済み核燃料をどう処分するか

    わが国には既に1.7万トンの使用済み核燃料が存在している。それに加えて、イギリスやフランスに再処理を委託した際の高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)の処分もしなければいけない。加えて、再処理をすると1%のプルトニウムが出てくる。わが国ではこれを高速増殖炉や軽水炉で使おうとしているが、技術的な問題もあって進んでいない。使わないプルトニウムを持っていると国際世論の批判を浴びる。このようなことから、再処理前提の処分に関しても柔軟に考えていかなければいけない。私は、一部の使用済み核燃料については今までどおり再処理し、最終処分場を共用、併設して一部は直接処分を行うことにしてはどうかと考えている。

  4. 原子力賠償リスクをどう分担するか

    今回の事故の損害賠償規模が電力事業者の支払能力に比して膨大なものであることを考えると、何らかの形で公的関与が必要である。

  5. 福島第一廃炉事業をどう進めるのか

    今回の事故について、事実上、東電の無限責任とはなっていない。国は原子力損害賠償支援機構を設置して、交付金で5兆円を出す予定としている。

    一方、廃炉費用の引当7,000億円では、とても足りない。廃炉費用は不確定だが、これもどこかで処理しなければいけない。

  6. まとめ

    今ある施設をどのような合意を得て再稼働していくのか。今ある核のごみをどう処分していくのか。福島第一原発の事後処理をどう負担し、どのような組織で進めていくか。何とか納得しながら前へ進んでいくという意識を持って皆が現実を正しく共有できれば、日本経済が前へ進んでいく契機になるのではないだろうか。

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