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HATコラム

理事長 貝原俊民

貝原俊民
前兵庫県知事
財団法人兵庫地域政策研究機構理事長
1933年生まれ。東京大学法学部卒業後、自治省入省
1970年兵庫県課長、部長、副知事を歴任
1986年~2001年兵庫県知事
2006年4月から現職

3月11日に発生した東日本大震災は、阪神・淡路大震災を経験した私たちにとって人ごとのようには思えない。亡くなられた皆様、幸せな生活や住み慣れた街並みを一瞬にして奪われた被災者の方々のご心中を思うとき、胸がはりさけんばかりである。ここに改めて、犠牲となられた御霊に対し、心からなる哀悼の誠を捧げるとともに、厳しい生活に耐えながら、共に力を合わせて復旧・復興へのひたむきな努力を重ねておられる皆様に衷心よりお見舞いを申しあげたい。

想えば、わが国は、明治維新以来、欧米先進国へのキャッチアップをめざして国民の総力をあげて努力してきた。そして20世紀の終盤、自他共に先進国の仲間入りを果たして成熟社会となった日本は、阪神・淡路大震災と東日本大震災という二つの大震災によって大きな教訓を学んだ。その教訓の基本は、人類に経済的な豊かさをもたらしたルネサンス以降の近代文明が追求してきた「個の自由」と「科学技術」の影の部分を如何に克服すべきかということである。

公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構-HEM21は、阪神・淡路大震災の10年間にわたる復興過程の総括的検証を通じて、まさに、こうした近代文明のもつ2つの基本課題を中心に調査研究を行っている。

「個の自由」についていえば、それを謳歌する都市型のライフスタイルの脆弱性が、阪神・淡路大震災で顕在化した。孤立した被災者、特に高齢者は命を守れず、救助をされても地域コミュニティができていないところでは、衝撃的な孤独死が多発することとなった。か弱い人間同士、お互い助け合って生きていかなければならないのである。

このことから、「共生社会の構築」をキーワードに、これから高齢化が本格化するわが国にあって「長寿国にっぽん活性化」についての調査研究を行い、今年度は、日本型の福祉構造にふさわしいレジームの具体的な制度設計などについて提言をとりまとめていきたいと考えている。

「科学技術」についていえば、阪神・淡路大震災において、高速道路など私たちの生活を支える「巨大技術」が「巨大危険」であることを学んだ。東日本大震災における原発事故により、そのことについてさらに強烈な認識をもつこととなった。私たちは「科学技術」を自らの欲望を充たす手段として追求することはできるだけ慎み、自然環境の保全や人類社会の安全・安心のために活用すべきである。

このような認識に立って、「安全・安心」をキーワードに、ハードよりソフトを重視して人間が平和に生きるための技術を開発することとし、地域の災害対応能力を高めるための手引書となる「災害対策全書」の発刊や、災害対策についての国際協力のあり方についての研究を進めている。

さらに、この2つの基本課題と併せて、これらと密接に関連する実践的な「減災対策」及び「こころのケア対策」についても、専門的な調査研究を行い、その成果を広く発信しているところである。

ところで、東日本大震災は、地震・津波・原子力の複合災害であって、その対策は阪神・淡路大震災のそれより数倍も困難だと思われる。原子力災害はまだ進行中で、その収束がなければ、復興を本格的にできない状況である。しかしながら一方では、被災者の心身両面にわたる疲労が限界に近づきつつあり、被災者が明日への希望を託せる展望を示さなければならない時期でもある。

そこで、政府や地元自治体では、復興の枠組みづくりを始められているところであり、本機構としても、被災地の状況やニーズをしっかりと見極めながら、参考になると思われる知見や経験をお伝えするなど、引き続き情報発信に努めるとともに、本機構の五百旗頭真副理事長兼研究調査本部長が、4月11日に発足した「東日本大震災復興構想会議」の議長に、本機構の河田惠昭副理事長兼人と防災未来センター長がその委員に就任されたこともあって、積極的に連繋してその復興に寄与したいと考えている。

今後とも、当機構は21世紀文明の創造に貢献するシンクタンクとしての責務を果たすため、全力を傾注してまいる決意であるので、皆様方のさらなるご支援とご協力を願ってやまない。