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HATコラム

大学とニュータウン-地域との協働による社会実験型研究による再生へのアプローチ-

人と防災未来センター上級研究員 田中 淳

兵庫県立大学政策科学研究所 加藤恵正

1952年生まれ
神戸商科大学(現兵庫県立大学)大学院経済学研究科修了
経済学博士
兵庫県立大学教授 政策科学研究所長
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構研究調査本部上級研究員

日本のニュータウンでは、加速する少子高齢化が先鋭的に顕在化しているといっても過言ではない。その背景には、都市の拡大期のニュータウン建設時に適用した制度・仕組みが機能しなくなってきており、住宅数が過剰になるストック社会において、そのあり方を抜本的に見直す時期にきていることがある。

2009年1月、兵庫県立大学は神戸市垂水区と明石市にまたがる明石舞子(明舞)団地に兵庫県などと共同で「明舞団地まちなかラボ」を設置した。目的は、学生・院生と地域住民が協働で地域活性化に向けた提案や小さな実験を行うことにある。明舞団地は1964年にスタートした日本で最も古くからの住宅団地のひとつで、ピーク時の75年には人口が3.8万人、現在ではその6割にまで減少している。高齢化も加速しており、65歳以上人口は35%を超えている。地域の再生は、日本全国で顕在化している政策課題であるが、多様で問題が複雑に絡みあっているために、画一的な尺度で再生提案を見出すことは困難だろう。地域住民・自治会、そこで活動するNPO 等との協働で課題を見出し、小さな実験を繰り返し試みることで、安全・安心に暮らすことができる地域づくりが進んでいくと考えている。こうしたプロセスの一端を大学が学生らとともに担う拠点としラボを設置したものである。

ニュータウンは、居住者を中心に、住宅空間(居住・すまい)、経済空間(商業施設等)、社会空間(コミュニティ)そしてハードとしての物的空間によって構成されている。ニュータウンが計画・建設された時には、これら3者の関係はいわばベストな形であったといえるかもしれない。しかし、半世紀近い時間の経過のなかで、たとえば「居住者自身(高齢化、世帯構成の変化、退出・新規入居、価値観)」あるいはニュータウン周辺をも含む「物的環境」の変化のなかで、4空間の関係性に大きな「ズレ」が生じ、暮らしの満足・不満として顕在化することになってきたといえるだろう。

「都市の魅力は複雑な有機体のダイナミズムにある」。都市発展のメカニズムに鋭い洞察を提示したジャーナリストJ.ジェイコブスは、まちを見る視角をこのように表現している。一見場当たり的に見える都市の諸活動も実際には巧みに関連しあった相互依存の関係にある「整理された複合体」であり、結果として全体の均衡を生み出しているというものである。ニュータウンがかつて大都市の混雑問題解決のために設計された「居住空間」であったが、人口減少・高齢化、情報化、さらには世界の経済システムの急変による都市内部構造の構造的再編を受けて、かつてのニュータウンから新たな都市内部の創造的「場」としての再生が期待されているといってよい。

明舞団地まちなかラボでの成果はまだこれからであるが、学生らからは、たとえば「ベッド・タウンからニュータウンへの構造的改革が必要-明舞団地に新たな機能の導入を」など「ベッドタウンであったまちを「働く」機能をもった本来の「ニュータウン」へと変身させてはどうか」といった大胆な提案も出始めている。サステナブルなまちづくりの基本は、多様な機能が相互に強く連関する構図をデザインすることにある。働く場所、学びの場の立地などがその課題となる。その際、住宅地としての土地利用の変更や新たな機能導入のためのビジョンが必要である。具体的には、「ベンチャー・ビジネス起業家タウン」の設置。ここでは、オフィスと住宅を一体的に提供することで職住近接を実現し、低炭素社会に寄与するモデル地域とする。社会的な課題である高い失業率が続く若年層への起業支援を行うが、その際、大学との連携による学ぶ場の確保は要件であろう。この大学や学部では、ベンチャー・ビジネス起業家養成、地域再生やまちづくりの専門家養成を行い、ケース・スタディ地区として明舞団地を再生の実験場にしてはどうかというものである。

これ以外にも、明舞団地全体が過疎・高齢化に悩む農山村地域と一体化するという提案もある。日本では、転居など移動に伴うリスクとコストは、顕在化しない隠れたものを含めると大変大きく、これが人々の「移動」を妨げている。明舞団地と農村地域が一体となって、この障壁を最小化し相互の地域同士があたかもお互いの別荘(セカンド・ハウス)のような行き来・利用が可能になる仕組みをつくってはどうかというものである。

紙幅の関係もありこれ以上紹介できないが、今後、地域団体や再生に取り組んでいるNPOなどと連携しながら、地域協働型まちづくりの実験的実践と研究を行っていく予定である。