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HATコラム

家族を形成できる自由の保障

研究調査本部研究統括 野々山 久也

人と防災未来センター 上級研究員 林 春男

1951年生まれ
カリフォルニア大学大学院心理学科博士課程修了 Ph.D.
京都大学防災研究所 巨大災害研究センター 教授
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構 阪神・淡路大震災記念
人と防災未来センター 上級研究員

9.11とハリケーンカトリーナからの復興の進み具合を確認する毎年恒例にしている旅に、2月の末から3月にかけて行ってきました。ニューヨークでは、10年後に初めてWTCの跡地に入ることができました。倒壊した2つの建物の場所が”Void”と称する何もない滝が流れ落ちる空間に整備されると共に、新しいビルの建築も始まり、ローワーマンハッタンは大きく姿を変えようとしています。そこに再生を感じました。

ニューオーリンズの様子も大部変わりました。もっとも被害がひどかったLower 9thWard地区にも少しずつ家が建ち始めました。俳優のブラッドピットが推進する住宅再建プロジェクトの貢献が大きいようです。ニューオーリンズで注目すべきもう一つの変化としては、フレンチクォーターのジャクソン広場に面して建つ”Louisiana State Museum”で、ハリケーンカトリーナに関する展示が2010年の10月から始まったことです。
(内容の詳細はwww.neworleansonline.com/news/2010/Nov/katrina.html

”Living with Hurricane: Katrina & Beyond”と題するこの展示は、1階の4室全てを使った展示で、総合テーマとして掲げられているのが”Resilience”です。言い換えれば、この4室の展示を通して”Resilience”という概念を具現化していました。第1室では、ニューオーリンズを襲った過去の災害の紹介に始まり、当日のニューオーリンズの様子が映像で映し出されています。第2室では、被災者のさまざまな体験が紹介されています。第3室は防災のあり方を4つの側面から取り上げています。ハリケーンについての理学的解説、堤防補強を中心とした工学的解説、FEMAの対応を中心とした社会科学的解説に加えて、”Wetland Protection”という概念を使って、生態系を守ることが防災につながることが解説されています。最後の第4室では、再生への決意が紹介されています。その中核が”Multiple Lines of Defense”と名付けられた多重防御の考え方です。低予算ながら、よくまとまった見ごたえのある展示になっていると感じました。

阪神淡路大震災からの復興を考えた時、兵庫県は手塚治虫氏の描く「フェニックス」を復興のシンポルに選びました。手塚氏が宝塚のご出身であるだけでなく、灰の中から再び美しい姿でよみがえる、再生のイメージが決め手だったと思っています。ニューオーリンズで”Katrina & Beyond”の展示を見て、苦難の中から再びよみがえることを目指そうとする阪神淡路大震災の時と同じ想いを感じました。その想いを彼らは“Resilience”と名付けたのです。この展示を通して“Resilience”という言葉のもつ重みや広がりを実感することができました。同時に、阪神淡路大震災からの復興にも通ずるものを感じました。

“Resilience”は21世紀の世界の防災を語る上でもっとも重要な概念です。2005年に神戸で開催された世界防災会議の際に、今後の防災が目指すべき目標と位置づけられました。この会議の成果として兵庫行動枠組みが採択されました。その中でも“Resilience”は中心的な概念として、2005年から2015年までの世界の防災を考える際に不可欠な概念となりました。英語圏では、流行とも言えるほど防災のさまざまな分野で目にする言葉になりました。最近、わが国でも「回復力」「恢復力」「復元力」あるいは「レジリエンス」として、よく使われるようになりました。しかし、これらのどの言葉は、残念ながら私の中では”Katrina & Beyond”が訴えようとする想いと重ならない、「薄っぺらな表現」に思えるのです。世界の人たちは阪神淡路大震災からの復興を高く評価してくれています。それを科学的に記述しようとする私たちの試みも高く評価してくれています。こうした試みを他の甚大な災害からの復興や再生と比較しながら、”Resilience”の「中身」として、体系立ててわかりやすい言葉で具体化することが必要なのだと思います。兵庫行動計画は”Resilience”を産みました。次の10年の計画は”Resilience”を具体化するものだと思います。そのリーダーシップはやはり日本が取るべきであるとも思っています。