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HATコラム

東日本大震災での液状化による住宅被害で考えたこと

副理事長兼研究調査本部長 室﨑 益輝

人と防災未来センター上級研究員 岡 二三生

京都大学大学院博士課程修了
京都大学大学院工学研究科教授
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構 阪神・淡路大震災記念
人と防災未来センター上級研究員

2011年3月11日14時46分に発生した平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震は、東京湾岸では埋め立て地を中心に、42㎢に及 ぶ広域に液状化現象を発生させ、千葉県などに多くの液状化現象による被害をもたらした。特に昼間であったため、ビデオや写真での記録も多い。私も千葉にいる子供から15時28分に電話で連絡を受けたが、同時に映像も見ることができた。

噴砂の発生、地盤の不同沈下による建物傾斜、ライフラインの利用停止などが発生し、生活に大きな影響を与えた。戸建住宅では、傾斜、不同沈下や沈み込み、ライフラインの被害が発生。マンションなどの大規模な集合住宅では、建物の被害は軽微であったが、周辺の駐車場、上下水道などのライフラインが損傷した。戸建て住宅と集合住宅はともに、周辺の道路が液状化で損傷し、生活に支障が出た。

大規模な集合住宅の被害が軽微であったのは、杭基礎や地盤改良、砕石ドレーンなど有効な対策が取られていたためである。一方で、戸建住宅では建物傾斜および不同沈下による建物被害が大きかった。この原因は、埋め立て地や緩い砂地盤の宅地で、最大加速度は比較的大きくなかったにも関わらず、地震動継続時間が長かったためである。

地震動は継続時間が長く、千葉県東京湾沿岸での地震動は最大加速度187gal程度だったが、継続時間は2分以上であった。液状化に影響の大きい50gal以上の継続時間も55.59秒(CHB009〈K-NET千葉〉)と長いことが、液状化を助長した。また、29分後の最大加速度約76galの余震の影響も大きかった。震度は成田市で6弱、浦安市、千葉市美浜区で5強であり、阪神・淡路大震災では50gal以上が約22秒であったことを考えると長い。

液状化現象の発生地点としては、埋め立て地と三角州海岸低地で50%以上であり、これまでの傾向とそう変わらない。特に浦安など東京湾岸(千葉県)での埋め立て地で被害が大きかった。土地改変の年代区分をみると、1945~70年代、70~80年代に土地改変が行われたところで被害が多い。再液状化についてはマスコミからの問い合わせが多かった。過去に液状化が発生した地点では、再び液状化が発生する傾向が見られた。この理由は、液状化が発生した地点は、微地形上発生しやすい地点であること、液状化によって地盤の沈下による圧縮が発生するが、それによる密度の変化は地盤の深いところであり、表層は乱れもあるため、圧縮による地盤の強化は少ないことなどが考えられる。

液状化被害による健康被害については、1964年の新潟地震以降本格的に始まった。特有のものとして、傾斜による視覚障害や平衝感覚障害でめまいや吐き気などが生じる。個人差はあるが、傾斜が100分の1以上で障害が起こると考えられ、昨年の傾斜による被害認定では、100分の1で半壊と認定されることになった。

今回、地盤被害による住家の被害認定の見直しは迅速に行われた。2011年5月2日の「地盤に係る住家被害認定の調査・判定方法について」によって、新たに被害の認定が決まった。特徴は、大規模半壊が傾斜によって判定されるようになったことと、潜り込みによっても被害認定が行われるようになったことである。床上1mは全壊である。

では、宅地の液状化に関する法制度はどのようになっているのだろうか。まず、宅地造成等規制法と都市計画法があるが、盛土の締固めなどの対策が義務付けられている。ただし、地盤の沈下や崩壊に対するものであり、液状化については完全なものではない。次に、公有水面埋立法では災害防止に十分な配慮をすることが明記されているが液状化に対する言及はない。住宅の最も重要な法である建築基準法では、施行令第38条で建築物基礎の安全性の確保が規定されており、93条(2001年改正)で液状化の検討が盛り込まれたが、木造2階建てなどの4号建築物では提出図書の省略が認められており、大半の一戸建住宅には反映されない。さらに、国土交通省告示第1113号では、地盤の調査方法や支持力の決定法が示され、液状化の恐れのある地盤や軟弱な地盤に対しての支持力の定め方が規定されているが、対策法などは明示されておらず不十分である。このように、宅地の液状化に対する法的な制度は十分ではなく、制度として安全が確保されてはいない。今回の液状化被害では、住民は法制度の改善を望んでおり、液状化被害を受けた住民から分譲販売した企業が提訴されるまでに至っている。では、住民の意識はどうであろうか? 

震災後行われた住民へのアンケートやヒアリング結果を見ると、この程度の地震では液状化被害は小さいとの期待があったと思われる。つまり、このくらいの地震では液状化による被害を受ける可能性は低いと考えていたことになる。このような規範的期待が裏切られると感じる場合、つまり公共的な規則への疑いを持つ場合は、同様な経験をした他の者との主観の共有へつながり、不満の蓄積となる場合も多い。その対応を見失わせることにもなる。さらに、それは政治や行政への不信、地域コミュニティーの崩壊につながりかねない。

まとめると、東京湾岸を中心に液状化による住宅被害が多発した。この原因は、軟弱な地盤に継続時間の長い地震動が作用したことと、住民や行政にはともに、液状化についての知識はあったが、ここまでの被害を想定しておらず、対策が不十分であったことによると思われる。さらに、一戸建て住宅に対しては、建築基準法などの法制度が不十分であることに加え、経済的な対策方法が開発されてこなかったことも大きな原因であり、既設住宅の対策の選定は現在も難航している。今回の被害は、住民の規範的期待を裏切るものであるといえよう。つまり、住民が住宅はこの程度の地震では大丈夫だと思っていたことに対して、建築基準法など現在の法制度がその期待を裏切っているためで、今後は、住民が対策法等のいくつかのメニューからそれぞれの実態にあった方法を選んでも大きな被害は受けないような取り組みが必要であろう。従来に比較し、今回、国や自治体の対応は早かったが、対策の提示や支援制度等のさらなる改善が望まれる。また、多くの機関で被害調査や対策法に関する検討がなされ、その結果が公表されているが、宅地の液状化による住家の問題は基本的に個人の住宅に関するものであるため、住民の意識の把握にもっと力を入れるべきではないだろうか、この点は再考の余地が大きいと考えるがいかがでしょうか。