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HATコラム

「地」域創造のすすめ―真のソーシャル・イノベーションとは―

副理事長兼研究調査本部長 室﨑 益輝

研究調査本部上級研究員 佐竹 隆幸

1960年生まれ
関西学院大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得
博士(経営学、兵庫県立大学)
兵庫県立大学大学院経営研究科長・教授
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構研究調査本部 上級研究員

今日の日本経済は、経済構造再構築とメガコンペティションの時代を迎えており、企業行動、産業政策においても転換期を迎えている。こうした転換点はいわゆる日本経済の構造的な変化である。世界的な経済活動のボーダレス化が進む中で、日本の高度経済成長の基盤をなした加工貿易型システムが維持できなくなり、国際貿易での為替取引における円高の進行を通じて、生産拠点の海外移転、いわゆる産業空洞化が進んでいる。一方、日本の社会現象をみると、高齢人口労働力は定年が一般的に65歳になりつつあるが、少子化により年金財源確保は破綻の可能性を孕(はら)み、さらなる負担配分についての検討等社会保障改革が急がれている。また「食」の安全保障を支えるべき第1次産業従事者は減少傾向にあり、加えて高齢者がその半数以上を占めている。さらには消費税増税による日本経済への影響、原発とエネルギー確保の問題など日本経済が抱える問題は数多い。このような経済環境に影響を受け、地域経済は疲弊している。しかし地域経済が活性化しなければ、日本経済全体の発展も望めない。

地域の自主財源を生み出すためには、「地域内再投資」の循環を活用することが求められる。「地域内再投資」の循環によって、地域におけるネットワークの住民、企業間の人的関係の基盤となる信頼をより強固なものにしながら、経営体験の交流・取引・情報提供と経営資源の共有を通して、さまざまな地域の課題解決の処方箋を導き出すことが必要となる。

その処方箋になり得るものとして考えられるのが、「ソーシャル・イノベーション」である。ここで重要となるのが、「地域」に潜在的に内包されるさまざまな社会的ネットワークや既存経営資源が持つポテンシャルでだ。ポテンシャルを引き出すためには「地域リーダー」の育成、収益性をも確保できる優位性を有するコア・コンピタンスの抽出、経営資源の獲得と蓄積、などが必要となり、経営資源の地域還元として地場の関連機能の強化のために再投資される。ここで生まれる好循環によって地域活性化が可能となる。

以上の目的を実現するため、地域内部の社会経営資源の再編成、これに呼応する地域外部との緊密な連携など、巧みで稠密(ちゅうみつ)な内外のパートナーシップの形成、すなわち「連携の架け橋(エンゲージ・クリエイション)機能」を強化し、「イノベーション・コラボレーション」を進めていくことが不可欠となる。地域経済力の蓄積を豊かにすることによって、地域企業・団体の存立基盤を強化し、グローバル事業継続力も獲得することで地域経済の再生・創造を実現する。

この基盤となるのが「ソーシャル・イノベーション」である。地域において「ソーシャル・イノベーション」を創出することは、地域経済に貢献しつつ、企業も成長・発展していくことにつながり「仕事づくり・人づくり・地域づくり」を支えることになる。活力ある豊かな地域や社会を創るためには、「一人ひとりが輝く地域社会」としての幸福社会の実現を目指し、社員・顧客・産業・地域にとって必要不可欠な「なくてはならない企業」の存在が不可欠である。つまり経営理念を基盤にし、優れた技術や製品、サービスに頼るのではなく、卓越したビジネスを実践し続けることのできる企業の存在が必要なのである。

東日本大震災は日本に大きな打撃を与えたが、まさにこの震災は文明が大転換期に突入した啓示そのものであり、人がお互いの幸福を尊重し合えるような文明社会を築いていくために、企業としてどう貢献していけるのか、可能性を真摯に考え、経営理念や方向性を明確にすることが重要であることに気付く機会となったのではないだろうか。文明を一国の政治、経済、軍事、技術、文化と整理すれば、今日の日本の繁栄は経済、技術によってもたらされたと理解できる。だが日本が先進国への仲間入りを果たして以降、経済がグローバル化する中で日本経済は光を失っていったように見える。必要なことは、企業も地域も自らを本質から問い直し、顧客や他の地域との間に新しい関係を発見し、事業を再定義す る中で新たな価値を創造することである。活性化の根底にあるのは、日本人らしい気配りや感謝の気持ち、創意工夫や頑固なまでの仕事の流儀、共同の精神、郷土への愛、そして日本人ならではの美意識である。日本経済の再生の鍵として、文明を構成する「文化」に光を当て、世界標準化によって個性を失った企業や地域を、再度、日本文化よって裏付けし直し、再構築することが重要である。「地」的経営によって、内需を活性化させ、企業や地域を富ませることこそが、日本に残された成熟国家の進むべき道ではないだろうか。