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HATコラム

「地」域創造のすすめ―真のソーシャル・イノベーションとは―

副理事長兼研究調査本部長 室﨑 益輝

研究調査本部政策コーディネーター 大西 裕

1965年生まれ
京都大学大学院法学研究科博士後期課程退学
博士(法学、京都大学)
神戸大学大学院法学研究科教授
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構研究調査本部 

阪神・淡路大震災の時、筆者は大阪府池田市に住んでいた。池田市は被害のひどかった地域ではないが、自室内の立て付けの悪かった本棚は倒れ、家の壁には一面にひびが入っていた。地震後しばらくの間、電話は通じず何が起こっているのかほとんど分からなかった。テレビもまた、被災の状況を大きくは報道しなかった。それは、被災地の状況を被災地が把握できないことからきている。地震直後の世界は静寂が漂う。都市機能が麻痺し、情報発信もままならないからである。
大地震による被害は、被災地域に壊滅的な影響を与える。いつもなら救援活動を行うはずの行政組織も被災し、機能できない。それ故に被災地外部からの大規模な支援を、しかも緊急に行う必要がある。兵庫県が直接経験した阪神・淡路大震災時に私たちはこうした支援を受け、その必要性を痛感し、以降、東日本大震災に至るまで各地の震災に支援をしてきている。行政による支援は通常、都道府県単位、市町村単位で行われるが、東日本大震災で私たちは新たな枠組みでの支援を行った。それが関西広域連合での支援である。

関西広域連合は、関西および近隣地域である、大阪府、京都府、滋賀県、鳥取県、徳島県、兵庫県、和歌山県の2府5県で結成された。広域連合は府県をまたぐ広域行政を推進し、府県で扱うことのできない広域的な事務、権限の受け皿になろうとしているが、平成22年12月の発足後まもなく、東日本大震災に直面することになった。支援体制の構築と実際の支援開始は迅速で、岩手県には大阪府・和歌山県、宮城県には兵庫県・鳥取県・徳島県、福島県には滋賀県・京都府と定めて支援を行うカウンターパート方式を採用し、物資を送付、職員を派遣し、避難者を受け入れていったのである。我々自身の被災経験を踏まえ、応援要請がある前に需要を掘り起こしていった点も重要である。担当を決めたことで継続性と機動性も確保できた。これらは、震災に際して自治体間広域連携の重要性をあらためて認識させることに なった。

しかし、今回の広域連携は、いわば反射神経で動いたようなところがあり、あらかじめ計画され、準備してきたものではない。広域連合が機能したのも、いくつかの偶然が重なった面が否定できない。行政組織は本来、平時に機能するよう作られており、突発的事態が頻発する震災のような非常時に機能するのは本来得意なわけではないのである。

地震をはじめ自然災害が多い日本では、今後も大規模な災害が発生する可能性が高い。とりわけ、東南海・南海地震など発生が確実視される災害にいかに対処するか、広域連合などの自治体間広域連携をどのように活用すべきか、今の間に検討しておく必要がある。

私たちは、このような問題意識から、「災害時の広域連携の役割の考察」と題して今年度より研究を開始した。焦点は、東日本大震災で広域連携の枠組みとなった関西広域連合の形成過程と、震災で果たした役割の検証である。震災で広域連合は大きな役割を果たしたが、できたこともあればできなかったこともある。広域連合は現時点ではほとんど手足がなく、具体的な政策実施は府県や市町村に依存せざるを得ない。何ができ、何ができなかったのか。市町村連携や国による支援に比べてどういうメリットがあるのか、改善すべきとすればそれは何か。広域連合による支援の特徴は、広域連合のいかなる性格に由来するのか、その性格はどのように形成されたのか。FEMAなどの諸外国における災害支援活動と比較するとどうなのか。私たちは、こうした教訓を今回の経験からできるだけ多く引き出していきたいと考え、行政を研究対象とする研究者を中心に研究を進めているところである。

自然災害そのものは防ぎようがない。しかし、阪神・淡路大震災直後のような沈黙と苦痛、不安に耐えるだけの状況を一刻も早く抜け出させ、希望を与えるという仕事を、行政はある程度担えるはずである。調査、分析を進めていきたい。