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HATコラム

ローカルガバナンスが創る共生社会

研究調査本部政策コーディネーター 松原 一郎

研究調査本部政策コーディネーター 松原 一郎

1950年生まれ
関西大学大学院社会学修士
アメリカ ウィスコンシン大学社会福祉学大学院修士
関西大学社会学部教授
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構研究調査本部
政策コーディネーター

共生社会を阻むもの
自立・自助は社会のエートスとして根強く存在する半面、高齢者への私的扶養から社会的扶養への移行に見られるように、われわれの生活は相互関連性(共生)により成り立っている。
わが国の福祉国家としての歩みは公助を基本としてきたが、経済の停滞や新自由主義の台頭とともに民営化や福祉の見直しが登場し、福祉国家の変容が顕在化して久しい。さらに、人々の生活を守り育んでいるのは政府だけではなく、同時に市場万能ではありえないという認識が深まっていく中、公共性を担った市民セクターの躍進が顕著である。グローバル経済の進展の下、経済不況や雇用のさらなる不安定化により貧困だけではなく、格差や社会的排除という共生社会構築に当たって避けては通れない障壁が存在している。

「ナショナル」から「ローカル」へ
公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構においては、2009年度から3年にわたり「共生社会の構築」という大テーマの下、「長寿国にっぽん活性化戦略」の研究を行い、その成果を提言やシンポジウムという形で積極的に発信してきた。この「活性化戦略」の各論ともいうべき8つのプロジェクトも多いなる研究成果を生んだ。(11年度末) これらの成果と社会への貢献に鑑み、また、なにより、わが国が直面しているある種の社会的閉塞状況を打開する処方箋の必要性を考えるならば、この重要なテーマを継続して探究すべきだとした。
研究の新段階に臨むに当たり、これまでの研究プロジェクトや提言が「ナショナル・レベル」での議論であったことと、さらに地方主権・住民主体という今日の流れを認識するならば、地域社会とそこに住む市民、種々の組織からなるコミュニティや、より大きな地理的・社会的単位である都道府県にまで連なる「ローカル・レベル」に調査・研究対象をシフトすることが望ましいと考えた。
とりわけ当研究機構が政策研究に大きく貢献してきた経緯を踏襲するならば、当然今回は、その研究果実の還元先を市民・公益的市民組織・自治体・企業など共生社会の構築の重要な役割を果たすアクターたちに射程を据えることとなった。

「ローカル・ガバナンス」への視座
健康で文化的な日常生活を送ることを阻害するアンフレンドリーな社会変動に対し、これを克服しようとする対抗的思想および制御しようとする営為のことを「ソーシャル・ガバナンス」と呼ぶことにする。本来これは自律的であり、創造的な営為の総体として捉えられる。この研究会では、この概念を地方・地域社会や生活者領域における営為の発露に限定して検討することとし、これを「ローカル・ガバナンス」と規定した。
アンフレンドリーな社会変動とは、例えば、以下のようなことが挙げられる。
・グローバル経済の進展
・雇用の不安定化
・家族形成・維持の困難
・デモクラシーの形骸化
・ボランタリー・セクターの成長不全
・人権保障の衰退

これらに挙げられている社会変動の影響は、地方・地域社会や生活者領域にリスクとなって現れている。
当研究会では、そのリスクを克服するために必要な施策を、専門領域をまたぐ横断的な検討を通じて提言することを目標としている。

研究のテーマとメンバー
当面、研究会の以下の課題に向き合っていく予定である。
1)「ローカル・レベル」において、行政が対応できていないリスクとは何かを把握する。
2)リスクに対応する中間的集団・組織に着目し、その役割について検討する。
3)多様な意思決定の仕組みについて検討を加える。
4)中間的集団・組織をサポートするための政策を提言する。

研究会メンバーは、田端和彦(兵庫大学・教授)、神吉紀世子(京都大学・教授)、南島和久(神戸学院大学・准教授)、実吉威(市民活動センター神戸理事・事務局長)、穂苅耕介(ひょうご震災記念21世紀研究機構主任研究員)と私自身を含めて6人であるが、毎回エネルギッシュに、また学際的に議論を深めている。
しかしながら、これだけの大きなテーマに対応するには研究会の力だけでは及ばないので、市民公益団体、行政組織、企業に呼び掛け、研究サポート会員(無料)を募り、WEB上での双方向な議論を深めていくつもりである。
加えて、その方たちと対話を深めるために、21世紀文明研究セミナーにもお越しいただき、直接お知恵を借りたいと望んでいる。