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HATコラム

「震災復興の教訓の伝承と進展」

室﨑 益輝(副理事長兼研究調査本部長)

人と防災未来センター上級研究員 室﨑 益輝

1944年生まれ
京都大学大学院工学研究科修士課程修了 工学博士
ひょうごボランタリープラザ所長
兵庫県立大学防災教育センター長、神戸大学名誉教授
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構 副理事長兼研究調査本部長

災害が大規模で被害が深刻なほど、復興での苦難が大きくなる。復興の苦難が大きくなると、それを乗り越えるための社会的な復興バネの必要性が高くなる。ところで、この社会的な復興バネについて見ると、阪神・淡路大震災の復興では、以下にみるようなさまざまなバネが生み出されている。

阪神・淡路大震災では、行政と被災者をつなぐ仕組みとしての「中間支援組織」、復興での自治と創造性を育む財源としての「復興基金」、被災者に寄り添って暮らしの再建を図る「支援員派遣」、被災地と被災者の活性化を図る機動力としての「コミュニティビジネス」などが、復興バネとして大きな役割を果たしている。それらに加えて、震災の体験と教訓の伝承を図る「震災の語り継ぎ」も復興バネということができよう。

これらの復興バネは、震災復興を成功裏に進めるために欠かせない重要な要素であり、世界と未来に発信すべき復興の教訓だということができる。ところで、この社会的な復興バネの発信ということに関して、私は「復興バネの数珠つなぎ」ということを常に意識している。大災害からの復興の中で生まれた復興の知恵や仕組みを、前の被災地から次の被災地へと次々に伝え、それらの継承により復興の進展を図るのである。

ところで、この復興の知恵とバネの継承では、神戸から台湾、台湾から中越へというかたちでの、復興の伝承と進化を確認することができる。例えば、阪神・淡路大震災では、行政レベルの「復興基金」や市民レベルの「HAR基金」が大きな役割を果たしたが、台湾ではこの経験に学んで「921復興基金」というものをつくって、被災地支援に役立てている。さらにそれを受けて、中越地震後の復興では、さらに進化した「中越復興基金」をつくり、復興の推進に役立てている。

阪神・淡路大震災の復興で芽生えた、被災者の生活の見守りを図る「生活支援員」の制度は、それに復興まちづくりのコンサルタント派遣の成果をも吸収して、921地震後の台湾では、より包括的な支援システムとしての「復興支援員」の制度に進化させている。この台湾の復興支援員の制度が、中越の復興でさらに進化され、中越や中越沖さらに東日本での復興の大きな力となっていることは、ご承知のとおりである。

阪神・淡路での「コミュニティビジネス」は台湾での「エコツーリズム」に受け継がれ、さらに中越での「地域活性化復興事業」へと受け継がれていっている。阪神・淡路での「被災者復興支援会議」は台湾での「921重建基金会」に受け継がれ、さらに中越での「中越復興市民会議」に受け継がれている。阪神・淡路での「人と防災未来センター」は台湾での「震災記念防災教育園」に受け継がれ、さらに中越での「フィールド震災ミュージアム」に受け継がれている。

こうした復興バネの中には、トルコや四川に受け継がれたものも少なくない。震災伝承でのトルコの「ブルサ県の復興館」、経済復興での四川の「復興ツーリズム」などがそうである。こうした数珠つなぎの事例を見ると、地域を超え国境を超えた震災教訓の伝承がいかに大切かが分かる。時代や地域の違いを十分に考慮した上での復興の教訓の創造的伝承が、大災害後の復興では欠かせないのである。東日本大震災の復興でも例外ではない。

ところで、復興がまだ緒に就いたばかりなので性急な評価はできないが、東日本の被災地への教訓の伝承が思うように進んでいないように思う。例えば、東日本でも復興基金が設けられたが、その使い勝手が悪いため復興の創造的進展につながっていない。それは、草創期の基金の理念が伝わっていないからである。形式だけを受け継いでも理念を受け継がなければ壊れたバネのようなもので、創造的復興にはつながっていかない。

こうした状況の中で、東北の被災地での復興の教訓の正しい伝承を図るために、当研究機構では、阪神・淡路大震災での「移動井戸端会議」の経験に学んで、東北の被災現地で「復興円卓会議」を繰り返し開催し、被災者の声を吸い上げる復興バネの構築に努力している。東北の被災地の中で、復興の教訓の継承と進化が図られなければ、東北での復興の成功はありえないと考えるからである。