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HATコラム

「ソーシャルキャピタルを高める地域活動を通じた住みよい地域づくり」

金 政芸(研究調査本部主任研究員)

金 政芸(研究調査本部主任研究員)

1980年生まれ
同志社大学大学院社会学研究科博士課程前期課程修了
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構研究調査本部
主任研究員

東日本大震災直後から「きずな」という言葉が全国的にはやり、コミュニティへの関心が高まった。「地域における人びとのつながり=コミュニティ」の持つ力が、災害時に命を守り支えることを、人びとが再認識したのであろう。しかし、コミュニティは災害時のみならず、普段の暮らしを支える場でもある。コミュニティは地域の人びとが持つ多様な暮らしのニーズに応えるものである。このようにコミュニティは、日常から災害時に至るまでその地域に住む人びとの暮らしにおいて非常に重要な役割を果たしている。要するに、コミュニティの力が住み良いまちづくりにつながるのである。

私が当機構で今年度から携わってきた「過疎と都市への集中の両極化が進む中でのコミュニティづくり」の研究会では、コミュニティづくりのカギとなるものとして「ソーシャルキャピタル」に注目して研究が進められてきた。ソーシャルキャピタルという概念は、平たく言えば、互いを信頼し助け合えるような人同士の関係性を一つの資本として考えるものである。先に述べた「きずな」という言葉は、まさにこのソーシャルキャピタルを指しているともいえるだろう。アメリカの政治学生であるロバート・パットナムは、このソーシャルキャピタルを「社会の効率性を高めることができる」集団の共有財として捉えている。つまり、ソーシャルキャピタルという資本をたくさん持つ地域ほど、その地域の効率性が高くなるため、より住み良いまちづくりが可能となると考えられるのである。

ソーシャルキャピタルを通じたコミュニティづくりを考える際には、考慮しなければならない事柄が2つある。第1に、地域のソーシャルキャピタルを高めることができる取組みに何があるかという問題がある。住み良い地域づくりのためのさまざまな取り組みの中で、ソーシャルキャピタルを高めることができる取り組みとしては次のようなものが挙げられる。すなわち、①住民同士であいさつをすること②地域の興味・愛着を深めたり、地域課題を共有すること③イベント・活動を開催すること④地域の自律力を高めるための取り組み⑤活動への多様な住民参加である。第2に、それぞれの地域の持つ固有の特性が何かという問題がある。地域の特性としてまず考慮が必要なのは、地域の高齢化や過疎化の度合いだろう。郡部では、人口減少により生活基盤施設が不足していき、若者がまちを出ていく中で、地域に住む高齢者たちの生活をどう支えていくかが問題となっている。都市部においても限界マンションが急速に増えていくなど、こうした高齢化と過疎化の問題は他人事ではなくなっている。また、地域における人口の流動性について検討する必要もある。例えば、郊外のニュータウンでは、人口の増加率が高く高齢化率も低い場合が多いが、昼間には都心に通勤・通学する人が多く住民の居住年数も短いため、人びとが地域の活動にあまり興味を持たない場合が多い。

こうした事柄を踏まえながら、ソーシャルキャピタルを通じたコミュニティづくりがいかにして可能になるかを確認するために、兵庫県の神戸、東播磨、丹波、淡路の4地域でアンケート調査を実施し、それを2010年の国勢調査の結果と合わせて、小学校区単位の計量分析を行った。分析では、先に述べた5つの取り組みがソーシャルキャピタルを高める効果を持つことが確認できた。さらに、ソーシャルキャピタルが高いことが、地域の安全・安心、高齢者の住みやすさ、子育てしやすさにつながることが明らかになった。5つの取り組みがソーシャルキャピタルを高め、ソーシャルキャピタルが住み良い地域づくりにつながるといった因果関係が確認できたのである。

ところで、この5つの取り組み、すなわち住民同士であいさつをしたり、地域の興味や愛着を高め課題を共有したり、地域の自律力を高めようとしたり、より多様な住民の参加を促したりする取り組みは、それ自体が直接に地域の安全・安心、高齢者の住みやすさ、子育てしやすさを高めることを目的とするような活動ではない。コミュニティづくりにおいて、こうした地域の安全・安心等を高めることを目的とする取り組みが重要なのは言うまでもない。しかし本研究の分析結果は、住み良い地域づくりの基盤となるソーシャルキャピタルを高めるための取り組みも同様に重要であることを示しているのである。

また分析では、地域の特性の中で、高齢化率はソーシャルキャピタルを高める効果を持っていた。本研究ではいくつかの地域活動の現場を訪ねてインタビューを行ったが、そこである方は「地域活動ができるのは、余裕のない若者ではなく、知恵があり金や時間に余裕がある高齢者だ」という。高齢者はコミュニティから支えられる対象とされることが多い。しかし、高齢者だからこそコミュニティを支えることができるという逆の視点で考えることもできるのではないだろうか。

住民同士のつながりの中で生まれるソーシャルキャピタルというものは、住み良い地域づくりには欠かせないものである。それは、貨幣のように目に見えるものではないが、地域を良くすることのできる実利性のある資本である。地域の特性を考慮しながら、地域のソーシャルキャピタルを高めるために取り組むことが、コミュニティづくりの基盤となるのである。