• 研究戦略センター
  • 人と防災未来センター
  • こころのケアセンター

HATコラム

「超巨大災害後の復旧・復興戦略」

大木 健一(人と防災未来センター副センター長)

大木 健一(人と防災未来センター副センター長)

1955年生まれ
東京大学経済学部卒業
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構 阪神・淡路大震災記念
人と防災未来センター副センター長

■250兆円の復旧復興予算?
東日本大震災では、直接被害額16.9兆円に対し5年間で25兆円の復旧復興予算が組まれた。しかし、3年が経過した現在、復興の遅れが指摘されている。震災後、南海トラフ地震や首都直下地震の被害想定の見直しが行われ、南海トラフでは「最大ケースで169兆円、首都直下では「より現実的な」想定の下で47兆円の直接被害が算定された。昨年11月に国土強靭化3法が制定されたが、目に見える成果を得るには時間がかかる。

近い将来、東日本大震災を上回る超巨大災害が起きたら、どのような復旧復興戦略が採用されるのだろうか。南海トラフ最大ケースを想定し、被害額に比例して復旧復興事業費も事業量も東日本大震災の10倍と仮定すると、事業費250兆円、仮設住宅(みなし仮設除く)53万戸、復興公営住宅22万戸、区画整理28,000ha(多摩ニュータウン10個分)、防災集団移転23万戸という数字になる。日本のGDPは約480兆円、政府一般会計予算は96兆円(税収はその半分)であり、マクロ経済的に成立するとはとても思えないし、実施面でも人材、資源、用地の不足により事業期間の長期化と賃金・物価高騰を通じた実質効果の低下は必至である。被災者は仮設住宅に入居するまでも、出るまでも東日本大震災被災者の何倍もの年月を耐え忍ばなければならないだろう。

■被災地復興か被災者の生活安定・再建か?
不幸にしてこのような超巨大災害が起きてしまった場合、現実的な復旧復興戦略としては、被災地の復興は長期戦を覚悟し、まずは早期の被災者の生活の安定・再建を目指すべきだろう。被災地の復興は全方位ではなく、重点地域や重点事業を絞り込み、戦略的に進める。被災地外への一時移転を促し、全国の空き家ストック(757万戸)の活用、受け入れ型・中間受け入れ型のカウンターパート支援を行う。被災者が被災地以外で住宅再建、事業再開を行う場合にも同等に支援する。被災地以外の地域が被災地の分まで生産活動を担って日本経済を支えるなど。

事業継続計画(BCP)の基本的な考え方は、小災害では復旧戦略、大災害では代替戦略だといわれる。「国難」クラスの巨大災害が起きた場合には、全国規模での代替戦略で「日本継続」を確実にやり遂げなければならない。

■4G1H主義の見直し・弾力化を
そこで問題となるのが、我が国の災害復旧・復興制度との整合性である。現行制度の下では上記のような復旧復興戦略の実施は難しい。現行制度には次のような4G1Hの特徴があるといえるだろう。
1. 現物主義:災害救助法の運用で現金給付を認めない。
2. 現地主義:被災者が被災自治体の区域を離れると支援を受けにくい。
3. グループ(集団)主義:住宅移転や事業再建など、集団になると支援対象になるが、個人では受けられない
4. 行政主導主義 平時では民間主導で行われる宅地開発や事業者支援が行政主導で行われる。
5. ハード(インフラ)中心主義:復興予算の大部分がハードの施設整備に使われる。

中小規模の災害であればこれでも問題は少ないだろうが、阪神・淡路大震災復興では「単線型復興」や「県外避難者」の問題を生じさせた。その後、被災者生活再建支援法の制定や東日本大震災後の「みなし仮設」導入など、少しずつ弾力化が図られてきている。

これをさらに大胆に推し進め、被災者個人による選択の自由の拡大、被災自治体行政事務の軽減と重点化、全国的な受け入れ型支援体制の整備、民間事業者の活動機会の拡大を図ることにより、巨大災害からのスムーズな復旧復興を可能にするレジリエントな社会システムが構築できると考える。