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HATコラム

「2010年ハイチ地震の教訓-外国医療支援チーム(FMTs)の分類と事前登録制への道」

甲斐 達朗(人と防災未来センター上級研究員)

甲斐 達朗(人と防災未来センター上級研究員)

1951年生まれ
兵庫医科大学卒業
社会福祉法人恩賜財団 大阪府済生会千里病院副院長兼千里救命救急センター長
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構
阪神・淡路大震災記念人と防災未来センター上級研究員

2010年1月12日に、ハイチの首都ポルトープランスの郊外を震源とするマグニチュード7の地震が発生。大統領府、病院、学校、多数の家屋が倒壊し、被災者約370万人、死者31万6,000人、負傷者31万1,000人にも及ぶ被害が生じた。

未曾有の人的被害と医療機関の多くが大きな被害を受け機能不全に陥ったため、地震直後から周辺国あるいは世界中より緊急医療支援の手が差し伸べられた。日本からは、国際緊急援助隊医療チーム、自衛隊PKO部隊、その他多くのNGOが現場に駆け付けた。確認されている海外からの緊急医療支援チーム数は390といわれているが、小規模なチーム数は把握されていない。

地震災害では、挫ざ滅めつ症候群を含む四肢外傷が数多く発生する。日常の医療状況では、患部の洗浄、デブリドメント(感染組織を含む壊死組織の除去)、抗生物質の投与などで四肢外傷に対し四肢保存の治療が行われるが、被災地では、治療開始の遅延、医療資源の不足、衛生環境の確保が困難などにより創感染が増加し、敗血症への移行で四肢切断術を実施しなければならない症例が増加する。ハイチ地震後、WHO(世界保健機関)を含む多くの研究者が、同地震での四肢切断術の妥当性を検討した。その結果、390ある医療チームのうち、設備・装備、チームの自己完結性、診療録の保存などでWHOの基準に適したのは、4分の1のチームであった。また、医療チームのメンバーの多くは被災地での治療経験が乏しく、大半が30歳以下の若年者であったことや、6,000人〜8,000人の被災者に四肢や指の切断術が実施されたことが分かった。7チームで10,643の四肢・指切断術がなされ、あるチームの実施率は45%、他のあるチームでは1%と、医療チーム間でも大きな差が認められた。切断術を受けた被災者は負傷者全体の3%といわれているが、十分な診療記録が保存されていないチームも多く、この数値が高いか低いかの判断は困難と結論付けている。

これらの結果より、WHOなどの国際医療組織が集まり、国外からの緊急医療支援チーム「FMTs(Foreign MedicalTeams)」の規模・設備・機能によるクラス分けと医療チームの設備等の最低基準が決められた。その基準では、FMT1クラスは、看護師、医療補助者、ロジスティック担当者に最低3人の救急や初期診療医の医師で構成し、1日100人以上の外来患者を2週間診療することのできる装備が必要とされている。FMT2クラスは、一つの手術室に、熟練した救急医・外科医・麻酔医・看護師、医療補助者、ロジスティック担当者で構成し、最低20人に対応できる入院設備、1日7人の重傷者、1日15人の軽傷者に対する手術を最低2週間続けることができる設備が必要。FMT3クラスは、二つの手術室およびICU(集中治療室)、FMT2に必要な人員に加え、整形外科医、形成外科医を有し、看護師は、ICUベッド数の2分の1を確保する必要がある。ICUベッド数は最低40病床確保し、二つの手術室は24時間稼働することが義務付けられ、1日15人の重傷者、1日30人の軽傷者の手術ができ、最低1カ月の活動が行えるチームと決められた。

2013年フィリピンに甚大な被害をもたらした台風ハイヤン(ヨランダ)では、被災地に入ったFMTsは、現地災害対策本部または国連現地調整機関に夫々のチームのクラス分けを事前に登録し、医療資源の適材適所への配置に役立てた。また、診療報告書、活動終了時の報告書の提出を1日ごとに義務付け、医療支援の実態把握が容易となった。

現在、各国で医療チームのクラス分け登録が始まっており、この分類は、首都直下地震や南海トラフ地震など日本が受援国になる場合に、FMTs受け入れの基準として利用することに有用であると思われる。