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HATコラム

「小規模集落」とともにあゆむ

三宅 康成(兵庫県立大学環境人間学部 教授)

三宅 康成
兵庫県立大学環境人間学部 教授


1965年生まれ。博士(農学)
兵庫県立大学環境人間学部教授
特定非営利活動法人地域再生研究センター理事
特定非営利活動法人日本ハンザキ研究所理事
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構研究調査本部
政策コーディネーター

30年後、50年後の姿を描くことが難しい集落が多く存在する。 「過疎化」と「高齢化」というおなじみの言葉が今なおずっしりと集落にのしかかり、ますますその重みを増しつつある。 農村集落は地域の人々のたゆまぬ努力によって、農地、山林をはじめすべての農村空間を適切に維持・管理してきたという長い歴史を持っている。 あたかもそれが当たり前のことのように...。社会構造が大きく変化した今、当たり前のことを繰り返し行うことが難しい状況になりつつある。 「この集落には子どもが一人もいません」...あちこちの集落でよく耳にするフレーズである。「今はなんとか今まで通りのことがこなせているが、さて10年後、20年後はどうなるだろうか?」...率直な疑問が地元から頻繁に発せられている。 「すでに覚悟を決めている」と本音とも冗談ともとれる言葉すら耳にすることがある。 このような集落では物理的(経済力・労働力)・精神的両面において、既存の活性化策が簡単に適応できない事例が多い。 その一方で、小規模集落であっても活発なコミュニティを維持し、元気に活動を続けている集落が存在することも事実である。

農村地域はまさしくその地方の独特の個性を育みつつ、営々と次代に受け継がれてきた。歴史と空間に紡がれながら今がある。 それぞれの地域にはそれぞれの顔があり、それぞれの住民の想いがある。 それでは今の姿からどのような将来が見通せるだろうか。 地域が培ってきた美しい自然や景色、華やかな文化、生き生きとしたコミュニティは将来どこに向かっていくのであろうか。 条件の厳しい農山村の集落に対して、小田切は「人、土地、ムラ」という現象的な空洞化に加えて「誇りの空洞化」という住民の精神的な問題がその根本に潜んでいると指摘する。 心の問題は、生きがいづくりへの意欲の向上、集落の新たな動きの創造などにつながる。すなわち地域の活性化の原点(元気の素)であると捉えている。

農村計画を専門とする自身の立場から、農村集落をどのように支えていくべきか、大学として地域への関与のあり方について常々思いを巡らせていた。 同時に、大学教育においては、地域での実践・実体験(フィールドワーク)を通した学生の学びの重要性の認識が高まるなかで、実際にどのような場所でどのような取り組みをしていけばよいのか思い悩むところでもあった。 折しも平成20年に、兵庫県で小規模集落に焦点を当てたプロジェクトが立ち上がった。 「小規模集落元気作戦」と称して「交流」のキーワードで活性化を図るものである。その後、いくつかのプロジェクトを包含して「地域再生大作戦」(以下、大作戦)と改名し、集落を支える取り組みを継続中である。 この間、筆者は大作戦の支援メンバーとして兵庫県内の多くの小規模集落を訪れる機会を得た。

小規模集落とともに歩んでいつも感じることがある。 なかなか次の一手を打つことができない状況であっても、地域に対する住民の想いは決して色褪せてはいないということである。 たとえ表面的には悲観的であっても...。地域にとって何が正しいのか、何が間違っているのか、その解を得ることが困難であるし、正しい解など未来永劫決して見つかるものではないのかもしれない。 そのジレンマを感じつつも、熱い想いに刺激を受けながら、いつも住民の方々に接している自分が存在する。

ところで、我々が地域に入ると必ずといっていいほど住民の方々の笑顔が見られるときがある。 若い元気な学生を同伴したときである。これまでは学生と地域との関わりは単発で一過性のものが主流であった。 学生がお客様の立場からどうしても抜け出せず、地域もイベント的な一時対応で終わることが多いため、効果的な関係性を構築することができないでいた。 これに対し、平成23年から研究室内で農村地域の小規模集落を主な対象とした学生団体「INAKA応縁隊(いなかおうえんたい)」の結成を促し、現在まで地域とのより密接でかつ継続的な連携活動を継続中である。 現場での経験は大学内だけでは決して得ることができないものであり、地域住民と連携しながら、学生自らが主体的に考え、責任感をもって実践するなかで大きな学びの効果が期待できる。 地域でも何らかの刺激や影響を生み出すことができれば、地域と大学双方にメリットがある有効な連携手法の一つではないだろうか。 しかし、大学においても地域と同様に活動を担う人材の確保(担い手育成)が問題となっている。 これはどのような組織においても終わりのない永遠の課題なのかもしれない。

学生と一緒になって「小規模集落」とともに歩み続けること、この決意はこれからも決して揺らぐことはない。