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HATコラム

大規模災害情報アーカイブスで、過去・現在・未来をつなぐ

御厨 貴(研究調査本部政策コーディネーター)

御厨 貴
(研究調査本部政策コーディネーター)


1951年生まれ
博士(学術)
放送大学教授 東京大学先端科学技術研究センター客員教授
復興庁復興推進委員会委員長代理
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構研究調査本部
政策コーディネーター

大規模災害情報をいかにアーカイブし活用するか、今の私は専らこの点に関心がある。そもそもあの東日本大震災の復興構想会議の最中から、災害そして復興の情報アーカイブをどう収集し管理するかは、重要な課題であった。だからこそ、「復興構想七原則」の筆頭に、「大震災の記録を永遠に残し、広く学術関係者により科学的に分析し、その教訓を次世代に伝承し、国内外に発信する」と明記したのである。そして「復興への提言」の「開かれた復興」の中に、次のように私は書いた。

「災害の記憶や映像や記録を後世に残していくアーカイブの活動も、復興過程に『希望』を見出すことに連なる。人は自ら災害体験を語ることによって、既知の人のみならず、未知の人とつながっていく。しかも、そこには記憶を紡ぎ出してくれる人が存在する。ここでもまた、人は人と幾重にも『つなぐ』行為をくり返している」

そして復興推進委員会に至って、いよいよこの課題の具体化を図った。私の勤務先である東京大学先端科学技術研究センターに、分野横断型の「東日本大震災アーカイブプロジェクト」を立ち上げ、復興庁と協力しながら、カフェの開催、現地調査、研究者15人へのインタビューを行い、アーカイブの可能性と方向性を探ってきた。

さらに東京大学の生産技術研究所および情報学環、国立国会図書館、国立情報学研究所、東北大学災害科学国際研究所などと有機的連携をとりながら、「大規模災害情報アーカイブス」の樹立に向けて具体的検討を進めている。年明けには、内閣府防災担当の管轄の下、企画検討委員会が開かれるところまできた。

「つなぐ」というキーワードを使うならば、阪神・淡路大震災、そして東日本大震災というこの二つの震災の「災後」体験の中から、かなりの確率でおこる次なる大震災へとアーカイブを「つなぐ」べく展開していかねばならない。そこに浮上してきたのが、南海トラフ地震が予知される高知県である。高知県は今や県を挙げて、アクションプランを作成し、危機管理を進めている。私たちは先日、高知県を訪問し、尾﨑正直知事および幹部職員と意見交換を行い、現地の地震対策を視察してきた。

高知県の沿岸地域は、防災・減災を前提とした都市や町として、大きく変容を遂げようとしている。アクションプランも、何回ものシミュレーションを経て、時間差対策がしっかりと立てられている。強い揺れ→津波→火災→土砂災害→本格的救助救出救護活動→避難生活→本格的復旧といった時間差を伴いながら確実に起こる課題群に、どう多角的に対応するか。高知県のパンフレットにも、その具体的回答が積まっている。県民にできるだけ分りやすくする記述の工夫も、特筆してよい。

さらに現地において整備計画中の津波避難路、津波避難場所、津波避難シェルター、津波避難タワーのいくつかを見ることができた。中でも南国市の避難タワーは、緊急時の使用から平常時での使用まで、これまた地域性を生かした造りになっている。事有るときは、誰がどこへどう逃げるかの訓練もくり返しており、特に小・中・高の若い世代への訓練は徹底している。ここにも「つなぐ」発想がみられる。地震対策の展開によって、人々も組織もつながりを再確認するカタチになっているからだ。

そこで「大規模災害情報アーカイブス」は高知県をユーザーとして、これまでの大震災の際に各県がとった行動の詳細な現場情報を、いかにすれば有効に活用できるかを、検証していく機能を持つ。危機管理の際の県の各部門における活動を、時間差と課題別にマトリクスを作って示していく。必要な情報と不要な情報を、アーカイブスとユーザーとを、それこそ「つなぐ」ことによって、あらためて洗い出すことが可能になる。その相互交流によって精度の高いアーカイブスが構築されれば、全国各県各都市にモデルとして提示するところまでいくだろう。これこそまさに「政治工学」構築へ向けての新たなる第一歩に他ならない。