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HATコラム

語り継ぐもの

人と防災未来センター上級研究員 田中 淳

田中 淳
人と防災未来センター上級研究員


1954年生まれ
東京大学大学院社会学研究科修士課程修了
未来工学研究所、群馬大学、文教大学、東洋大学を経て現職
東京大学大学院情報学環附属総合防災情報研究センター教授
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構
阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター上級研究員

今年の1月で、阪神・淡路大震災20年を迎えた。「風化しないよう」「忘れ去られないよう」に多くのイベントが行われた。4年目を迎える東日本大震災においても、同じ課題が語られている。

CIDIR(総合防災情報研究センター)が毎年実施している定期調査では、「次の災害について、家族や友人、同僚などと話をしたことがありますか。最近、話をしたことのあるものを全て選んでください」と問い続けてきた。阪神・淡路大震災について見ると、15年経過した2009年12月には56.7%であったのが、2015年1月では33.5%へと割合を下げている。

ただ、細かい数値自体は、回答者の代表性を確保しているかどうかという点から見ると限界があり、むしろ安定した変動のパターンがあるかどうかに着目した方が妥当である。その観点から、図1に示したように、話をした人の割合を地方ごとに見ると、ⅰ)近畿地方で高いこと、ⅱ)ここ3年ほど割合が安定しており、しかもそれはⅲ)全国的な傾向であることが分かる。

ここで3番目の全国的な傾向に注視したのは、阪神・淡路大震災を語り継ぐことの意味は、災害そのものを忘れないことにもあるが、第1に、その悲惨さの共有から、それぞれの地域での災害に備える動機となることである。それに加えて、第2に、阪神・淡路大震災自体から具体的な教訓を各地域が学ぶ必要があるからである。なぜならば、私たちは直前の災害に意識を奪われやすく、実は災害は多様な顔を持つことを忘れがちだからである。

東日本大震災を経験した現在においても、阪神・淡路大震災から具体的な対策を学ぶ必要がある。特に、人口集積が進んだ地域における災害が引き起こす社会的影響と対策については、阪神・淡路大震災は最も学ばなければならない災害である。だからこそガスや水道等ライフライン機関の対策は、阪神・淡路大震災の教訓によるものも少なくないのである。

学んだことしか語り継ぐことはできない。学び、教訓を得る上で、研究の成果は欠かせない。阪神・淡路大震災では多くの研究者が参入し、新たな研究領域が生み出された。ただ、残念ながら全てを学び尽くしているとはいえない。復興とは何か、適切な避難所運営方法、域外に流出しない復興投資のあり方などは、解決されたとはいえない。またおそらく、新たな多様な研究領域からのアプローチによって、これまで対象となっていない新鮮な視座と解決方策が、今後とも明らかになっていくだろう。人と防災未来センターなどの拠点の一つの意義もこの点にある。