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HATコラム

災害復興期の回復を支える

兵庫県こころのケアセンター研究主任 大澤 智子

大澤 智子
人間科学博士・認定臨床心理士


リッチモンドカレッジ、リージェントカレッジ(ロンドン)にて
心理学学士号、カウンセリング心理学修士号取得
大阪大学大学院人間学科研究科にて人間科学博士号取得後、
兵庫県こころのケアセンター主任研究員就任、現在同センター研究主幹その他、
日本トラウマティック・ストレス学会副会長、
総務省消防庁緊急時メンタルサポートチームメンバー

はじめに
阪神・淡路大震災や東日本大震災のような大規模災害後、多くの被災者は周囲のサポートを利用しながら回復の道を歩んでいくが、それでも年単位という息の長い支援が必要になることがある。大規模災害後には、こころのケアの必要性が叫ばれるが、それは被災者には重度の精神疾患より軽度の精神疾患や不適応状態が見られることの方が多く、その状態が続くことで被災者に備わっている回復力が発揮されず、うつ病をはじめとする精神状態の悪化が起こり得るからなのだ。しかし、災害後の支援プログラムは急性期対応も中長期対応もその効果検証は十分でない。そこで、アメリカ国立PTSDセンターとアメリカ国立子どもトラウマティックストレス・ネットワークは、効果に関する情報を参考にした技法を基に、災害復興期の心理的支援方法であるサイコロジカル・リカバリー・スキル(Skills forPsychological Recovery : SPR)を開発し、当センターはその日本語版を作成し、トレーニングを提供している。

SPRとは
SPRとは、精神保健の悪化をもたらすような行動を予防し、既存の機能を支え、回復を促進することを目的とし、6つのスキル-「情報収集と優先順位を決める」「問題解決のスキルを高める」「ポジティブな活動をする」「心身の反応に対処する」「役に立つ考え方をする」「周囲の人との関係作り」-で構成されている。SPRは傾聴モデルとは異なる「教育モデル」であり、学んだことを被災者が実生活で使うか否かが成否の鍵を握る。よって、トレーニングでも座学と演習を繰り返し、受講者自身も学んだことを練習し、被災者のやる気スイッチを押せるようになる「コツ」を習得する。

被災地での普及と活用
平成24年6月から、東北大学と共同で、東日本大震災の被災地でサービスを提供する専門家を対象にSPRトレーニングを行い、その数カ月後にフォローアップ研修会を開催し、参加者には、研修直後とフォローアップ研修時にSPR研修についてのアンケートを実施した。その結果、研修直後の段階では、「興味深さ」「わかりやすさ」「現在の仕事との関連」「試してみる意欲」に対して大半の参加者から肯定的な意見が得られたものの、「活用していく自信」は低かった。しかし、フォローアップ研修で実際に活用した事例の検討を行うと「研修のわかりやすさ」と「活用していく自信」は研修直後の1.5倍だった。反面、トレーニングで教わった内容を自分の現場にどう応用するのか、その際の言葉遣いや質問の仕方など、具体的でタイムリーなスーパービジョンやコンサルテーションを求める声が多くなった。これらの結果を受けて昨年度、SPRのさらなる普及と教育を目的としたデモンストレーションDVDを作成した。ある架空の事例に対してSPRがどのように使われるのかを見ることができる。当センターのホームページからも視聴することができるので、興味がある方はご覧いただければ幸いだ。

平成25年の7月から宮城県内の被災者を対象にSPRを用いた介入を行い、このプログラムの実施可能性を検証している。現在までに7人がセッションを終了し、介入前後の精神健康状態を、精神健康調査票(GHQ30)を用いて比較したところ、介入前より介入後の得点はいずれの対象者でも下がっており、介入による一定の効果が示唆されている。