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HATコラム

「相互運用性」の確立を目指して

京都大学防災研究所 巨大災害研究センター教授 林 春男

林 春男
人と防災未来センター上級研究員


1951年生まれ
カリフォルニア大学大学院心理学科博士課程修了。博士
京都大学防災研究所 巨大災害研究センター 教授
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構 阪神・淡路大震災記念
人と防災未来センター上級研究員

私はここ10年ほどほぼ毎夏、米国サンディエゴで開催されるESRI User Conferenceに参加している。地理情報システム(GIS)の世界最大ベンダーであるESRIの利用者13,000名ほどが世界各地から集まり、最新の技術や利活用法の紹介、それを用いて作成された地図のコンテストなど「地図づくし」の1週間である。防災分野での地図の活用について毎年いろいろ刺激を受けてきたが、昨年2014年は特に大きな刺激を受けた。

2014年の特徴はGISが地図作りのための専門家のソフトウェアから、地図を活用したさまざまな業務改善のサービスプラットフォームへと完全に移行したことだった。全ての講演が同じWeb上でサービスとしてGISプラットフォームを利用しており、それぞれの分野でそのサービスをどう効果的に活用するかを紹介していた。GISで何ができるかというソフトウェア技術の議論ではなく、このような分野でこのように利用するとこのような効果が得られるという利活用技術の議論が会議の中心になっていた。 防災分野も例外ではなく、F E M A の担当者から、“Capstone-14”と名付けられた状況認識の統一のための情報処理機能訓練が紹介された。アメリカの中央を縦断するNew Madrid Seismic Zoneでのマグニチュード7.4の2連発の地震を想定し、周辺8州政府および域内の450カウンティが参加した4日間にわたる訓練である。この訓練ではWeb上のGISサービスを活用して災害対応にとって不可欠な18種類の状況を各関係機関が共通のフォーマットで入力し、その全体像を全関係機関がリアルタイムで共有することに成功した画期的な訓練となった。FEMAの担当者はこの訓練を成功させた原因として、“Interoperability Continuum”の原則に即して関係機関の情報処理を整備したことを挙げていた。

“Interoperability Continuum”とは、米国の国土安全保障省が9.11を教訓として、関係機関の活動をより連携したものにするための災害対応の「相互運用性」を向上させるために研究した成果に基づいて、防災・危機管理に関わる機関間での状況認識の統一を促進するための方策を示すものである。「相互運用性」を向上させるには、ガバナンス、業務の運用フローの標準化、技術、研修訓練、利用場面の5つの側面を順に整備することが必要であるとしている。まず整備するべきは、どのような運用体制を設定するかである。どこが意思決定をし、どこが手足となって活動するかを整理し、関係者間で合意する必要がある。次は、業務の運用フローの標準化である。災害対応業務を効果的に実現できる活動手順を明確にし、どの組織もその手順に従って仕事を進めることでできることが「相互運用性」に他ならない。3番目が技術である。具体的に規定された「相互運用性」を実現することを要件として、それを可能にする信頼性が高く、廉価な既存の技術を活用すればよいとされている。4番目は、この仕組みを実際に利用する人材を育成する研修訓練の仕組みを作ることである。最後は、この仕組みをさまざまな規模や種類の事案で実際に活用し、その結果を踏まえて継続的に改善していくことが大切である。こうした原則に忠実に3年間努力を積み重ねた結果が、Capstone-14の成功につながっている。

21世紀前半に南海トラフ地震の発生が確実視され、その前後で首都直下地震の危険性も高まるこれからの我が国にとって、そうした大災害の被害を完全に防ぐことは不可能である。このことは、被害の発生を前提として、それに対してどう対応するかの災害対応能力の向上が必須であることを意味しているのに他ならない。最低でも太平洋岸の6県に甚大な被害の発生が予想される南海トラフ地震を考えると、全国規模での行政職員の効果的な相互応援体制がそれまでに整備され、訓練を受けた行政職員が十分な数確保されている必要がある。そのためには県警組織間の「相互運用性」確立は全ての基本である。その意味では米国での「相互運用性」確立に向けた努力は決して他山の石ではなく、我が国も真しん摯しに検討すべき重要な課題である。そのためには、我が国の技術開発が5つの側面のうち技術偏重に陥りがちな弊を避け、効果的な利活用を前提として5側面を総合したバランスある技術開発を進める必要がある。この点は、ESRI社社長であるJack Dangermond氏の恒例の冒頭スピーチで「自分は技術おたくだが、それは自分の仕事の10~15%を占めるに過ぎない。その他にもガバナンス、業務の運用手順の標準化、研修訓練の整備を考えている」と語ったことにも象徴されていた。