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HATコラム

成長センターアジアから少子高齢化を考える

研究調査本部 政策コーディネーター 阿部 茂行

阿部 茂行
研究調査本部 政策コーディネーター


1948年生まれ
ハワイ大学経済学博士
同志社大学政策学部・総合政策科学研究科教授
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構
研究調査本部 政策 コーディネーター

中国・天津で科学薬品保管倉庫の大爆発があり100人超の死者を出した。有毒ガスの拡散などがあり、環境汚染も深刻で、企業の無責任さが糾弾されている。またバンコクではテロと思われる爆発が2カ所で起きた。観光産業に打撃を与える外国人によるテロと報道されている。どういう理由でこのテロが起こったのかは不明であるが、貧困や格差が遠因の一つとなっている可能性はある。利益優先をはかる故の企業の無責任さ、そして経済成長を優先するあまり国内外の環境問題、格差問題に目をつぶった結果ともいえなくはない。

日本がアジアNo.1の座を降りて久しい。名目GDPでは2009年に中国に追い越されており、一人当たりの所得でもシンガポールに2006年に追い越されている。台湾や韓国も日本に肉薄してきている。このようにアジア経済は拡大し、世界の成長センターとなった。高度成長に伴い、給与水準も上昇し、アジアには膨大な中間層が出現した。それまでは欧米の消費市場を頼りにしていたが、もはや生産基地としてだけのアジアではなく、今やアジアの中間層の消費が成長を牽けん引いんしている。昨今の日本観光ブームも、アジアの中間層の出現によるところが大きい。中国人の爆買いや日本のビザ発給緩和によりタイなどからの観光客も増加しており、日本も本年の7月時点で1,105万人もの観光客により潤っている。

アジア諸国ではこのように購買力が高まった層の人数は多い。その一方で高度成長の果実は均等に分配されたとは言い難く、どのアジア諸国を見ても、格差の拡大は深刻な問題となっている。環境への配慮は、成長のため二の次にされ、その意味でのガバナンスは弱い。成長の光と影、影の部分がこの二つの爆発騒ぎにつながったともいえよう。

アジアは経済だけでなく、いろいろな面で日本を追いかけている。少子高齢化がそうだ。年金問題では課題が多い日本ではあるが、アジアから見れば年金があるだけ羨ましい存在だ。そういったアジアでは高齢化社会を生きるということに関してはそれなりの知恵がある。大家族、相続税のあり方、老人を敬う道徳観などがそれだ。例えば、タイは母系社会で結婚すれば妻の家族と暮らすことも多い。親の面倒を実際に日々見るのが女性と考えると、このことは年金のない社会にとって一つの救いであろう。また、タイには相続税がない。現政権は相続税を賦課しようとしているが、バンコクのインテリ層を中心に二重課税ということで根強い反対がある。相続税がないということは、親の財産を100%子が受け継ぐわけで、その見返りに親の老後を見るということでもあろう。また、老人を敬うということで身近な例を挙げれば、電車などに乗って席を譲ってくれるのはタイやシンガポールの話であって、日本では期待できない状況だ。

こうした中、当機構のプロジェクトとして、「人口減少、少子・高齢化社会におけるライフスタイルと社会保障のあり方」が本年度よりスタートした。日本の少子高齢化には厳しいものがあり、他のアジア諸国に比べればましとはいえ、社会保障制度の破綻も現実味を帯びている。そうした中、他のアジア諸国をヒントに、政府に全面依存するのではなく、なんとか少子高齢化社会を乗り切るにはどうすればいいかを考えようというのがこのプロジェクトの目的である。家族間での助け合い、そうした事情をマクロ的に見る一つの方法が世代間移転収支で、そこを出発点にして、マルチにこの問題を考えようとしている。アジアにおいては高齢者の面倒を見るのは子や孫であるが、北欧では社会や政府がその面倒を見る。高齢者への移転は家族からというのがアジアで、政府からというのが北欧である。

このプロジェクトでは多方面にこの問題を検討する。具体的には、
① 世代間移転収支の国際比較分析〜QOL(クオリティ・オブ・ライフ)に焦点を当てる
②高齢世代のQOLの実態把握
③社会保障問題の地域性の検討
④少子高齢化と都市間の協働・連携
⑤ 外国人雇用の可能性を探る〜保育・介護分野での可能性、経済一般の活性化、社会保障財源、留学生活用による人材発掘について
である。

「地域におけるクオリティ・オブ・ライフの実現」に向けて具体的な施策を提言できるよう、メンバーと共に成果を上げるべく、研究を推進しているところである。