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HATコラム

覚えてほしい「750台・1,000人」という数値

阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター上級研究員 中川 大

中川 大
阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター上級研究員


1956年生まれ
京都大学大学院工学研究科交通土木工学専攻修士課程修了 工学博士
京都大学大学院工学研究科教授、交通政策研究ユニット長
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構 阪神・淡路大震災記念
人と防災未来センター上級研究員

運べる量には限界がある
災害時の緊急対応においては、人と物資の輸送が重要であることはいうまでもない。各都市の地域防災計画においても、「必要となる大量の物資等の輸送を円滑に実施」「車両等輸送力の確保、緊急通行車両の確認等を迅速に実施」などの文言が並んでいる。円滑・迅速に実施したいのは当然であるので、特に問題のある記述ではないように見えるが、こういった記述の背景には「しっかり対応すれば円滑に運ぶことができる」という考えが存在しているように思われる。
しかし、当たり前のことであるが、たとえ車両や運転士を十分確保できても、1本の道路で移動することができる人や物資の量には限界がある。

1車線の道路で移動できる量
結論だけを述べると、道路1車線で1時間に通行できる自動車は、乗用車の場合で750台が限界である。大型車の場合はもっと少ない。また、移動することができる人の数は、乗用車の場合は1,000人が限界である。もちろん信号や乗車人員などさまざまな条件によって異なる。例えば、1,000人という数値は1台当たり1.4人程度が乗った場合であるので、平均2人乗ればもっと多く運べる。しかし、緊急時に皆が誘い合わせて、3人も4人も同乗することが実際にできるのかと考えてみれば分かるように、この値はまず超えられないと考えておく必要がある。

道路容量は考慮されているか
1つの事例で考察しよう。京都市の地域防災計画には「広域避難場所一覧」が示されており、その一番上に記載されている避難場所は、「京都ゴルフ場舟山コース・収容人員195,000人」である。ここは山の中腹にあるゴルフ場で、アプローチ道路は1本(片側1車線)である。ゴルフ場はネットなどで囲まれていて、入り口は1カ所である。
さて、上記に挙げた1車線当たりの道路容量と比べればすぐに分かるが、195,000人が自動車で駆け付けるには195時間かかる。1週間は168時間。1週間以上かけてこれだけの人を集めて何をしようというのか。もちろん、解散するにも1週間以上かかる。
実は、自動車を一切禁止して徒歩のみで人を集めることにして、全員が兵隊のように整然と行進して入場するならば丸1日程度で可能であるとは考えられる。それにしても、まるで現実味がない。「道路で移動できる人やモノの量には限界がある」という当たり前のことが考慮されているのだろうか。

避難勧告・避難指示
最近、豪雨災害の危険がある時などには、大都市においても避難勧告や避難指示が頻繁に出されている。対象者が数十万人に及ぶことも少なくない。しかし、これもすぐに分かることだが、避難するための道路の車線がたとえ数十車線あったとしても、1車線当たり1万人が避難するには10時間かかる。
また、1時間750台・1,000人というのは、最適な数の自動車が整然と進んだ場合の話であって、殺到すればもっと少なくなる。つまり、数十万人が円滑・迅速に避難することは最初から不可能であるし、皆がそれを実行したら大渋滞となって動けなくなる。
避難勧告・避難指示を出していながら、実際には、避難する人ができるだけ少ないことを願うしかないという矛盾に満ちた状況が実際に発生している。

物資の事例では
物資の例を考えてみよう。阪神・淡路大震災を念頭に考察すると、被災地内の人口約150万人に、当面の生活に必要な物資として1日1人10kg分を運ぶとすれば、その総量は1.5万tである。4t車で運べば3,750台。上記の容量に戻ろう。4t車は乗用車とは違って750台も通過することはできないが、半分程度の台数は通過できる。とすれば3,750台が通過するのに必要なのは10時間である。
阪神・淡路大震災では多くの道路が通行不能となったが、それでも被災地に向かうことができる車線は何本か残されていた。生きるために必要な1日の物資は、1車線10時間で運ぶことができる。道路容量は十分であったといえる。
なぜ物資供給が滞ったのか。乗用車が殺到したからである。1台の乗用車に100kgの物資を載せて被災地に向かえば、1.5万tを運ぶために必要な自動車は15万台。これでは道路が破たんする。

常に道路容量を念頭に
750台・1,000人という数値は、防災に関わる全ての人にぜひ覚えていただきたい。原発災害からの避難も、津波からの避難も、どれだけの人数がどれだけの道路を使って、何時間(何分)で逃げる必要があるのか。この数値を知っていれば、それが可能なことなのかどうか、おおむね把握することができる。ゴルフコースの例で挙げたように、総量だけを議論しても無意味である。人とモノの移動は、時間と空間の中で考慮する必要がある。