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HATコラム

研究のきっかけ~2016年熊本地震で生じた奇妙な現象~

阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター上級研究員 清野 純史

清野 純史
阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター上級研究員


1957年生まれ
京都大学大学院工学研究科土木工学専攻修士課程修了
博士(工学)
京都大学大学院工学研究科都市社会工学専攻教授
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構 阪神・淡路大震災記念
人と防災未来センター上級研究員

地震時にはさまざまな現象が生じるが、通常の地震では起こり得ないような事柄も過去の歴史地震を記述した記事には多く見られる。例えば、1891年の濃尾地震では、学校内にいた教員が地震と同時に跳ね飛ばされた模様を報じる新聞記事や、地面が竹やぶごと飛ばされた写真、1904年の芸予地震では、汽船が突然暗礁に乗り上げるような突き当たる衝撃を感じたという記事、1948年の福井地震では、家屋が土台から離れて飛び上がるのが目撃されたり、家や人が3~4m投げ出されたりしたという報告、1975年の大分県中部地震では寝床から20~30cmも突き上げられたという証言、1984年の長野県西部地震では、土中に半ば埋もれていた石や倒木が飛び出している現象が多く見られたし、1909年の姉川地震や1995年の兵庫県南部地震では鐘楼の跳躍現象も生じている。これらは、地震(地盤)そのものの揺れに起因する現象であったり、地盤の上にある構造物(建物)の応答としての現象であったり、またその原因も人によってさまざまな解釈がなされているが、日常では考えられない特異な現象であったことは確かである。

熊本地方を中心に甚大な被害を与えた熊本地震から、はや一年が過ぎた。われわれが地震後に現地調査を行った場所の一つである南阿蘇村黒川地区(落橋した阿蘇大橋の近くの村)では、右横ずれ成分を伴う地盤変状が確認された。最大110cmの食い違い変位であった。ドローンで撮影した映像を基に判読した地盤変状は、一直線ではなく地域内に複雑に分岐しており、また強い揺れや宅地などの盛土崩落によって倒壊したと考えられる建物が多数確認された。倒壊した建物の方向は、おおむね断層に直交する方向である。

さて、私は1983年の日本海中部地震を嚆矢(こうし)として、これまで国内外の数多くの地震被害調査を行ってきたが、同地区の現地調査でこれまで見たこともなかった奇妙な現象に遭遇した。それは何台かの自動車が断層と直交する方向に横倒しになっていたことである(写真1)。通常、縦横比(高さ/幅)の大きな物、例えば背の高い本棚や家具は倒れやすいが、高さに比べて幅の広いどっしりとしたものは倒れにくい。ましてや縦横比が小さく、重心の低い車両はよほどのことがなければ横転しない。



そこで黒川地区で転倒していた軽ワゴンを模擬した自動車モデルを用いて車両の地震応答解析を実施した。KiK-net益城で観測された地震波の上下成分(873gal)と断層に平行な水平成分(1,220gal)はそのままの形で入力し、断層に直交する水平成分(534gal)を何倍かに振幅調整して数値解析を行った。この結果を車両の正面から見たものが図1と図2である。図1は水平方向の加速度が1,335ga(l 534galの2.5倍)、図2は1,417ga(l 同2.7倍)の場合の結果である。これらを含めたシミュレーションから、KiK-net益城で観測された水平動の2.5倍を超える揺れがあれば、縦横比の小さな車両でも転倒する可能性があること、ただし、これらの現象は水平動と上下動のそれぞれの卓越振動数や、両者のピーク時間差(位相差)によって微妙に変化することなど、非常にセンシティブな現象であることも分かった。

研究のきっかけはどこにでもありそうである。



最後に、熊本地震から1年が過ぎた今日でも、災害からの復興はまだ道半ばである。被災された方々には心よりお見舞いを申し上げるとともに、被災地の一日も早い復興を祈念する次第である。