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HATコラム

地域コミュニティの防災力向上に関する研究~インクルーシブな地域防災へ

研究戦略センター 政策コーディネーター 渥美 公秀

渥美 公秀
研究戦略センター 政策コーディネーター


1961年生まれ
大阪大学人間科学部卒業
ミシガン大学大学院博士号(Ph.D.心理学)取得
大阪大学大学院人間科学研究科教授
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構 研究戦略センター
政策コーディネーター

今年度から、私が代表を務める2年間の研究調査プロジェクト「地域コミュニティの防災力向上に関する研究~インクルーシブな地域防災へ」が始まった。研究会には、災害に関する社会・自然科学の研究分野、災害救援・復興支援および障がい者自立支援の民間団体、社会福祉協議会、そして、行政から委員として参画してもらっている。ペットと被災者との関係に関する専門家にも入ってもらった。研究員は、障がい者を交えたまちづくりや長期的な災害復興過程を実践的に研究されてきた大阪大学の石塚裕子さんに務めてもらうことになった。
研究会は、まだ第1回会合を開いたばかりなので、本稿では、研究会のテーマに関連して、私自身が思うところを紹介したい。研究会が進むにつれて、深まっていくはずであるから、スタート時点の私的な見解としてお読みいただければと思う。

地域コミュニティ
地域という言葉は、いかにも多義的であり、コミュニティに関する理論も、歴史的に極めて多様で、単一の定義など存在しない。さしあたって、「地域コミュニティと呼んでも不思議がられない具体的な空間を対象とする」という程度に留めておくのが実際的であろう。研究会では、複数の地域コミュニティ間の関係に注目したい。たとえば、水害を想定するなら、自ずと、複数の地域コミュニティ間の関係のあり方に焦点を当てることになろう。また、地域コミュニティに居住する人々だけを考えるのではなく、そこを訪れる存在に焦点を当て、住民との関係を考えたい。たとえば、少子高齢過疎の地域コミュニティは、確かに自治機能が脆弱(ぜいじゃく)化している。しかし、外部から訪れる人々との関係の持ち方次第では、運営・存続に希望が見える場合もある。具体的には、地縁の組織、その地域の市民団体、そして、外部からのボランティアなどが関係する複数のグループの連合体として地域コミュニティを考えたい。

防災力向上
最近、「**力」という表現があちらこちらに見られる。しかし、それは、**に入る言葉の内実を深く考えない安易な表現である場合が多い。防災力もその一つであろう。実際、「防災力」と言った途端、防災の何が課題で、どのように課題を解決するのか、誰が誰と一緒に行うのか、やりたくない人はどうするのか、といったことを細やかに議論しなくなり、「緻密なリスク計算の上で?」「技術に頼って?」災害に立ち向かうのだなどと力んでいる姿が浮かんできてしまう。もちろん、リスクといわれるものにも、技術にも、敏感でありたい。しかし、肝心なことは、防災について、人々の日常生活に根ざして丁寧に議論していくことであろう。研究会では、「防災力」という言葉には常に注意を払い、多様な方略を検討していきたいと思う。

インクルーシブな地域防災
何かを包摂する(インクルードする)ことは、何かを排除することである。論理的には、その線引きが問題となるし、実践的には、その問題を問い続ける運動こそが肝心である。本研究会でも、当事者の声に丁寧に向き合い、実践的な提言へと進みたいと思う。
その際、誰が誰をインクルードするのかという点は、避けて通れない。インクルーシブという用語が醸し出すパターナリスティックな気持ち悪さや、インクルーシブの極限(すべてが一つの何かに包摂される全体主義的な状態)は回避したい。そして、さらに重要なのは、インクルードされる側はどうなのかという点である。研究会では、当事者を交えた議論を重ね、インクルーシブな地域防災について丁寧に考えていきたい。

提言に向けて
地域コミュニティのインクルーシブな防災力向上に当たり、専門家の意見をどう扱うべきだろうか。われわれの研究会から生まれる政策提言も、専門家の意見である。もちろん、専門家が関与しなければわからない事柄は多い。建物の耐震構造など、いわゆる科学的な根拠をもとにした「正解」は必要である。また、地域コミュニティのインクルーシブな防災力向上についても、議論を経た制度設計がなされるならそれを使うことが「正当」であろう。
しかし、現実には、正しい答えや正当な動きがいつも実現可能なわけではないのは言うまでもない。専門家による正しい解や正当な提案は、一つの参照点にすぎないと考えた方がよい場合が多い。結局、専門家の見解を一つの参照点としつつも、地域住民とそこに関わる人々自身が、正しい解「正解」ならぬ成り立つ解「成解」や、正しく道理にかなっている「正当」な動きならぬ成り立つ範囲で道理にかなっている「成当」な動きを見いだしていくしかない。研究会では、地域コミュニティとそこに関わる人々が、インクルーシブな視点から多様な人々を緩やかに巻き込んで、「成解」「成当」へと至るボトムアップの活動を応援するような仕組みを提言したいと思う。