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HATコラム

東日本大震災の復興事業の頓挫

阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター長 河田 惠昭

河田 惠昭
1946年生まれ
関西大学社会安全研究センター長・特別任命教授
京都大学工学博士
日本自然災害学会および日本災害情報学会会長を歴任
京都大学名誉教授。中央防災会議防災対策実行会議委員
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構副理事長
阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター長

阪神・淡路大震災で復興事業が難渋したのは、復興憲章がなかったからである。この反省の下で発足した日本災害復興学会は、復興憲章の提案が東日本大震災に間に合わなかったばかりか、いまだにその素案さえ公表していない。言い訳ばかりが公表されている。これは社会の期待に対する裏切りであろう。憲章の提示が難しいから、学会までつくって体制を整備したのである。この学会設立にご尽力いただいた、故貝原俊民前兵庫県知事をはじめとする兵庫県などの行政関係者に本当に申し訳なく思っている。

それでは、私自身の責任はないのか、と言われれば見通しが甘かったそしりは免れない。この学会の設立当時、私と林春男氏(現防災科学技術研究所理事長)は、この学会運営にイニシアチブをとらないようにしようと考えた。なぜなら、すでに両名は阪神・淡路大震災の復興事業の推進に対し、多方面で獅子奮迅の努力を継続しており、さらに復興学会の要職を兼務することは、無責任につながると判断したからである。現状のように復興憲章をつくらずに、通常の学会活動を継続することは、大変無責任であろう。なぜなら、災害に関係したほかの3学会の活動と多くは重なっているからである。

それでは、なぜ復興事業が円滑に進んでいないのであろう。それは、関係者が〝レジリエンス〟の概念を理解していないからである。2005年と15年に開催された国連防災世界会議で採択された兵庫行動枠組や仙台防災枠組の共通概念は、Resilient Societyの構築である。わが国もそれに賛意を示したからこそ、国民運動としての国土強靭化政策が展開されているのである。ところが、被災現場では技術的な検討が先行し、その背景として必要な復興のあるべき姿は全く議論されずに、事業が推進されている。これでは復興構想会議の提言が全く現場で生かされずに終わってしまうだろう。

例えば、誤解の最たるものは、レベル1の津波に対する考え方である。政府の専門調査会の座長として、これを提案したわけであるが、過去に記録されている、あるいは数値シミュレーション結果から得られる、レベル1の津波の最大値を津波防波堤の高さの決定に使うということを推奨しているのではないのである。もしそうであれば、はっきりと明示しなければならなかったのである。そうしなかったのは、次の理由による。『復興事業の最終ゴールは被災者の生活再建であり、持続可能な地域発展の希望がそこに確として存在するために、各種復興事業との連携・調整が必要だからである。津波防波堤の高さは、その過程で決めなければならない』

このような作業が、縦割り行政の典型のような復興庁にできるわけがない。それを誰も阻止できなかったばかりか、復興事業が円滑に進行していることを礼賛するような言辞が散見されるのは情けないことであろう。

私は、熊本地震に際し、熊本県が設置した検証会議と政府が検討を進めたワーキンググループに属し、この災害の復興は、次の南海トラフ地震や首都直下地震の備えにつながることをいつも念頭に置いて議論してきたつもりである。東日本大震災の復興過程は、熊本地震とこれら両災害などからの復興のお手本にしなければならない。当時の政権政党であった民主党幹部は、現在に至っても、東日本大震災の対応がおおむね成功したと自画自賛しているが、とんでもない思い上がりであり、猛省を促したい。政治の未熟さを反映しているのが、現状の東日本大震災からの復興の姿であろう。

災害科学分野の現役の研究者として、国難災害に見舞われる危険性のあるわが国の将来に対して、これまでの知見を活かして、いささかなりとも貢献したいと考えている。