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HATコラム

アジアの少子高齢化と外国人労働者 

研究戦略センター政策コーディネーター 阿部 茂行

阿部 茂行
1948年生まれ
ハワイ大学経済学博士
同志社大学政策学部、総合政策科学研究科教授
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構 研究戦略センター
政策コーディネーター

昨年の12月、タイのチュラロンコン大学でアジア研究では最大のSEASIAという国際会議が開催された。故Seiji Nayaハワイ大学名誉教授は早くからASEANの地域協力を提唱し東南アジアの経済発展の理論だけでなく実践にも大きな功績を残された。彼を師と仰ぐ研究者たちが世界中から集まり、彼の功績を振り返ってみようという記念セッション「アジアの地域協力」に出席してきた。アメリカなきTPPをTPP11と呼び、その経済効果の最新のシミュレーション結果の発表では、TPP11の効果は低く、より広範囲な経済効果が望まれると議論された。

私は「ASEANのグローバル・バリュー・チェイン」について発表したが、最も参加者の興味をひいたのはASEANの経済協力の喫緊の課題は域内の外国人労働者の問題だという論文であった。日本での外国人労働者の浅い議論とちがってASEANでは非常に重要で深刻な問題であることを改めて気づかされた。少し数字をあげて説明しておこう。ASEANの中での送出国はカンボジア、ラオス、ミャンマーといった貧しい国々であり、受け入れ国はブルネイ、シンガポール、マレーシア、タイの裕福な諸国となっている。自国の人口に占める割合は、カンボジアで5.3%、ラオス14.2%、ミャンマー3.9%と高い。受け入れ国の外国人労働者の全人口に占める割合はブルネイ21.0%、シンガポール24.0%、マレーシア5.0%、タイ5.5%である。ラオスは国民の14.2%がASEAN域内に外国人労働者として出ている一方、シンガポールは全人口の24%もの外国人労働者を域内から受け入れているのである。

同じセッションの司会をつとめたタイ前商業大臣のNarongchai氏は不動産開発会社を経営していて、自社でミャンマー人を6,000人雇っているという。建設業界は外国人労働者がいないとやっていけない。現在一番頭を悩ませるのがミャンマー人夫婦の子供の国籍問題だ。ミャンマー政府は外国で生んだ子供に自国の国籍を与えないし、タイ政府も外国人の子供にタイの国籍を与えない。人道的にこれはあり得ないことであり、至急に解決しないといけないと指摘していた。

私が学生時代に習った国際貿易の理論では、人や資本が動かなくとも貿易さえすれば、賃金や資本の価格は世界で平準化すると言われていた(Stolper=Samuelsonの定理)。まず資本が動き、そして今や人が動くようになった。それもASEANでは人口の20%を超えるボリュームで動いているのである。現実は理論よりはるか先に進んでいる。

この背景にはアジアにおける少子高齢化がある。途上国の人口構成は合計特殊出生率が高いこともあって若い労働者が多い。しかし、アジアの中でも次第に人口構成が少子高齢化型に移行しているところが多くなってきている。少子化の最初の段階では子供の人口は減るが、労働人口は増え続けるので、経済にとってはプラスに働く。これを人口ボーナスと呼んでいる。かつては日本も人口ボーナスの恩恵に浴していた。合計特殊出生率が2.1を切ると、人口の再生産ができなくなる。日本は1960年代前半に2.1を切り、シンガポールは1970年代後半に、タイは1990年代後半にすでに切っている。高齢者が全人口の14%以上になると本格的に高齢化が進行する。日本で1990年代前半、シンガポールで2010年代後半、タイで2020年代後半にそうなるわけだ。日本の人口ボーナスが消失したのが2000年代前半であるが、シンガポールは2020年代前半、タイは2030年代後半に日本に追随する。

これほどまでに外国人労働者がASEANに多いのは、産業構造が変遷していく中、従来の低賃金では先進ASEANで3Kの職場やハウスメイドなどで働き手がいなくなったからである。文化や言語も似ている近隣諸国に先進ASEANが労働者を求め、後進ASEANでは労働供給が過剰で高い賃金を求めて近隣の先進ASEANに出稼ぎに出るという循環が発生しているからである。Win-Winの関係のようにもうつるが、そこには過去の歴史も反映され、複雑な感情が働いていることも事実であり、今後の動静が気になるところである。ハウスメイドの文化もそのうち消滅することであろう。

外国人労働者の扱いに関しては日本がASEANから学ぶべきことは多い。その一方、少子高齢化に関しては日本の経験も多くASEANが今後活かすことができるはずである。21世紀研究機構での少子高齢化に関する共同研究も3年目を終了しようとしている。その研究成果を海外に発信していく必要性を強く感じる今日この頃である。