• 研究戦略センター
  • 人と防災未来センター
  • こころのケアセンター

HATコラム

平時と災害時を切れ目なくつなぐ排除のない防災へ

阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター上級研究員 立木 茂雄

立木 茂雄
1955年生まれ
関西学院大学社会学研究科修士課程修了
トロント大学大学院博士課程修了
同志社大学社会学部社会学科教授
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構 阪神・淡路大震災記念
人と防災未来センター上級研究員

災害時に配慮が必要な人たちの個別支援計画づくりが進んでいない。各種の調査を踏まえると、2018年はじめの現時点で、実効性が期待できる個別計画の策定率は全国平均でおよそ1割程度にとどまる(2016年はじめのNHKや、JDF、MURC総研調査、2017年末の朝日新聞調査や2018年2月の立木研究室独自の調査による)。

なぜ個別計画が前に進まないのか。理由は3つある。第一は、個別計画の策定が災害対策基本法上の義務ではないことにある。では、なぜ義務づけられていないのか。国の指針で個別計画づくりの主体として想定されている自治会や町内会などの地域組織に、それだけの人員や準備が整っていないためである。2017年末の朝日新聞の調査では、全国のおよそ半分の都道府県が手助けする人の不足を、進まない理由にあげた。また、個別計画づくりの主役であるべき障がい当事者へのJDF(日本障害フォーラム)調査でも、対策のキーワードである「避難行動要支援者(災害時要援護者)名簿」、「福祉避難所」、「個別(避難)計画」について、回答を寄せた当事者の半数は、いずれの言葉も「知らない」と答えていた。地域では計画づくりを手助けする人手が足りず、障がい当事者も、その半数はこのような取り組みの存在さえ知らない。これが第二の理由である。しかし、より根本的な理由は別にある。それは、平時の在宅での生活を可能にする福祉の環境づくりと災害時の緊急対策が、それぞれ保健福祉や防災・危機管理部局という異なった組織に分断され、構造や機能の連携がとれていないためである。

要配慮者の対策が、平時の保健福祉と災害時の防災・危機管理で分断されていることの最も深刻な弊害は、2011年3月の東日本大震災で起こった。障がいのある人たち向けの、在宅で生活ができるような福祉環境作りが進んでいた—しかし災害時の対応とは連携していなかった—宮城県でのみ、障がいのある人の死亡率(2.6%)は、全体死亡率(1.1%)の2倍以上になっていた。排除のない(平時の)福祉が、災害時の脆弱性をむしろ高めていたのである。

平時の福祉環境づくりと災害時の要配慮者対応が部局ごとの縦割りのために分断されている。このために、災害時に障がい者の被害が突出し、また同根の理由で個別計画づくりが進んでいないのである。

それでは、根本的な解決策とは何か。答えは、高齢者や障がい者への配慮の提供を平時と災害時で継ぎ目なく連結させることにある。災害が起きた場合、介助の必要な高齢者や障がい者を誰が支援するのだろう。いつもケアを提供しているヘルパーや介助者は駆けつけることができない。だから、専門家以外の人たち、つまりお隣近所の方々からの支援をいかにして確保するのかをあらかじめ考えておく必要がある。介護保険制度や障害者総合支援法によるサービスを展開する上で、地域の共助の力を高め、いざという時の近隣住民からの支援を組み込んだ個別支援計画を災害時のケアプランとしてあらかじめ作り、日常的に訓練を行うことが、福祉の側からも急務の課題となる。

その先駆的な例として、大分県別府市のこころみが参考になる。別府市では、市民団体からの呼びかけに応じて、当事者・市民団体・事業者・地域・行政の5者協働による災害時の個別支援計画づくり(以下別府モデル)を始めた。別府モデルの基本は、災害時の要配慮者対応と平時の障がい福祉サービスを継ぎ目なく連結させることにある。そこで、具体的な個別計画の策定は、普段から利用者のケアプランを策定している相談支援専門員が担当する。災害時のニーズへの具体的な対応方法については、同じ専門員が地域の公民館での調整会議に当事者と同伴して出席し、自治会役員と協議を進め、災害時ケアプランを策定する。そして、年に1回は、災害時ケアプランの有効性を検証するために、全員参加型の排除のない防災訓練を実施してプランの改善を図る。現在はモデル地域だけだが、ゆくゆくは全市展開を予定している。

個別計画づくりを担う相談支援専門員は、防災に関する教育や訓練は受けていない。このような福祉関係者に防災の専門知識や技術を深めてもらうことが重要となる。そこで、人と防災未来センターの研究部では、本年度より日本財団の支援を受けて、福祉関係者が災害時ケアプランの策定のコーディネーターとなれるようにする研修プログラムの研究開発を別府市と共同で進めてきた。さらに別府市以外にもこのような取り組みを広めるために、播磨町や東大阪市、仙台市で福祉と防災の関係部局や事業者が連携した勉強会や研修会を続けた。2018年度には、篠山市でも同様のこころみを横展開する予定である。

防災対策の基本は、災害リスクの根本原因をつきとめ、そこに手をうつことである。災害時ケアプランのコーディネーター養成プログラムが、一人も取り残さない防災を実現するための根本的な解決の一助となることを期待している。