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HATコラム

 

少子高齢化に悩む世界~日本のとるべき政策

研究戦略センター参与 阿部 茂行

阿部 茂行
1948年生まれ
ハワイ大学経済学博士
同志社大学名誉教授
京都大学東南アジア地域研究研究所連携教授
(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構 研究戦略センター参与

ほとんどの先進国で少子化が再び進んでいる。晩産化が著しいことがその原因だ。晩産化は日本では1980年代から進んでいたが、ほかの先進国でも2008年のリーマン危機後の景気後退で所得が減少したことにより一気に進んだ。合計特殊出生率は1960年代までは概ね2.0以上の水準を維持していたが、1970年からはその低下が始まった。その背景には、子供の養育コストの増大、結婚・出産に対する価値観の変化、避妊の普及などがあった。1990年頃からは、出生率が回復する国も見られるようになってきた。その代表例がフランスだ。1993年に出生率が1.66まで下がり、経済的支援に加え保育の充実へシフト、さらに出産・子育てと就労に関して幅広い選択ができる環境を整える「両立支援」を強めた。その結果、2006年には出生率が2.005まで回復していた。しかし2010年の欧州債務危機で緊縮財政により給付の削減を余儀なくされ、2015年には出生率は1.92まで減少したのである。緊縮財政はイタリアや英国の出生率も低下させた。対照的にドイツの出生率は1990年代半ばの1.2台前半から2016年には1.59へとV字回復した。積極的な移民受け入れも後押ししたが、育児支援策の拡充がその要因であった。

一方、アジアを見てみると、シンガポール、韓国、香港、台湾およびタイの出生率は低下を続けている。1970 年の時点では、シンガポールが3.10、韓国4.50、香港3.29、台湾3.71、タイ5.02といずれの国も日本の2.13を大きく上回っていたが、現在では人口置換水準の2.07を大きく下回る水準になっている。2015年の出生率は、シンガポールが1.24、韓国1.24、香港1.20、台湾1.18、タイ1.40(2013年)といずれも日本の1.45を下回る。シンガポールやタイのとりあえずの解決策が外国人労働力の大量の導入であることはよく知られている。

日本は2005年に出生率1.26と過去最低水準を記録し世界に衝撃を与えた。低消費が長引き、景気は低迷、長生きする高齢者が多く、その高齢者を支える社会保障費は若い世代にのしかかる。若い世代の低所得は晩婚化に繋がり、晩産化、そして低出生率、低消費、この悪循環からの脱出は困難を極める。2011年以降、大人用おむつの売上が子ども用を上回り続けているという日本の呪縛を象徴するような統計もある。為す術がないと思われた日本の出生率も日本流「両立支援」が功を奏したのか、2012年に1.41を記録し、その後も1.45近傍で推移している。

この間、何が起こったのであろうか?今後どのような施策を打ち出すべきであろうか?こうした問題を経済学的手法で実証研究し、政策提言に繋げるべく、「少子高齢化社会の制度設計〜年齢で人生を区別しない社会並びに子供を産み育てやすい社会の実現に向けて〜」プロジェクトで研究を目下深化させている。専門家集団が何度も会合を重ね、これまで分かったところ、そして今後実施しようとしている研究を要約してみると次のようになる。

まず経済成長がなぜ起きないのかについては、企業の成長率予測が何に基づくのかという観点から分析を進め、投資などの供給要因より、消費などの需要要因が成長率予想に影響を強く与えることを実証した。このことから経済成長を実現するためには、消費者の不安を払拭させる取り組みとともに、安定的な雇用確保、社会保障制度の再設計が必要であることの確証を得た。消費を伸ばすための高齢者の資産活用については高齢者の貯蓄行動を分析した。その結果、退職高齢者は将来の生活不安から資産・貯蓄を緩やかに取り崩していること、また在職高齢者はさらに資産・貯蓄を積み増し、消費を思うほど増やしていないことが判明した。労働力不足を女性や高齢者で補うという点については、高齢者の雇用の現状は若者の雇用と競合してはいないが、高齢者の経験が十分に活かされることもなく、給与が低い。配偶者控除の壁があり女性雇用が思うように進まなかったのと同様に、在職老齢年金という制度が高齢者の就業にブレーキをかけていることも判明した。企業側もこの制度を逆手にとって年金の減額がない程度の給与で雇用をとどめている可能性もあり、これが高齢者の労働力拡大を阻んでいる。出生率を向上させた要因として注目しているのは「くるみん」また「プラチナくるみん」という国、企業が一体になって取り組む子育てサポート企業の認定事業である。女性が子供を持ちやすい職場環境の整備こそが出生率の改善に重要な役割を果たした可能性がある。企業や行政へのアンケートやインタビューを通じてその実態に迫る必要があろう。以上これらすべてについて兵庫県へのインプリケーションを今後明らかにしていく予定である。

こうした我々の研究は、少子高齢化に直面しているアジアにとって将来大きな指針とすべく、アジアの少子高齢化の実情調査も今後の研究視野に入れている。