課題提起

写真 渡辺 利夫

渡辺 利夫  ●拓殖大学国際開発学部長
〔概 要〕
   中国の環境問題は、大気汚染・水質汚濁・固形廃棄物のいずれを見ても今日極めて深刻化している。相当の政策的努力を傾注しなければ取り返しのつかない悲劇的な事態が中国の全土で発生することが避けられない。 大気汚染を例にあげると、中国の石炭エネルギーの利用効率は旧式機械設備のゆえにきわだって低く、単位 生産に要する石炭消費量はおのずと大量たらざるを得ず、加えて中国炭の硫黄含有率は一般に高い。そのため硫黄酸化物の排出量はすでに許容量を超え、酸性雨・健康被害が続出している。 こうした大気汚染は広大な中国の全土に及んでおり、日本のODAがそのすべてに対応できるはずもない。限られたODA資源を分散的に用いれば、効果は雲散霧消してしまう。今後は、ODAを供与すべき地域を限定して資源を集中的に投入し、そこで実現される環境保全の仕組みを周辺諸都市に波及させるメカニズムを創出するより他に方途はない。日中環境開発モデル都市形成の構想がそれである。 この構想は、中国における大気汚染のありようを典型的に示している都市をモデル都市として設定し、日中協働して環境対策をここで重点的に展開しようというものである。具体的には、クリーンエネルギーへの燃料転換、省エネルギー技術の導入、汚染源の郊外移転、その他諸政策のベストミックスを探り、さらに副産物のリサイクル、環境モニタリング、人材育成などをモデル都市内で展開していく。このモデル都市構想のめざすところは、個々の環境汚染源への対応ではなく、モデル都市の環境保全の仕組みを周辺に波及させるメカニズムの創出が主眼である。 今後は、環境保全のための協力というように、ODAの重心を移していかざるを得ないだろう。また、日本だけでなく他国と連携して第3国への協調援助を行う「連携型ODA」という新しいパターンも望まれるのではないかと考えている。
ページのトップへ戻る