第24回「アジア太平洋フォーラム・淡路会議」国際フォーラムの概要

写真:第24回「アジア太平洋フォーラム・淡路会議」国際フォーラムの風景

プログラム
  • 日時
    2023年8月4日(金)
    10:30~17:10
  • 場所
    兵庫県立淡路夢舞台国際会議場
    (兵庫県淡路市夢舞台1番地)
  • テーマ
    「SDGsと社会の変革」
  • 内容
    • ○開会挨拶
      五百旗頭 真
      (アジア太平洋フォーラム・淡路会議代表理事)
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    • ○歓迎挨拶
      片山 安孝
      (兵庫県副知事)
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    • ○第22回アジア太平洋研究賞受賞者紹介
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    • ○記念講演
      ◆記念講演1
      「Japan’s Important International Role in Using the 17 SDGs to Stop Cold War 2.0 and Global Warming(SDGsの17の目標を活用し、冷戦2.0と地球温暖化を止めるための日本の重要な国際的役割)」
      講師:Wing Thye Woo(胡永泰)
      (カリフォルニア大学デービス校経済学名誉教授、国連SDSN(持続可能な開発ソリューションネットワーク)アジア担当副代表)
      ◆記念講演2
      「さらなる女性活躍を目指して -理系・医療分野において」
      講師:臼井 恵美子
      (一橋大学経済研究所教授)
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    • ○基調提案
      ①「環境と経済の両立を実現するグリーン・ニューディール」
      講師:明日香 壽川
      (東北大学東北アジア研究センター・同環境科学研究科教授)
      ②「アカデミズムとジェンダー -人文学・社会科学を中心に現在の課題を考える」
      講師:井野瀬 久美惠
      (甲南大学文学部教授)
      ③「中国のEVシフトの現在地」
      講師:湯 進
      (上海工程技術大学客員教授/中央大学兼任教員)
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    • ○分科会
      第1分科会
      「脱炭素・グリーンエネルギーと経済活動」
      座長:中尾  優
      (東北大学東北アジア研究センター・同環境科学研究科教授)
      第2分科会
      「ジェンダー観の歴史と展望」
      座長:窪田 幸子
      (学校法人芦屋学園芦屋大学長、神戸大学名誉教授授)
      第3分科会
      「国際社会におけるEVシフトの現状」
      座長:梶谷  懐
      (神戸大学大学院経済学研究科教授)
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    • ○総括と謝辞
      阿部 茂行
      (ひょうご震災記念21世紀研究機構参与)
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■記念講演の概要■

◇記念講演1 「SDGsの17の目標を活用し、冷戦2.0と地球温暖化を止めるための日本の重要な国際的役割」
ウィング・タイ・ウー(胡永泰)(カリフォルニア大学デービス校経済学名誉教授/国連SDSN(持続可能な開発ソリューションネットワーク)アジア担当副代表)
1.私たちの二つの課題―気候変動と冷戦2.0

このアジア太平洋フォーラムが、兵庫県だけではなく世界の人々の生活をより良い軌道へ運ぶものになってほしい。その軌道の先には、SDGs(持続可能な開発目標)の17の目標とパリ協定の達成がある。最初に、阪神・淡路大震災の6434人の犠牲者の方々に追悼の意を表す。私たちは地震を止めるすべを持っていないが、気候変動と冷戦2.0という二つの人災は防ぐことができる。

 

2.現在の国際情勢

地球温暖化により、農作物の産地が変わり、自然災害が増え、生物多様性が損なわれている。また、貿易戦争により、経済の繁栄が脅かされている。コロナ禍においてトランプ前大統領のアメリカはWHO(世界保健機関)から脱退し、世界は協力して感染症と戦わず、貧しい国々への支援をためらったことで、インドからデルタ株、南アフリカからオミクロン株が発生した。国家安全保障が脅かされ、工場より武器に投資する国が増え、経済成長が妨げられている。

 

3.アメリカの外交政策における三つのグループ

冷戦が起きる要因は、貿易競争(trade competition)、技術(technology)、脅威(threat)であり、地政学的に「三つのT」と言われている。また、アメリカの中国外交に関する考え方には、3つのグループがある。グループ1は、米中戦争を始めようとする軍産複合体と反共産主義者、グループ2は、中国との対話・交流を繁栄に結びつけようとする大手金融企業やハイテク企業、グループ3は、米中が協力して世界を統制しようとする国際主義者である。グループ2と3の協力により、中国は2001年にWTO(世界貿易機構)に参加できたが、未だに海外の電子支払いシステムに門戸を開いていないため、グループ2の金融企業はグループ1と連合を組んで対立するようになり、グループ2のハイテク企業も、中国製のWeChatやファーウェイの台頭で、中国をライバル視するようになった。さらに、中国軍が中国企業のために米国企業へサイバースパイを仕掛けたことが分かり、米中関係はより悪化した。

 

4.中国への技術流出による経済損失予測

アメリカは、中国への技術流出を減らそうとしているが、そのことにより中国の近隣諸国は甚大な被害を受けることになる。私と3名の韓国人教授が、技術流出削減による各国のGDP低下率を調査した結果、米中だけでなく韓国、台湾、日本、ASEANでも低下すると予想される。日本と韓国とASEANは、協力して冷戦を止めようとすべきであるし、中国人とアメリカ人も本当は平和と発展を望んでいるはずである。

 

5.デカップリング(競争の切り離し)により米中緊張を止める方法で

米中緊張による負の悪循環は、貿易競争、技術競争、戦略地政学的競争という三つの競争から生じている。対応策は、アメリカと中国を切り離すことではなく、三つの競争を切り離すことである。国家安全保障とは、最初に攻撃をした者は勝つことができない、最初に攻撃されても敗北しない状態を創ることである。私たちは、最初の冷戦の時のように、国境での力のせめぎ合いを防ぐ明確なルールを設定しなければならない。国境の争いを防げば、ウィンウィンの成果が生まれ、ビジネスが発展する。経済制裁は、国家安全保障を担保するのに効率的ではない。世界は2006年から北朝鮮に経済制裁を強めているが、北朝鮮はいまだに存在し、私たちを脅かし続けている。技術競争は産業政策の大きな妨げとなるため、不公平な取り引きを禁止するべきである。アメリカが中国に対抗する最善の方法は、中国の技術的権利を封じ込めることではなく、三つの競争を分けることである。

 

6.「剣を鋤に変える」日本の役割

米中間で、軍備管理協定や産業政策協定を結ぶために必要な信頼関係が希薄な中、聖書でいう「剣を打って鋤の刃に変える」ことに、日本はリーダーの役割を果たせる。日本は米中関係を再構築するリーダーシップを取るべきである。昨日の授賞式では、三つの隣国から論文が出され、日本こそがアジアを深く理解していると認識した。また、地球温暖化防止対策として、グローバルなネット・ゼロ・エミッションを達成するには、南アジアでのCO2排出をゼロ、ひいてはマイナスにする必要がある。南アジアは、炭素吸収源である熱帯雨林を保全するために、他国の知見と資金提供を必要としている。日本は韓国やASEANと協力し、ひいては中国とアメリカも巻き込んだパートナーシップを形成し、南アジアに技術的・財政的支援を行ってほしい。

 

7.国連SDSN(持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)の活動

国連SDSNは、2012年設立、会長はジェフリー・サックスで、世界に1800以上の会員がいる。ニューヨーク、パリ、クアラルンプールに事務局を置き、クアラルンプールのアジア本部では、日本も共に国ごとの持続可能な開発プロジェクトや気候変動のアクションプログラムを企画している。「ASEAN Green Future Project(AGF)」では、ASEANの9カ国がチームをつくり、脱酸素化のコストとベネフィットを定量化する活動を行っている。「Science Panel for Southeast Asia Biodiversity Protection(SP-SEA:東南アジアのための生物多様性保護科学パネル)」では、アマゾン川流域で生物多様性を保護する「Science Panel for the Amazon(SPA)」を参考に、東南アジアで生物多様性の保護、持続可能な農業開発、地域経済の繁栄、グリーンシティを実現するための土地利用等に取り組んでいる。

 

8.国際協力で危機は防げる

私たちには気候変動や冷戦2.0という大きな脅威が迫っているが、人為的な脅威であるため、私たちの力で止めることができる。東南アジアでそれらを阻止し、世界の調和を取り戻す国際共同体をつくっていきたい。

 

◇記念講演2「さらなる女性活躍を目指して -理系・医療分野において」
臼井 恵美子(一橋大学経済研究所教授)

日本で男性比率の高い領域、特に理系分野と医療分野における女性活躍の推進について分析した論文を報告する。どちらの分野も、若年時の意思決定が、本人の長期のキャリアに大きく影響している。そこで、若い人々への教育や啓蒙活動を強化することが今後の女性活躍につながると思われる。

 

1.診療科ごとの女性医師の比率

医療分野では、まず、初期臨床研修修了後からのキャリア形成における、女性医師と男性医師の違いを分析した。医師の診療科には、外科、脳神経外科、整形外科、泌尿器科など、男性比率が高い分野と、産婦人科、小児科、眼科、麻酔科など、女性比率の高い分野がある。そこで、初期臨床研修の修了後に医師が従事している診療科を「初職診療科」とする。女性医師が、男性比率の高い診療科を初期診療科とした場合、女性医師はその診療科にとどまりそこでキャリア形成する割合が低くなる傾向がある。

 

2.初職診療科での女性医師のキャリア形成状況

男性比率の高い初職診療科では、女性医師がその診療科にとどまる率だけでなく、基本領域専門医資格、サブスペシャリティ領域専門医資格の取得率も男性医師より低いため、女性医師のキャリア形成をキャリアの初期段階からサポートする必要がある。一方、女性比率の高い初職診療科では、その科にとどまる率や基本領域専門医資格取得率の男女差はないが、サブスペシャリティ領域専門医資格取得率が、女性医師は男性医師に比べて低くなる。女性比率の高い初職診療科では、女性がキャリア中期においてキャリアアップできる環境を整備することが必要である。また、診療科によって労働時間が異なり、家事や育児の負担を多く担う傾向にある女性医師は、労働時間の少ない診療科を選ぶ傾向があることも見えてきた。

 

3.新臨床研修制度の効果

2004年から臨床研修制度が改正された。臨床研修医が受ける研修が、ストレート研修(単一診療科の研修)からスーパーローテート研修(複数の診療科を必修とする研修)に変わった。外科が必修となり、従来男性比率の高かった外科、泌尿器科、脳神経外科を初職診療科に選ぶ女性医師が増えた。一方、整形外科を選ぶ女性医師は増えなかった。また、初職診療科にとどまり、サブスペシャリティ領域専門医資格まで取得する女性医師が増えている。新制度のもと、複数の診療科を経験し、自分に適応した初職診療科を選択できるようになったと思われる。

 

4.医療分野における女性活躍の課題

新臨床研修制度により、女性医師が外科系診療科を初職診療科として選ぶ割合が上がり、基本領域・サブスペシャリティ領域専門医資格の取得状況も改善されている。しかし、外科医となる女性の数はまだ少なく、労働時間の長い外科系の働き方改革は必要である。特に、整形外科の女性医師を増やす有効な方策を検証していきたい。

 

5.理系進学における男女差を見たアンケート結果

一方、理系分野における女性活躍については、日本にはまだ多くの課題がある。高校1年生とその保護者を対象に「学習科目選択と大学進学に関するアンケート」を実施した。まず、高校1年生の段階で、理系科目を受験科目として考える女子生徒が少なかった。また、女子生徒とその保護者は、将来進学する学部として、工学部を考えていなかった。さらに、女子生徒は男子生徒ほどには工学部進学について保護者に相談していなかった。

 

6.学部選択の男女差決定要因

学部を選ぶ際の重要な要因は、男子生徒、女子生徒とも「勉強が面白い」ことと「合格する可能性が高い」ことであった。男女生徒と男子生徒の保護者は、「勉強が面白い」ことの方をより重視していたが、女子生徒の保護者は、「合格する可能性」の方をより重視していた。女子生徒の保護者は「娘に浪人してほしくない」と考えていると思われる。また、女子生徒は特に「母親」に進路相談しているため、進学先の候補としての理系分野への母親の理解が深まれば、娘が理系分野に進学することを勧める可能性が期待される。従って、女子学生の理系進学を促進するためには、母親と子どもの両方への啓もう活動を展開することが有効であると思われる。2年後、高校3年生になった男女生徒にフォローアップ調査をすると、高校1年生時、工学部に進学を考えていた男子生徒のうち、実際に進学したのは半分であった。理系に進学するためには懸命に勉強する必要があるため、理系受験という挑戦を女子生徒にさせたくないと考えている可能性がある。理系進学への意識について、高校1年生時に男女差があることが判明したが、日常生活の中で科学を知ることを重要と考えている生徒は、理系に進学する傾向があるため、小中学校の理科教育を改善することが男女差の解消につながると思われる。

 

7.理系分野でのさらなる女性活躍に求められる教育と意識の改革

女性が理系・医療分野でキャリアを築くためには、女性が高校1年生時には理系学科を勉強したいという希望と期待を持つことが望まれる。その状況を創り出すためには、小中学校における理科教育の改善と、保護者の意識改革が重要である。保護者、特に母親に対し、理系分野の卒業後の進路を啓もうする必要がある。また、科学技術振興機構(JST)が2007年から実施している「理科支援員配置事業」制度により、教員の理科指導力が向上し、児童の理科への関心度が高まるという成果が見られている。公立小中学校の理科教育を充実させることが、女子の理系学部・職業の選択につながると考えられる。

 

■基調提案の概要■

「環境と経済の両立を実現するグリーン・ニューディール」
明日香 壽川(東北大学東北アジア研究センター・同環境科学研究科教授)

地球温暖化対策を講じると経済や雇用にマイナスになると思われがちですが、今は再生可能エネルギー等のコストが安くなっており、省エネやグリーンな産業や流通に投資することで景気と環境を良くし、雇用も増やすことができます。それは「グリーン・ニューディール政策」と呼ばれています。

日本政府は、地球温暖化対策として原子力発電を復活させようとしています。しかし、原発は、再生可能エネルギーに比較して、発電コスト及びCO2排出削減コストがより高いと国際エネルギー機関(IEA)も指摘するようになっています。もちろん、事故などのリスクや廃棄物処理の問題もあります。雇用に関しては、私が関わる研究者グループで2021年にまとめた日本版グリーン・ニューディール「レポート2030」では、原子力発電所や化石燃料関係の雇用喪失より、再生可能エネルギー新設や省エネ導入による雇用創出の方が数としては大きく上回ると試算し、その具体的な数値を示しています。

自然災害の増加など、温暖化の被害は顕著になっています。再生可能エネルギーや省エネの導入を中心とするエネルギー転換は、温暖化対策でもありますが、経済復興あるいは産業復興政策でもあります。

 

「アカデミズムとジェンダー -人文学・社会科学を中心に現在の課題を考える」
井野瀬 久美惠(甲南大学文学部教授)

日本における女性活躍は、理系分野だけでなく文系分野でも課題です。そのことをデータで示すため、細分化された人文学・社会科学の学会を横につなぐ組織として、「人文社会科学系学協会男女共同参画推進連絡会(GEAHSS(ギース))」を設立しました。

日本では、文系高等教育の女性進学率と文系研究者の女性比率がいずれも低く、世界でも少数派です。元々少ない女性文系研究者は、配偶者の転勤、非常勤勤務の掛け持ちで論文を書く時間がないこと、育児・家事との兼ね合い等を理由に、途中で辞めていくケースも少なくありません。そもそも人文学の高等教育を受けた女性には、大学の研究職以外の職種があまりないことも課題です。

文系研究者が男女問わず語り合い、研究を続ける上での課題を共有していきたいと思います。

 

「中国のEVシフトの現在地」
湯 進(上海工程技術大学客員教授、中央大学兼任教員)

中国は、世界の脱炭素の動きを広げた2015年の「パリ協定」以降、国策としてEV(電気自動車)の普及を進め、生産・販売・輸出とも世界第1位になりました。特に2021年以降、有力な車両の登場、輸出の増加、中小都市・農村部への普及等により、新車販売が大幅に増加しています。国はEV購入者に補助金を出し、充電スタンドや電池交換ステーションの整備を進め、企業は低・中・高価格のEVを用意し、コネクテッド機能の付与を進め、電池をはじめEV部品を地場製造しています。

中国の自動車輸出台数はドイツを抜いて世界第2位に上がり、日本に迫っています。ガソリン車が主流の日本は、EV開発において世界に後れを取っています。日本の自動車産業が世界で勝ち残るためには、ガソリン車の省エネ化・コストダウンだけでなく、多機能を搭載する差別化されたEVの設計・開発・販売が必要です。

 

■分科会の概要■

第1分科会 「脱炭素・グリーンエネルギーと経済活動」
報告者 中尾 優(弁理士法人有古特許事務所長、弁理士)

第1分科会では、ウー教授と明日香教授、五百旗頭代表理事にもご参加いただき、「脱炭素・グリーンエネルギーと経済活動」というテーマで1時間のフリーディスカッションを行いました。

最初に、明日香先生の講演に関して、原子力のコスト問題についての質疑応答がなされました。地球温暖化防止のため、グリーンエネルギーへの転換は待ったなしですが、エネルギーのコスト計算は時代の価値観より変わること、発電施設の建設・維持費や建設の場所、電力の安定供給などを配慮する必要があることなども議論されました。

ウー教授には、国連での脱炭素・グリーンエネルギーと経済活動に関する取り組みについて改めて質問しました。東南アジア諸国の脱炭素を進めるASEAN Green Future Projectというプロジェクトを紹介されたので、日本ができる貢献についてイメージや具体策をお尋ねしました。ウー教授のお答えは、ラオス、カンボジア、シンガポール、マレーシアといった東南アジアの国々をまたぐ電力供給の実現において日本の技術が非常に貢献するというもので、日本は強く期待されていると感じました。

またウー教授は、水素が持つ可能性に強い興味関心を持っておられ、各国・各デバイスで装置が違うと使い回しが悪いといった具体的な事例も示されました。私の不勉強かもしれませんが、われわれの知らないところでそのような取り組みが進んでおり、世の中が変わりつつあるのだと感じました。

参加者からさまざまなご質問があり、また五百旗頭代表理事からもご感想を頂き、大変実りある、勉強になる会でした。

 

第2分科会 「ジェンダー観の歴史と展望」
報告者 窪田 幸子(学校法人芦屋学園芦屋大学長/神戸大学名誉教授)

第2分科会には、講演者の臼井先生と基調提案者の井野瀬先生に同席いただき、理事から上島達司様に参加いただきました。全体で8名ほどでしたが、1時間では足りないほど、非常に活発で面白い意見交換ができました。

最初に、これまでのご自身の専門や仕事の中で男女共同参画推進やジェンダーのことにどのように関わってきたかということを、自己紹介を兼ねて全員にお聞きしました。子ども時代に理系教育に関わらせるという臼井先生のお話には、特にいろいろな方が興味を持たれたようで、そのことに関するコメントが幾つかありました。特にシニアの方たちからは、ジェンダーについてこれまで随分やってきたけれども、まだまだ改善点が見られないというご指摘を強く受けました。

臼井先生は、ご自身が経済学で、かつアメリカという場で研究を積み重ねた中で、女性研究者がどのように男性の研究ネットワークから外れており、それに対するどのような試みがなされてきたのかをご紹介頂きました。井野瀬先生は、講演で最後に触れられていた場の共有、つまり「生きづらさ」を共有することが女性の関係性を変えていくだろうとご指摘されました。ジェンダーの問題は非常に複層的で、いろいろな問題が背景にあることがお二人の話から分かりました。それを解決していくためには、新たな関係性・ネットワークの構築が重要であるということが、偶然ですがキーワードとして出てきました。

日本のジェンダーギャップ指数が非常に低いことはよく知られています。これをどう変えていけばよいか、私から参加者の皆様に問い掛けました。村田晃嗣先生は、日本ではこれだけ人口減少と少子化が進んでいるので、ジェンダーギャップを是正していかざるを得ないという大きな構造変革につながるのではないかと展望されました。あまり明るい期待ではありませんが、社会を変えていくきっかけになる可能性はあると思いました。

最後に上島理事が、二つのコーヒーネットワークの話をご紹介くださいました。国際的につながっている「スペシャルティコーヒー」の協会は、女性がたくさん入っていて変化しているそうです。一方、昔からの業界団体である「全日本コーヒー協会」は、男性ばかりで全く面白くないので、海外と直接つながってしまう方が早いのではないかというお話でした。

実際のところ、ジェンダーにまつわる状況は硬直化しており、しかもそれは個人の状況なども重なるわけですので、そう簡単には変わらないということは私自身もこれまでの人生を通して経験してきました。しかし、海外への風穴が開いてきており、しかもコロナ禍の影響によりZoom等で簡単につながれるようになった今、ネットワークを国内に閉じるのではなく、海外につないでいくことが、ジェンダーに風穴を開けることにつながるのではないかと思った次第です。大変面白い1時間でした。

 

第3分科会 「国際社会におけるEVシフトの現状」
報告者 梶谷 懐(神戸大学大学院経済学研究科教授)

第3分科会では、湯進先生のご報告をベースとして「国際社会におけるEVシフトの現状」というテーマでディスカッションを行いました。ただ、実態としては「中国のEVシフトの衝撃、どうする日本?」といったトーンで議論が進みました。

主なテーマは3点ありました。1点目は、そもそもEVシフトを、人々の意識を踏まえてどう考えるのかです。フロアからは、ガソリン車は単なる移動手段ではなく、運転の楽しみのような、より高度な娯楽を提供する側面があるけれども、EVにはそのような要素がないという指摘がありました。湯先生からは「新興国では高度な運転に親しむより前にEVが普及し、EV自体がそこに登載されたスマートスピーカーやそのアプリなどを通じて、さまざまな娯楽機能を提供するので、EVに慣れた人々はもはやガソリン車に戻ることはないだろう。」というご指摘がありました。

2点目は、そうした変化を踏まえ、部品メーカーも含めた日本の自動車メーカーは、どのように対応すべきかです。これに関しては幾つかの問題があります。一つは、これまで日本の主な自動車メーカーは主に、第一汽車や上海汽車といった中国の国有企業と合弁事業を展開してきたのですが、湯先生のご報告にあったように、EVに関してはBYDのような民間企業や新興メーカーが台頭しています。日本のメーカーが国有企業と組んでガソリン車の製造をしていればそれでよかった時代は、もう長くはないだろうということです。既にサプライチェーンが大きく変化しており、特にIT企業がEVのデザインを大きく変え、市場を左右する状況になっています。日本のメーカーがそれにきちんと対応できるのか。湯先生からは「日本の部品メーカーの製品は素材も含めて非常に質が高く、競争力もあるので、個々の企業は力があるが、それをまとめていく力が弱いのではないか。」という非常に貴重なご指摘がありました。例えばスマートフォンのような、大きなコンセプトを持って個々の部品を組み合わせたものを提供する力が、日本のメーカーは弱いということです。

3点目は、経済安全保障への対応という点です。特に重要なのは、グローバルな相互依存が深まる中、レアアースなども含めたクリティカルミネラルが制裁に使われるという現状があるということです。中国のメーカーがこれにどう対応するのかという質問に、湯先生は「クリティカルミネラルが重要な役割を果たすのは電池の分野だが、この分野は非常に進歩しており、例えばコバルトが希少になればコバルトを使わない技術が開発されるので、その対応はかなり柔軟になされている。」と回答されました。

第3分科会で一つ残念だったのは、女性の参加が1人もなく、ジェンダー的に偏りがあったことでした。これまでガソリン車の世界は男性が仕切っていた側面があったと思うのですが、これからEVにシフトすることで業界がジェンダー的に開かれていく可能性を期待したいと思います。

 

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