フォーラム2009の概要

写真 フォーラム2009会場風景

プログラム
  • 日時
    2009年8月1日(土)
    9:00~16:15
  • 場所
    兵庫県立淡路夢舞台国際会議場
    (兵庫県淡路市夢舞台1番地)
  • テーマ
    「世界経済危機をどう生き抜くか-世界の知恵・アジアの知恵・日本の知恵」
  • 内容
    (コーディネーター)
    • 阿部 茂行
      同志社大学政策学部教授
    • (1)基調提案(9:10~10:50)
    • 杉田 定大
    • 早稲田大学客員教授・前経済産業省大臣官房審議官
    • 「経済危機への対処-日本の役割について-」
    • 加護野 忠男
    • 神戸大学大学院経営学研究科教授
    • 「経済危機への対処-企業の競争力強化について-」
    • 林 敏彦
    • 放送大学教授・(財)ひょうご震災記念21世紀研究機構研究統括
    • 「経済危機への対処-国民生活について-」
    • 藤井 威
    • 株式会社みずほコーポレート銀行常任顧問(元スウェーデン大使)
    • 「経済危機への対処-内需型経済への移行、福祉社会に向けて-」
    • (2)分科会(10:50~14:00)
    • 第1「世界経済危機とアジア経済」
    • モデレーター:阿部茂行(同志社大学政策学部教授)
    • ディスカッション・リーダー:バリー・ボズワース(ブルッキングス研究所 上級研究員)
    • チャロンポップ・スサンカーン(元タイ財務相)
    • 杉田 定大(早稲田大学客員教授・前経済産業省大臣官房審議官)
    • 第2「世界経済危機と企業・リーダーシップ」
    • モデレーター:吉原 英樹(南山大学大学院ビジネス研究科教授)
    • ディスカッション・リーダー:加護野 忠男(神戸大学大学院経営学研究科教授)
    • 第3「世界経済危機と国民生活」
    • モデレーター:宮内 淑子(メディアスティック(株)代表取締役社長)
    • ディスカッション・リーダー:林 敏彦(放送大学教授・(財)ひょうご震災記念21世紀研究機構研究統括)
    • 藤井 威(株式会社みずほコーポレート銀行常任顧問(元スウェーデン大使))
    • (3)全体会・討論(14:15~16:15)

井植敏淡路会議代表理事の挨拶に続いて、同志社大学政策学部の阿部茂行教授の進行により、4人の講師から基調提案をいただきました。

最初に早稲田大学客員教授・前経済産業省大臣官房審議官杉田定大氏は、「1997年のアジア通貨危機後アジアでは、銀行ローン・外資に対する規制により自国通貨の評価が低くなり、輸出型の工業開発が起こって外貨が増えた。内需が増えないので貯蓄が増え、この資金は米国債や、サブプライムローンに流れた。このような流れの中で短期的な貿易金融の問題と中長期的な構造問題、資金の流れを含めた構造改革をどうしていくのかが重要だ」述べた後、日本政府の「アジア経済倍増へ向けた成長構想」について説明されました。

「まず短期的に貿易投資金融の流れをしっかり作ること、次に各国が国内のインフラ整備、医療・福祉・農業などの構造改革を進め、また、ERIA(東アジア・ASEAN経済研究センター)を通じてASEAN+3の共通政策を議論すること、人材育成を進めることが必要である。もう一つは、ASEAN+3やASEAN+6というような流れの中での経済統合の議論やファイナンシャルなキャピタルマーケットの構築というリージョナルなコーポレーションの推進により「開かれた成長センター」としてのアジアが世界にコントリビューションしていくべきである。」とし、「中長期的に、官民の連携による総合的インフラ計画をアジアで作ることと、今後ボンドや証券で資金調達する仕組みが重要になる中で、アジアのインフラファンドの創設が望まれる。」旨、述べられました。

次に、神戸大学大学院経営学研究科加護野忠男教授は、「100年前の経済危機の際、松下電器の売上が半減し、このままでは従業員を半分にしなければならないと相談に来た義弟の井植歳男氏に、入院中だった松下幸之助氏は「仕事を半分にして、後の半分で商品を売る努力をせよ」と指示したという逸話がある。今のように人減らしをするのは、恥ずかしい話だ。

ミシェル・アルベールの不吉な予言がある。1989年のベルリンの壁崩壊以降、金融中心のアングロアメリカン資本主義と、国民を守るライン型資本主義という2種類の資本主義が対立する世界になり、金融資本主義が勝つという予言だ。アルベールは、人間はバカなので「アリとキリギリス」の生活を見せると、多くがキリギリスを選ぶと結論付けている。確かに、金融資本主義はものづくりよりも楽で、儲かる。日本でも、欧州ほどではないが、多くの企業がその方向の改革に進んだ。金融証券取引法も改正され、企業はそれを守るしかなかった。その結果、企業は四半期で利益をあげるのに必死になり、従業員を切るという愚かなことをした。そして、時価会計制度によって、潰さなくてよい企業までが潰されるようになった。経営のわからない株主の言いなりになって、企業の業績はおかしくなり、株価も上がらなくなった。トヨタは以前、終身雇用制度を採っているとの理由で、アメリカの格付け機関から格下げされたが、その後、株価は急激に上がった。金融と企業経営の論理は違う。その点がアメリカの失敗であり、日本とドイツもそれに追随して痛い目にあった。金融資本主義との決別が必要だ。」と、述べられました。

次に、放送大学教授・(財)ひょうご震災記念21世紀研究機構研究統括林敏彦氏は、「せっかくの機会なので、100年に一度の経済危機というのではなく、1000年、2000年の話をし、思い切った問題提起をさせていただこうと思う」と断られたうえで、「歴史的に、起源1年から今まで2000年間の推移を見ると、人口の増加と一人当たりGDPの増加はほぼ軌を一にして動いている。回帰分析の結果、日本では人口が1%増えれば、一人当たりGDPが1.78%上がるということになる。逆に1%減ればGDPは1.78%下がるということだ。国連の人口推計では日本は2005年をピークに人口減少社会に入り、2050年には1億人を切る。人口が30%減れば、一人当たりGDPは50%下がる。一人当たりの日本人のGDPが今から半分になっていくことが、人口の趨勢から予測されるが、それは、1960年代初頭の生活レベルに戻るということである。平成生まれの人たちにとっては、生涯収縮の経済となる。これで国が持続するかどうか問題だ。

できることを考えてみると、人口を減らさないために長寿を極めることと、何が何でも出生率を高めることだが、そのためには、家や都市の姿、人の価値観を変える必要がある。あるいは、1人あたりの生産性を高める、移民を受け入れるという方法もある。日本には移民という法的定義がないが、移民を入れる覚悟があるかどうかだ。批判を覚悟で言うと、日本が生き残る道として、人口の多い国と合併すること、つまり、アメリカの1州になるか、中国の一部になるかという方法もある。

それを諦めるならば、GDPで幸せを測るのではなく、貧乏でも幸せな国を目指すことである。どの方法が良いかということについては、2050年に生きている若い人に託したいと思う。」と述べられました。

最後に、(株)みずほコーポレート銀行常任顧問藤井 威氏からは、内需主導の景気回復について、「内需を考える場合のスタンディングポイントは2つある。1つは、将来を考えた持続可能な成長、もう1つは、生産・需要・分配の中身の3面等価であり、現在の需要構造から必要な生産構造は福祉財と環境財を生産することである。」と説明されたうえで、この生産構造へスムーズに移行したスウェーデンの事例を紹介されました。

「福祉国家スウェーデンの特徴は、きわめて負担が大きいことだ。1960年、エランデル首相はアメリカ型の成長路線から決別し、福祉国家への道を選んだ。当時の国民負担率は、現在の日本と同程度の25~26%だったが、売上税を導入するなどして、20年かけて50.9%にした。しかしこの増税は、社会保障給付費や教育費など、つまり国民に返すものばかりだ。これが福祉国家だ。

日本とスウェーデンの公的負担支出割合の比較で医療・年金については変わらないが、その他の福祉予算、主なものは介護・保育・失業についてであるが、5倍の開きがある。スウェーデンでは女性が仕事と育児を両立できる環境整備などの家族政策に大きな予算が使われている。

この効果は極めて明確だ。スウェーデンの労働力率は、男女とも約80%で共稼ぎが当たり前、男女の賃金格差もほとんどなく、男性も夕方6時には退社して、家族の団欒が行われている。日本のように、男性は深夜まで働き、女性は家にいるという社会では、出生率は下がる一方である。

高負担にすると空洞化が起こるとの議論があるが、スウェーデンで1965年から2000年までに約40万人の雇用が創出され、そのほとんどが公的部門の高齢者ケア・ヘルスケア、児童福祉、教育の部門、つまりは女性が得意とする保育士・介護士、先生などだった。このような先進的福祉国家の事例を謙虚に見据え、日本型福祉社会に向けての道を切り開くべきである。」と、述べられました。

その後、参加者は第1分科会「世界経済危機とアジア経済」、第2分科会「世界経済危機と企業・リーダーシップ」、第3分科会「世界経済危機と国民生活」の3つの分科会に分かれて、それぞれのテーマで活発な討論が展開されました。

その後の全体会では各分科会の討論の概要について各モデレーターから報告がありました。

【第2分科会モデレーターより報告:吉原英樹教授】

世界経済危機における企業のリーダーシップ、および、アメリカ的金融資本主義と実業資本主義について、活発に議論した。 金融資本主義、アメリカ型経営、株主主権に対しては、ほぼ全員が批判的であった。世界市場で、世界的企業がオリンピックのように競争する場合は、アメリカ的金融資本主義の方が、日本の実業資本主義より強い。そこで、日本的経営が勝つ方向を見出すまでは、議論がいたらなかった。

トヨタ、キヤノン、コマツなど、日本の多国籍企業は、基本的に実業資本主義を続けるべきであり、アメリカ型に変えては元も子もないという意見も出た。また、日本もある程度アメリカ型に変えていかざるを得ないが、比較的小さな企業は日本型を続けられる、続けるべきだという棲み分けの意見があった。

製造業において、オペレーション・技術力・工場でのマネジメントに、戦略・経営をかけて利益になる。つまり、日本企業の利益率が欧米に比べて低いのは、工場のオペレーションや技術は強いが、経営と戦略が弱みだということである。

【第3分科会モデレーターより報告:宮内淑子氏】

現在の危機が国民生活に与えた影響、それを払拭して未来に向かって幸せを感じるにはどうすればいいかについて意見を交わした。

今は若い人が夢を持てず、新しいことに挑戦しても出口が見えない。加えて、東京一極集中、教育の貧困、文化や芸術に若い人が関心を寄せなくなるということが続くと、社会の弾力性がなくなる。さらに、男女格差、賃金格差、都市と農村の格差など、以前からあった課題がより深刻化し、日本全体が閉塞感の中にある。

今後重要なのは、介護・教育・福祉など、生活の質を高める施策の展開である。その実現のための必要条件として特に重要なのは、地方分権である。福祉、教育実現のためには、「国民の負担」という表現をやめ、「付加価値創生のためのお金」とすることと、その結果についてのビジョンを示すことが必要だ。

日本には、素晴らしいブランドがあり、宣伝費をかけてビジネスをしているが、本来、国民の幸せのためにお金を使うべきだ。道路だけでなく、病院・学校にも公共投資は必要だ。人口を増やすためには、高齢でも安心して子供を産める病院の充実が望まれる。 これらのことを、淡路発で、政治家や官庁、世界に向かって発信したい。

【第1分科会モデレーターより報告:阿部茂行教授】

メンバーが最も興味のある話題として挙げた、内需拡大、あるいはアジア域内需要を拡大するための具体的方策について議論した。

国内需要を喚起するために為替レートを高めに設定する、内需そのものを大きくするためにスウェーデンタイプの経済を目指す等の議論があった。また、内需喚起には所得分配が重要であり、日本は、豊かな高齢者が資産を使わないので、社会福祉の対策と同時に、所得分配、失業、非正規雇用の問題解決も重要である。所得分配については、アジアは高い貯蓄率を持っているが、家計部門では高くないことを忘れてはいけないとの指摘もあった。

その他、中等教育が二分化している現状、少子化よりも結婚しない兆候について問題だとする意見があり、日本の男性は家事をしないので、子供、夫、親の世話を考えると、女性は結婚を躊躇するという社会問題に踏み込んだ議論もあった。

アメリカの危機において、AIGとGMを政府が救済したことに、賛否両論があるとボズワース氏から説明があり。アメリカは将来、「Too big to fail」に学び、金融で大きなものを作らないだろう。アメリカの格付け会社が、サブプライムに良い評価をしたのが、今回の危機の大きな誘引と問題となったので、アジア域内で、自分独自の評価基準を持った格付け機関を持つのも1つのアイデアだという意見もあった。

各分科会の報告をうけて、参加者全員でさらに議論を深め、最後に2日間にわたる淡路会議の締め括りとして、防衛大学校長・神戸大学名誉教授の五百旗頭真氏から、総括と謝辞が述べられフォーラム参加者約45名による賛同と確認がなされ閉会しました。

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