第12回アジア太平洋研究賞(井植記念賞)受賞者 箕曲 在弘氏

論文タイトル「フェアトレードの生産者への影響をめぐる人類学的研究―ラオス南部ボラベン高原のコーヒー栽培農村の事例から―」

写真 箕曲 在弘氏
箕曲 在弘

【略歴】

2002年早稲田大学第一文学部人文専修卒業。2005年同大学院文学研究科修士課程修了。2013年同大学文学研究科博士後期課程修了(博士(文学))。この間、ラオス情報文化省調査員(2008年~2010年)、明治学院大学社会学部付属研究所研究調査員(2012年~2013年)。2013年4月より東洋大学社会学部社会文化システム学科助教。また、2011年より早稲田大学非常勤講師、2012年より国立民族学博物館共同研究員も務める。専門は文化人類学、開発人類学。

【要旨】

 

本論文は、ラオス南部ボラベン高原のコーヒー生産地域における1年半に及ぶフィールドワークにもとづき、近年、国際協力の分野で注目されているフェアトレードの生産者への影響について人類学的観点から論じたものである。
 第一部では、フェアトレード運動とその制度の概略を素描したうえで、調査の対象とした生産地の地理的背景について説明し、焼畑耕作からコーヒー栽培へ転換していった歴史的過程について明らかにした。一方、この過程のなかで、2001年以降に相次いで設立された、3つの生産者協同組合の制度や取引の仕組みについて比較検討した。
 続く第2部では、2つの異なる生産者協同組合の傘下にある村落を対象に、組合員世帯の家計戦略の概略を明らかにする中から、組合員がその戦略の中に生産組合への豆の売却をどのように位置づけているのかを検証した。この検証を通して、組合員の家計全体において、フェアトレードによる取引がどの程度の割合を示しているのかを明らかにした。
 第3部では、村落内の政治権力のあり方を分析したうえで、その中にフェアトレードを実践する生産組合が設立された場合、村落内の人間関係にいかなる作用が及ぶかを考察したり、仲買人と農民との取引関係の中にフェアトレードを実践する協同組合がいかにして入り込み、この関係にどのような影響を及ぼすのかを検討したりした。一方、筆者の調査中に起こった協同組合の解体という事態を追うことによって、組合内の人間関係や組合と政府との関係を明らかにした。
 結論では、人類学的なコミュニティ論を分析枠組とし、主に第3部の各章を振り返りつつ、フェアトレードの影響を考察する際には、現地社会の人間関係がいかなるメカニズムによって成立しているのかを詳細に把握し、そこにフェアトレードの仕組みが入ることでどのような作用を与えるのかを明らかにしていくことが重要であると指摘した。

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