第12回アジア太平洋研究賞(井植記念賞)佳作受賞者 劉靖氏

論文タイトル「公立学校選択における不平等:中国都市部での「择校」に関する言語と実践」

写真 劉靖 氏
劉靖

【略歴】

2007年南山大学総合政策学部総合政策専攻卒業(総合政策学士)。2009年名古屋大学大学院国際開発研究科博士前期課程修了(国際開発学修士)。2013年同大学院国際開発研究科国際開発専攻後期博士課程修了(国際開発学博士)。この間、2009年国連教育科学文化機関バンコク事務所インターンシップ、2010年米国ピッツバーグ大学教育学部客員研究員。2013年2月より名古屋大学大学院国際開発研究科で特任助教として「大学の世界展開力強化事業」を担当。

 

【要旨】

 

本論文は、“「择校」(Ze Xiao)”と呼ばれる中国都市部の学校選択の実態(公立学校への進学における様々な選択基準と親の介入)を解明するとともに、それに関わる格差、情報の選別性、パワーバランスについて明らかにすることを目的としている。

「择校」とは、公立学校の進学制度において、親たちが子どもを自分たちの好きな少数の人気学校に進学させるための活動を意味する。近年、政府は「择校」に関する様々な対策を打ち出したにもかかわらず、「择校」活動を抑えられなかった。むしろ、「择校」に対する政府の緩和政策に対し、多様な「择校」の経路が導入されつつある。

本論文は、中国社会における社会主義国家から市場経済国家への変転期において、「择校」の実態がどのように変遷してきたのかを解明するため、過去30年にわたる新聞での言説、教育政策、現在の都市部の学校現場での親や教師からの聞き取りや参与観察をもとに、「择校」の実態と言説を歴史的、社会的コンテクストに位置づけて分析した。

本論文は、「择校」が公立中学校への進学に関わる関係者間の利益交渉を示すことを考証した。また、「择校」は公立中学校への進学競争を意味すると同時に、その多様性と複雑さは家庭状況の影響が大きいことも明らかにした。さらに、「择校」における関係者の位置関係は、政策、関係者の社会経済的地位および地域的コンテクストといった諸要素によって定められている。

最後に、本論文では、中国社会の市場経済への変遷において、「择校」は公立中学校への進学における有力者、特権階級、社会弱者および市場を含む相互交渉の過程であることを解明した。有力者や特権階級は子供の公教育資源の再分配に有利な立場を持ち続けている。また、「择校」の経路の分析によって、中国都市部の公立中学校への進学における不平等な構造は、多様な階層にいる関係者にとって様々な有利な資源活用を可能にしていることを明らかにした。

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