第12回アジア太平洋研究賞(井植記念賞)佳作受賞者 ダライブヤン・ビャンバジャフ氏

論文タイトル「モンゴルにおけるポスト社会主義への移行と市民社会形成」

写真 ダライブヤン・ビャンバジャフ 氏
ダライブヤン・ビャンバジャフ

【略歴】

2000年モンゴル国立教育大学社会学部卒業。2002年モンゴル国立教育大学大学院政治学研究科修士課程修了。2012年北海道大学大学院文学研究科博士課程 (博士・社会学)。この間、2000年から2006年までモンゴル国立教育大学社会学院政治学講師。2011年カナダ・ブリティッシュコロンビア大学アジア研究所研究員。2013年よりオーストラリア・クイーンズランド大学サステイナブル鉱物研究所・鉱業の社会的責任センター博士研究員。専門は政治社会学・コミュニティ開発。

 

【要旨】

 

この20年間、社会科学分野において市民社会という概念が大きく注目されるようになってきた。一党支配国家がポスト社会主義国家へと移行した後、その国家における民主主義と市民社会の関係は、現実的にも学問的にも非常に重要な意味を持っている。本稿では1990年以降のモンゴルの社会・政治環境下において、市民社会がどのような進化を遂げてきたか、その経緯について論じる。
 モンゴル国家は1990年、民主化運動によって平和裏に政治的移行を成し遂げた。ポスト社会主義国家へと移行した後の市民社会形成パターンの特徴として、1990年代は動員の解除とNGOの組織化、2000年代は社会的動員の広がりと社会活動の多様化が挙げられる。両年代の違いは、前共産党であるモンゴル人民革命党(MPRP)の一党支配という政治環境下における野党勢力の進化如何によるものである。1990年代の市民社会とは新興NGOと前時代から存在していた「大衆組織」のことであり、いずれも資金提供団体や政府と良好な関係を築くべく、政治的にセンシティブな問題には関ることなく活動を進めていた。
 2000年代半ば、政治的・社会的な動員が強まってきた。無能な政治団体に対する国民の不満や、国家機関の腐敗に異を唱える声が、様々な「市民運動」という形で具体化されてきたのである。モンゴルの特徴である遊牧、それに都市化や市場の資本化が相まって、他国では見られないような独自の社会活動が生まれてきた。以前の無関心な態度とは異なり、モンゴル政府は近年、市民社会組織に協力的なアプローチをとるようになってきた。
 本稿ではまた、環境に悪影響を与えるモンゴル国内の炭鉱業に反対する環境運動の出現と進展についても掘り下げる。法律制定と地元の実情との間に見られる間隙や、地元の問題点と国際的な基準や責任ある採掘といった概念とのギャップが、地方の活動の進展にどのような影響を与えてきたか、ということについて論じる。

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