第13回アジア太平洋研究賞(井植記念賞)受賞者 會田 剛史氏

論文タイトル”Irrigation, Community and Poverty”(灌漑、共同体、貧困)

写真 會田 剛史氏
會田 剛史

【略歴】

2008年東京大学経済学部経済学科卒業。
2010年同大学院経済学研究科現代経済専攻修士課程修了。
2014年同大学院経済学研究科現代経済専攻博士課程修了(博士(経済学))。
この間、JICA研究所研究助手(2009~2012)、日本学術振興会特別研究員(DC2)(2012~2014)。2014年4月より、日本学術振興会特別研究員(PD)として政策研究大学院大学に所属。

【要旨】

 

 本研究は灌漑・共同体・貧困を巡る問題について、スリランカ南部地域のデータを現代的な実験経済学及び計量経済学的手法に基づいて分析したものである。
 第1章では、以下の章で分析する課題について、その政策的・経済学的意義を概観した。
 第2章では、灌漑用水路の上流・下流間における用水配分の際に、社会関係資本が果たす役割を検証した。コミュニティによる資源配分は効率的な結果をもたらすことが知られているが、資源へのアクセスに非対称性が存在する場合にはその有効性は明らかではない。本研究では、自然実験的状況下における家計調査データと経済実験データを組み合わせた分析を行い、社会関係資本(特に下流地域の農民に対する信頼度)が高い人ほど用水使用量に対する主観的満足度が高くなることを示した。また、資源の希少性が社会関係資本を醸成するという仮説を間接的に支持する結果も得られた。
 第3章では、灌漑の貧困削減効果を分析した。発展途上国における貧困人口の多くが農業に従事していることから、農業生産性の向上は貧困削減にも大きな意味を持つ。本章では、社会学における生計アプローチとミクロ計量経済学的手法を組み合わせることにより、生計手段選択の変化を通じた灌漑利用の所得向上効果を定量化した。また、質的アプローチを通じて、灌漑アクセスがあるにもかかわらず特定の家計が貧困から抜け出せない原因を明らかにした。
 第4章では、リスクシェアリングにおける空間的・社会的ネットワークの効果を比較分析した。農業所得の変動は避けがたく、一時的貧困を避けるためにコミュニティ内部における非公式の消費平準化(リスクシェアリング)が行われる。本研究では、空間計量経済学モデルを用いることで従来の実証モデルを拡張し、地縁ネットワークを通じた所得ショックの拡散効果の方が、血縁ネットワークを通じた拡散効果よりも大きいことを示した。

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