第13回アジア太平洋研究賞(井植記念賞)佳作受賞者 上野 俊行氏

論文タイトル「ベトナム社会におけるバリアフリー-北京、バンコク、台北の公共交通機関のバリアフリー化と比較して-」

写真 上野俊行(うわの としゆき)氏
上野 俊行

【略歴】

2006年東京外国語大学外国語学部中国語科卒業。2008年同大学大学院地域文化研究科地域文化専攻博士前期課程修了(国際学修士)。2010年東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士後期課程入学、2014年3月学位取得(学術博士)。

【要旨】

 

 アジア地域の福祉文化は地域住民の相互扶助にも依存するため、欧米福祉先進国の文脈で語ることはできない。本論文は、アジア特有の福祉の分類を目標に、同地域のフィールドワークを自らの車椅子で行い、これらの都市のバリアフリー化の研究を行ったものである。
 都市のバリアフリー化は経済成長とともに進み、先進国ほど環境が整えられている。一方、障害者権利条約の批准を急ぐ途上国においてはバリアフリー化の努力はあるが、その有効性が乏しいものが目立つ。そして、ベトナムにおける障害者の割合は他国と比較して高いため、バリアフリー化にかかる費用を考えると、より有効なバリアフリー化政策が必要とされる。
 ベトナムのバリアフリー化の課題を挙げ、実際に調査したアジア19都市の中から、今後のベトナムの参考となる三都市を抽出した。政府主導型の社会主義国家である北京。同じ東南アジアに位置し、障害者運動が活発なバンコク。バイク社会が引き起こす渋滞を解消する街づくりを目指す台北。三都市がいかにしてバリアフリー社会を作り上げたかを分析することで、今後のベトナムへの流用を考えた。
 障害者の社会参加には、一般市民からの理解が必要となる。また、地域文化の観点からも、先進国の政策をそのまま移転するのではなく、その地域に適した政策を考えなければならない。そこで、ベトナムの二大都市(ハノイ、ホーチミン)におけるアンケートによる市民意識の調査結果より、ベトナムには積極的な相互扶助の心が存在することが分かった。一般市民の理解と協力によって経済的に欠ける部分を補完し、ベトナムの文化に適合した障害者の社会参加を促すことを考えた。最終的にバリアフリー化を物理的障害の除去という従来の考えから発展させ、障害者の社会参加を促すツールとして捉え直し、障害者が生産者、消費者となる環境へと整備することで、庇護の対象から一権利者へと促すことを最終的な目標としている。

 
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