第14回アジア太平洋研究賞(井植記念賞)受賞者 池田 真也氏

論文タイトル「経済発展下における伝統的青果物流通の展開―ジャワにおける大都市へ向けた野菜の集荷・卸の変容―」

写真 池田 真也(いけだ しんや)氏
池田 真也

【略歴】

2008年東京大学農学部国際開発農学専修卒業。2010年東京大学大学院農学生命科学研究科農学国際専攻修了。三菱東京UFJ銀行を経て、2015年東北大学大学院農学研究科資源生物科学専攻修了(博士(農学))。博士課程の間、日本学術振興会特別研究員(DC2)(2012-14年)、ボゴール農科大学経済経営学部客員研究員(2012-13年)。2015年5月より九州大学大学院工学研究院学術研究員。

【要旨】

 

本論文は、経済発展に伴いスーパーマーケットが台頭し、変容するインドネシアのジャワ島の青果物流通を取り上げ、小農を支える伝統的な流通の展開を詳細な現地調査と計量経済学的手法により実証的に明らかにしたものである。

インドネシアでは現代的流通(農家からスーパーマーケットへの流通)の台頭にも関わらず、伝統的流通(農家から公設小売市場への流通)の食品小売市場占有率は未だ高い水準にある。伝統的流通は現代的流通に代替される一方ではなく、変化している点に着目した研究は数少なく、途上国の農業発展に向けた重要な視角である。そこで本研究は、伝統的流通の集荷、卸に関して、その変容と現代的流通に対して競争力を持ちうる流通取引の仕組みを解明することを目的とした。

本研究で得られた結果は次の3点である。

産地の集荷について、労働慣行として知られる収穫前販売取引のトゥバサンの意義を流通の観点から検討した。その結果、トゥバサンによる集荷は現代的流通の購買方法に対して競争可能な仕組みをもっていた。トゥバサンでは作物の価値に関する情報を商人に提供するインセンティブを農家に与え、その情報により商人が安定的に高品質な野菜を集荷でき、現代的流通に適応可能なことを明らかにした。

第二に産地と消費地を結ぶ卸に関して、商人の分業が進み、卸売システムとして機能していることを明らかにした。しかし、商人の裁定行動はほとんど確認されず、効率的とは言えなかった。

第三に消費地における卸売市場取引に関して、卸売商人は、小売との緊密な顧客関係により小売から伝達される消費者の需要変化に対応していることを明らかにした。ただし、卸売市場が小売または産地商人から回避され、衰退する可能性も指摘した。

本論文の結論として、ジャワの青果物流通の川下が大きく変貌する中で、卸売よりも産地の集荷におけるインフォーマルな取引制度により伝統的流通が適応している点を述べた。

 
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