第15回アジア太平洋研究賞(井植記念賞)受賞者 藏本 龍介氏

論文タイトル「世俗を生きる出家者たち:上座仏教徒社会ミャンマーにおける出家生活の民族誌」

写真 藏本 龍介(くらもと りょうすけ)氏
藏本 龍介

【略歴】

2003年3月 東京大学教養学部卒業
2005年3月 東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了
2013年3月 東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得満期退学
2013年4月 国立民族学博物館・外来研究員
2014年4月 東京大学大学院総合文化研究科・学術研究員
2015年4月 南山大学人類学研究所・准教授

【要旨】

 
 「上座仏教(Theravāda Buddhism)」の出家者は、教義をどのように実践しているのか。本論文ではこの問題を、出家者の経済的な問題、つまり「カネ」を中心とする財の問題に注目して検討した。
  上座仏教の出家者は、教義的理想と経済的現実の根深いジレンマを抱えている。なぜなら「律(Vinaya)」と呼ばれる上座仏教教義は、出家者に対して、財の獲得・所有・使用方法を厳しく制限しているからである。たとえば、経済活動や生産活動をしてはならない、財を好き勝手に所有してはならない、金銭に触れてはならない、といった制約である。こうした律を守る出家生活こそが、上座仏教の理想的境地である涅槃を実現するための、唯一ではないが最適な手段であるとされる。しかしその一方で、出家者といえども、生きていくためには様々なモノやカネといった財を必要とする。したがってこうした律を守るならば、出家生活自体が成り立たない危険がある。それではこうしたジレンマを抱えている出家生活は、現実にどのように成立しうるのか。この問題を明らかにするためには、出家者自身がジレンマにどのように対応しているのか、つまりどのように財を獲得・所有・使用しているのか、その試行錯誤の諸相を明らかにする必要がある。
  このような問題意識のもと、私はミャンマーにおいて現地調査を行った。その結果明らかになったのは、教義(律)と実践(出家生活)の複雑で動態的な関係である。つまり律は、ある場合には所与の条件となって、出家者のライフコース、都市僧院の規模・分布や布施調達活動、僧院の組織形態を方向づけている一方で、またある場合には、それ自体が絶対的な参照点となって、「出家」の挑戦や僧院組織改革など、教義へと近づこうとする実践を生み出している。このように本論文では、現代ミャンマーを直接の事例としながらも、地域・時代を超えた<出家生活のロジック>を浮かび上がらせた。
 
ページのトップへ戻る