第15回アジア太平洋研究賞(井植記念賞)受賞者 星野 壮氏

論文タイトル「在日ブラジル人とキリスト教についての研究」

写真 星野 壮 氏
星野 壮

【略歴】

 専門は宗教社会学。2005年慶應義塾大学卒業後、同年大正大学に編入し、2007年同大卒業。2010年大正大学大学院修士課程修了。2013年同大学院博士後期課程単位取得満期退学。2016年博士(文学)取得。2013年より大正大学などの非常勤講師。

 

【要旨】

 
  1990年の入管法改正以降、在日ブラジル人研究は積極的に蓄積がなされた。しかし、実際に多文化共生が果たされる際に重要な要素となる「在日ブラジル人の組織化」において影響力をもつ宗教については、先行研究で等閑視されてきた。本論はその空隙を埋め合わせる試みである。
  カトリック教会は1990年以降在日ブラジル人への支援を積極的に展開してきた。一方で在日ブラジル人信徒は、故郷の祝祭を再現する過程から、また自発的な宗教運動を日本国内で展開することを梃として、組織化を果たしてきた。その結果、教会を「場所」として共通の信仰に支えられたネットワークが形成され、世俗的なアソシエーション活動に比べ大規模で継続性に優れた共同体が形成され、組織化の原動力となっている。
  ブラジルにて急伸するプロテスタント教会も日本にて多数成立/流入している。そのような教会は、エスニックで閉鎖的な空間を提供する「場所」でありつつも、日本の教派群とも連携する。その過程において在日ブラジル人自ら、そして日本の教派群からもブラジル人こそが「リバイバルの尖兵」として位置づけて/られていく。こうして教会は剥奪に曝された人びとが肯定感を獲得していく「場所」となっていく。
  これら教会はリーマン・ショック、東日本大震災といった社会変動下においては、信徒・非信徒の枠をこえた相互扶助のネットワークの「場所」となるばかりでなく、自治体や市民活動が連携を模索する社会関係資本としての有効性すら示す。また移民二世世代の成長は、少子高齢化によって衰退を余儀なくされると思われたキリスト教界にとって、新たな成員の確保へと繋がる。上記全ての点において教会は「越境者」と「共振者」の結節点となり、新たなネットワークを胚胎する「場所」として位置づけられるのである。
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