第17回アジア太平洋研究賞(井植記念賞)受賞者 金南 咲季氏

論文タイトル「多文化接触領域における共生に関する社会学的考察―外国人学校をめぐる社会的実践の変容を焦点に―」

写真 金南 咲季氏
金南 咲季

【略歴】

専門は教育社会学。博士(人間科学)。2013年3月、大阪大学人間科学部卒業。同年4月より同大学院に進学、2015年より日本学術振興会特別研究員(DC1)。2018年3月大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了。同年4月より、愛知淑徳大学グローバル・コミュニケーション学部助教、現在に至る。

【要旨】

 
  本稿の目的は、外国人学校を焦点に、その設立以降、当該地域社会を舞台にみられるようになった多様な主体間の接触と相互変容過程を記述・分析し、共生の生成・展開の動態とその背景にある論理を明らかにすることである。
  具体的には、ある新興のコリア系外国人学校T校と周辺地域(被差別部落やイスラムモスクを含む多様な社会文化的集団が集住)を対象に質的調査を実施し、T校設立から10 年の間にみられた教育・社会的実践を分析した。分析には、複数の主体間の非対称で流動的な関係性を前提に、接触が劣位・優位側におかれた人々双方に及ぼす影響を捉える「コンタクト・ゾーン」(Pratt[1992]2008)概念を用いた。
 まず序章で、本稿を教育社会学と都市社会学の間に位置づけ先行研究を検討した後、1章で調査概要について述べた。続く2章では、T校設立時にみられた一部地区住民による反対運動の背景要因と地域社会への影響を明らかにした。3章では、反対運動以降にみられたT校と地域の諸公立学校間の接触と相互変容過程を、各校教員たちの語りをもとに描き出した。4章では、T校に通う地域の子どもたちの学校選択の理由、入学後の経験、周囲への影響を明らかにした。5章ではT校教員のライフヒストリーをもとに、地域社会との接触を通じて経験した自己変容過程について論じた。6章では、T校と人権運動団体、イスラムモスク間の接触と相互変容過程を、「多文化共生」言説の生成と使用に着目して明らかにした。終章では、各章の知見を整理し、共生の生成・展開の動態とその背景にある論理を7つの要素――1)「共に投げ込まれている」という所与の条件、2) 関係性のなかから立ち現れる主体化、3)「マイノリティ性」に基づく連帯の創出、4) 認識・実践・関係性の変容、5) コンフリクトと連帯の複合的展開、6) カテゴリー間に位置づけられる存在の可視化と相互変容の活性化、7) 教育ネットワークを基盤とした緩やかな集合体の再編――に分けて論じた上で、最後に先行研究に対する本稿の学術的貢献を提示した。
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