第19回アジア太平洋研究賞(井植記念賞)受賞者 岡部 正義氏

論文タイトル「フィリピンにおける教育開発分野の「逆向きジェンダー格差」に関する経済分析」

写真 岡部 正義氏
岡部 正義

【略歴】

専門は開発経済学,教育経済学,人間開発論,フィリピン地域研究。博士(国際貢献)。2019年7月東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士後期課程修了。2011年4月独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所入構,2017年1月~2020年1月までジェトロ・アジア経済研究所在マニラ海外研究員・フィリピン国立大学ディリマン校働産業関係学研究科客員研究員・講師,2018年8月~2019年1月同教育学研究科客員講師を経て,2020年4月より現職。

【要旨】

 
 本研究は女子教育振興が開発課題である途上国一般の傾向の中で「男子の教育不振」に着目し、フィリピンの農村地域調査を現代的な経済学的手法に基づき分析したものである。第Ⅰ部は先行研究、理論、制度の整理となる序論部で、第1章・第2章では、以下の章で分析する課題について、その政策的・経済学的意義とフィリピン教育制度を概観した。
 第Ⅱ部は男女の教育需要比較を世代間関係に着目し、ブキドノン州で実施された世帯調査データを用い計量分析を行った。第3章では教育遅延年数、第4章では教育投資の継続性を被説明変数に男女の性別の他、児童・生徒編人や世帯、地域の属性を説明変数に分析した。この結果、男児は父親、女児は母親の教育水準との相関が強いという同性親子効果を発見し、さらにその絶対的大きさと結びつきの強固さは父-息子より母-娘の世代間家計においてより強い点を示した。
 第Ⅲ部は、2017年~2020年までフィリピンにて在外研究を行った際に集中的に実施したマリンドゥケ州における世帯調査データに基づき、さらに「男子は怠惰」仮説を現地聞き取りから導出し、これを複数の分析で実証した。まず第5章・第6章では、子の生活時間利用調査を行い、これを同時方程式モデルに基づき、教育成果と親和性ある生活時間利用パターンを解析し、男女間の時間利用パターンの分化=男子の怠惰化は、母親の就労という潜在変数が作用しており、母親たちが養育者として強力に期待されること、母親の就労は父親の就業・収入変数に規定されていること、その意味でフィリピン女性は養育者と生計維持者という「二重の責務」を担う存在であることを示した。第7章ではこれに子の成績データと政府から提供された全国学力試験データを加え、採点者にとって被採点者の可視性に注目した自然実験として、男子は男子であることによって教師により成績をからく付けられるというステレオタイプの存在を示した。つまり男子の教育不振は学校において増幅されている。
 最後に結論部で結論と政策的含意を議論し、末尾の補論部では計量的分析に対する補遺として、質的分析の議論を2章分加え、議論の量的質的基盤の提供を努めた。
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