陳天璽氏の受賞のことば

写真 陳天璽

陳 天璽(ちん てんじ)
  • 【略歴】

    1971年生まれ。94年筑波大学第三学群国際関係学類卒業後、同大学大学院国際政治経済学研究科入学。同年香港中文大学国際交流計劃学部に留学。96年筑波大学大学院国際政治経済学研究科修士課程修了、2000年同研究科博士課程修了。2001年から日本学術振興会特別研究員(東京大学総合文化研究科所属)。
    研究分野は、国際コミュニケーション論、移民・マイノリティー研究、文化人類学。

選考委員の先生方、そして在席の皆様、今日は本当に有り難うございます。

実は、自分が受賞者の一人に選ばれ、今日ここにこうして立っているのは、非常に信じられない思いでいっぱいです。最初に、研究奨励賞というものがあるということを知ったときに、募集要領を見て諦めたのです。なぜなら要領には、日本の大学の博士課程で博士論文を書いた日本人もしくは留学生の方に与えると書いてあり、私は、日本で生まれた中国人、華僑としてそのどちらでもないというので一度は諦めたのです。

そのあとに、日本人の友人が、この賞は多文化共生社会の実現に役立つ論文に与えられるのだから貴方に合っているのでは、また、多文化共生のためなら、そのはざまにいる人間も賞に値するのではないかと励ましてくださいました。そこで、勇気をもってアジア太平洋フォーラム・淡路会議の事務局に問い合わせましたら、応募資格がありますとの返事をいただきましたので、応募することができたのです。

私が駄目だと思ったこと、自分がそれに値しないものだ、もしくは、偏見をもって違うんだと思ってしまったことに対して、そうではないと気づかせてくださった方々にこの場をお借りして感謝の気持ちを表したいと思います。

さて、私は、「華商のネットワークとアンデンティティ」というタイトルで研究をしました。そして、華僑、華人はチャイニーズのエスニックなネットワークでがっちり固まっていて、それで経済的に成功しているんだろうというふうに見られておりますが、私が一人一人華商の方々にインタビューしていくなかで、実はそうではない、彼らはむしろ多層なアイデンティティをもっている、例えば、私が華商であれば、時には日本人、時には中国人、そして時には学校のネットワーク、そういった多層なネットワークをもって、柔軟に活動しているからこそ、彼らが成功しているということを発見しました。

私は、虹の性質、つまり、あるようでないような、出現したかと思うとなくなってしまう、曖昧ではかない性質に着目し、その虹の持っている性質と華商のアイデンティティの多元性とを重ね合わせて研究を進めました。
今日、少し話が長くなって申し訳ないんですか、華僑、華人の人たちを研究していくなかで、実は、そういった多文化共生、そして、多層のアイデンティティを有しているということが、現在のグローバル社会のなかで、非常に重要であることを発見しました。そして、国と国のはざまにいる人、文化と文化のはざまにいる人、民族と民族のはざまにいる人など、そういった人たちの可能性というのをこれからどんどん研究していきたい、そして、そのはざまにいるということを研究することで、彼らがグローバル社会のなかで、アジア太平洋地域だけにとどまらず、地球社会においてどのような役割を持っているのかということを明らかにしていきたいと思っております。

最後になりましたが、私の博士論文が評価された結果、受賞者の一人として選ばれ、今日ここに素晴らしい方々と一緒に立っていることを感謝するとともに、私を指導してくださった先生方、そして、何度かもう諦めようとした時に励ましてくださった友人の方々に対して、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

さらに、華僑、華人の人たちのネットワークとアイデンティティというのを自分のテーマとして選ばせてくれた両親、私を日本で華僑、華人として、しっかり胸をはって生きなさいと育ててくれた両親と家族に感謝の気持ちでいっぱいです。

今日はどうも有り難うございました。

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