第21回アジア太平洋研究賞 受賞者 王 楽氏

論文タイトル「満洲国農村部における宣撫宣伝活動のメディア史」

写真 王 楽氏
王 楽

【略歴】

専門はメディア史、歴史社会学。2011年、黒竜江大学日本語学部・経済学部卒業。2015年、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。日本学術振興会特別研究員(DC2)、早稲田大学現代政治経済研究所特別研究所員、東京大学大学院情報学環特任研究員、駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部非常勤講師などを経て、2021年に同大学院博士課程修了。博士(学際情報学)を取得。現在、東北大学大学院情報科学研究科特任助教。

【要旨】

 
 満洲国農村部で実施された宣伝活動において重要視されたのが「宣撫」と呼ばれる活動である。本論文は、宣撫活動における重層的なメディアの利用を手がかりに、一次資料に基づいて、満洲国農村部の統治政策の実態を実証的に解明するメディア史研究でもある。
 第1章では、宣撫活動の実施にともなう「宣撫」概念の形成について明らかにする。そのうえで、宣撫活動のターゲットの特徴とメディアの独自の特徴を明らかにする。第2章では、満洲国の宣撫活動のあり方の起源と展開を明らかにするため、宣撫活動の歴史的な発展とその人的・技術的な基盤について分析する。第3章では、宣撫活動の実施側がより効果的な方法を模索する経緯を明らかにする。第4章では、人口が分散した満洲国農村部で最も大衆を集められる宗教的な祭礼とそれと同時に行われる定期市を利用する方法を検討する。終章では、宣撫活動が現地社会の影響によって変容し、さらに現地社会の変容に拍車をかけたことを明らかにする。本論文は満洲国農村部の宣撫活動に関する実証的な歴史研究の空白を埋める試みであると同時に、メディア研究において「複数のメディア」を統合した分析視座を提供した点に意義がある。
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