第22回アジア太平洋研究賞 受賞者 黄 喜佳氏

論文タイトル「現代中国の中央地方関係再考――集権と分権を架橋する広域統治機構の視角から」

写真 黄 喜佳氏
黄 喜佳氏

【略歴】

専門は中国政治。博士(法学)。1990年台湾・台北市生まれ。2013年、国立台湾大学政治学科卒業。2017年、東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。2017年、同大学院博士課程に進学、2023年、同博士課程修了。現在、東京大学大学院大学院法学政治学研究科附属ビジネスロー・比較法政研究センター特任研究員。

【要旨】

 
 中華人民共和国では、党が国家を領導するという大前提のもとで、中央の方針を貫徹しながら地方を活性化させるために如何なる取り組みがなされてきたのか。中国共産党政権はこの問題に取り組むために、1949年の建国から1966年の文化大革命まで頻繁に制度を変更してきた。本論文が着目したのは、中央の下にある省という伝統的な行政区画を超え、いくつかの省を包摂した広域統治機構である。こうした機構は、様々な制度変更にもかかわらず一貫して存在し続けた。ところが、従来の中央地方関係の研究は、広域統治機構が持続した現象について、単に集権化と分権化に伴う付随的な結果に過ぎなかったとしてきた。
 これに対して、本論文は、広域統治機構の実際の制度効果の内容、および広域統治機構が長期化し繰り返し出現した原因の解明という2つの課題を立てた。以上の課題に答えるために、各章では、具体的な広域統治機構、すなわち建国初期の大行政区体制、経済協作区、さらには1960年代の中央局の運営の実態について詳細な考察を行った。
 結論では、中央は折衷的な政治状況を維持し、効果的な統治システムの運営を確保するために、広域統治機構を通じた統治方針を創出したことを指摘した。また、毛沢東時代の権力構造は高度に中央に傾斜していたのではなく、広域統治機構の存在を通して絶えず制度の調整が行われ、地方の協力を得ようとしていたという側面をも示した。
 このように、現代中国の国家形成期において、中国は厳格な中央集権的な体制をとることはなく、広域統治機構の存在を通じて、制度的に地方を統合しながらその活力を保つことができたのである。このことは、改革開放時代に地方党委員会が活躍する基礎ともなったと考えられる。すなわち、以上の本論文で得られた知見は、従来の中央―地方という対立構図に対して再考を迫るのみならず、現代中国の中央地方関係にも新たな示唆を提供できると考える。
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