第23回アジア太平洋研究賞佳作 受賞者 三代川 夏子氏

論文タイトル「自民党政治と「二つの中国」 ―日台間における非公式チャネルを中心に―」

写真 三代川 夏子氏
三代川 夏子氏

【略歴】

専門は日本政治外交史、アジア政治外交史。博士(法学)。現在、東京大学大学院法学政治学研究科附属ビジネスロー・比較法政研究センター特任講師。2015年北海道大学法学部卒業。2018年北海道大学大学院法学研究科博士前期課程修了。2024年、東京大学大学院法学政治学博士後期課程修了。日本学術振興会特別研究員DC1(2018-2021年)、台湾外交部フェロー(2021-2022年)などを経て、2024年4月より現職。

【要旨】

 
 本論文は、戦後の日本と台湾(中華民国)との間のチャネルに焦点を当て、その変遷の過程を追うことで、冷戦期の自民党政治における対外政策決定過程を、政治外交史の立場から明らかにしたものである。国交の樹立と断絶を経験した冷戦期の日台間において、双方間の交渉チャネルはいかに形成されたのか、また、「二つの中国」との接触において、日本政府、自民党および派閥は、それぞれいかなる役割を担ったのか。こうした問題意識に基づき、本論文では、日台双方の多様なアクターの企図・動向、とりわけ自民党政治家と台湾側との接触に着目することで、日台間チャネルの形成過程を明らかにした。同時に、官僚・政治家間および省庁間の相互作用を考慮し、各アクター間で認識の齟齬が生じた過程を詳述した。
 長らくアジア史が英米の史料に基づいて論じられてきたこと、そして近年アジア地域独自の視点による冷戦史が求められていることを踏まえ、本論文では、複数の政府による外交史料を利用しつつも、主として近年日本と台湾で公開された史料や独自に入手した個人資料、関係者へのインタビュー調査を活用した。
 本論文を通じて明らかになったことは、第一に、外交関係の有無に関わらず、「非公式チャネル」が活用されてきた事実である。日台間の交渉過程は、政府間の国交断絶下においても「公式チャネル(準公式チャネル)」の必要性が低下するわけではなく、また逆に、国交関係下においても「非公式チャネル」が重視され得ることが示唆される。両政府の意思疎通にとって重要なのは、政策決定者に確実に繋がるカウンターパートへの共通認識、すなわち、公式・非公式を問わず安定したチャネルの形成であった。
 第二に、長期政権を担った自民党は、派閥政治を背景に、議員が自由に対外活動を行うことで、中国と台湾という対立する二つの政府と同時に付き合うことが可能であった。国交正常化後は対中関係を重視した外務省と対照的に、外交面においても包括政党化した自民党において、「二つの中国」の間でバランスをとれる体制が築かれた。
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