鄧 応文氏 受賞論文要旨

1990年代における中越経済関係

-国境貿易を中心にして-

写真 鄧 応文

鄧 応文(とう おうぶん)
  • 【略歴】

    1985年中国広西民族学院(大学)外国語学部ベトナム語学科卒業後、中国広東省外語外貿大学でベトナム語教育の助手として勤務(1985年~1990年)。1996年東京外国語大学大学院地域文化研究科博士前期課程修了(学術修士学位取得)。2002年3月同地域文化研究科博士課程修了(学術博士号取得)。現在東京外国語大学外国語学部外国人研究者。

本論文は、90年代以後の中越国境貿易の発展プロセス、それと関連する両国の政策、国境貿易がもたらした両国の国境地域の経済変化及び地域経済協力の展開について考察したものである。  中越国境貿易は90年代初頭に正常化し、新たに転換した両国の関係の中で、特に両国の経済関係の中で重要な位置を占めている。  1945年に独立したベトナムと1949年に樹立した中華人民共和国が、51年に国交を結んだ後それ以来90年初頭両国の国交が新たに正常化するまでのほぼ40年間に、両国の関係は政治的イデオロギーを軸として展開してきた。そのため、経済関係は第二の次元で、政治に服従する位置に置かれてきた。こういった状況の中での中越国境貿易は、ほとんど両国関係の中で末端の位置に置かれていた。   しかし、歴史上それまで国境住民の間に行われてきた伝統的な零細な国境交易は、80年代末ごろから両国の対立状況の下で両側の国境住民により半ば自主的に回復し、両国の関係正常化のテンポを速めさせた。また新たに展開した両国の関係、つまり、経済関係がより重要視され、政治関係の束縛からある程度離れつつあるようになったという新型関係の下で、中越国境貿易はその局面の展開をリードし、その後、両国経済関係の中でも重要な役割を果たし、両国の間に地域経済協力まで展開させた。   本論文ではこういった両国関係の中で重要な役割を果たした中越国境貿易を明らかにすることを目的とする。 本論文では5つの章から構成されている。  第1章は、中越国境貿易の歴史と概念について考察した。本章では、まず中越国境地域の範囲とその経済状況を概観し、中越国境地域の範囲とその貿易拠点を明らかにした上で、近代以前の中越国境地域における貿易及び50年代から60年代までの中越国境貿易を考察した。  第2章では、中越両国の国境貿易政策について分析した。  第3章では、中越国境貿易の推移とその問題点について論述した。  80年代以降の中越国境貿易の推移を考察する際、中国側では通常三段階に分けて捉える。第一段階は79年初めに中越国境戦争が勃発した後の83年から紛争が一応落ち着いた88年まで、第二段階は88年から91年まで、第三段階は92年から現在までである。  第一段階の国境貿易では、中越の軍事的対峙が続いていた国境を越えて交易するものであり違法行為であると見なされた。  第二段階の国境貿易は、89年以後、中国が周辺国家との関係改善に乗り出す中、中越関係も日増しに好転し、国境貿易も急速にその規模を拡大した。この時期に、国境を越えて貿易を行う人々の数や貿易総額はそれまでの最高値を記録した。この段階では、中越国境貿易は急速に発展したが、しかし、管理システムがまだ整備されていなかったため、多くの問題が発生した。  第三段階では、中越の国交正常化の実現と共に、中越間の国家間貿易が再開され、また、国境貿易の規範化と管理も強化された。  一方、中越国境貿易を考えるとき、国境地域において行われている合法貿易と並行して存在している密輸貿易への考察は、避けて通れない課題の一つである。そのため、本章では国境貿易の発展に発生した密輸問題についても考察した。  第4章では、中越国境貿易は国境地域の経済・社会にどんな変化をもたらしたのかについて検討した。その中で最大の貿易拠点である東興:モンカイ、そして憑祥:ランソンをと取り上げ、国境貿易の展開前後における経済状況の変化を考察した。  第5章では、中越国境貿易の今後の発展の見通しについて分析した。  本章は両側の国境地域開発政策、そして中越国境貿易の発展と最も関連性のある両国の経済・政治関係に焦点をあてて考察した。

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