「アジア太平洋研究賞」(佳作) 楽君傑氏 論文要旨

「中国東部沿海農村の労働市場に関する数量分析」

写真 楽君傑

楽 君傑(らく くんけつ)
  • 【略歴】

    1999年阪南大学商学部卒業。2001年3月関西学院大学大学院経済学研究科博士課程前期課程修了。同年4月同研究科博士課程後期課程入学、2004年3月同課程単位取得退学。関西学院大学大学院奨励研究員を経て、2005年1月博士号(経済学)取得。2005年4月より中国浙江大学経済学院、浙江大学労働経済及び公共政策研究センター講師。

中国の農村経済発展は、政府の都市傾斜の発展戦略によって都市に比べて大きく後れをとった。様々露呈してきた農村問題の中で、農村労働力の就業問題はとくに深刻である。そこで、本論文は、今後の農村就業政策の制定に明確な証拠を提供するために、所与の社会環境と政治・経済制度という枠組みの下で、フィールド調査と数量分析を用いて、中国の農村労働者の労働供給および企業の労働需要を決定するメカニズムの解明を試みる。

本論文では、以下の4つの研究課題を設定して農村労働力の就業問題を分析していく。(1)農村・都市の二重労働市場と農村過剰労働力の考察、および先行研究の整理によって、農村労働力の就業状況を明らかにする。(2)個票データを用いて、農村労働者の外出労働の実態と決定要因を分析する。(3)個票データに基づいて、農村労働者の就業選択と労働時間供給を決定する要因、およびそれらの要因が農村男女労働者に与える影響の違いを調べ、そして農村既婚女性の就業行動について考察を行なう。(4)マクロ集計データとミクロ企業調査データの両方を利用して、農村企業の雇用吸収力を検討する。

第1章では、中国の農村労働者の就業問題の背景となる制度要因および経済環境を把握するために、改革以後中国農村の制度変遷、経済発展、および労働市場の構造変化を概説した。

本論文は、序章と終章を除いて、9章から構成されている。第1章、第2章および第3章は、農村労働力の就業問題を分析するための予備的考察である。第4章、第5章、第6章および第7章は、農村労働力の労働供給に関する実証分析である。そして、第8章と第9章は、農村地域内の労働需要に関する実証分析である。

第2章では、本論文の研究課題に沿って、中国の農村労働市場における過剰労働力、労働移動、労働供給および労働需要という4つのテーマに焦点をあて、実証研究の文献を中心に、今までの研究を整理した。

第3章では、中国の農村過剰労働力の実態を掴むために、マクロ集計データを利用して、農村過剰労働力の定義、労働生産性およびその規模を考察した。

第4章では、調査で得られた個票データに基づき、農村外出労働の実態および外出労働の決定要因を調べた。

第5章では、浙江省岱山県を事例として、沿海農村地域における男女労働者の就業構造と就業選択の違いを考察した。

第6章では、浙江省岱山県で行った2回の調査データに基づき、沿海地域における農村労働者の所得と労働供給に影響する決定要因、およびそれらの要因が農村男女労働者に与える影響の違いをミクロレベルにおいて考察した。

第7章では、実地調査で得られた個票データに基づき、沿海地域の農村既婚女性の就業状況、就業意識および就業選択の決定要因を考察した。

第8章では、マクロ集計データに基づき、農村集団所有制企業と農村私営企業の労働需要関数を推定し、農村工業化の道において、農村企業のどの所有制部門がより多くの農村労働力の雇用機会を生むかに関して検証を行った。

第9章では、農村私営企業の労働需要の決定要因、または生産要素の相対価格の変化に伴い農村私営企業の雇用がどの程度変化するのかを明らかにするために、浙江省の東陽市と舟山市の企業調査で得られたデータに基づき、農村私営企業の労働需要に関して数量分析を行なった。

最後の終章では、本研究の特徴および発見を示したうえで、政策的インプリケーションを導き、中国の農村における就業問題に対して政策提案を行った。

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