第7回井植記念「アジア太平洋文化賞」 受賞団体:社団法人シャンティ国際ボランティア会(SVA)若林 恭英会長の「受賞の言葉」

写真: 若林恭英 会長

図書館での読み聞かせ(カンボジア)

社団法人シャンティ国際ボランティア会の概要
1979年、前身組織となる「曹洞宗東南アジア難民救済会議(JSRC)」が、タイに逃れてきたカンボジア難民の救済を目的に発足。曹洞宗による救援活動の終了が決まった翌81年、活動に参加したボランティア有志によって「曹洞宗ボランティア会」が設立される。99年には外務省認可法人、社団法人シャンティ国際ボランティア会(SVA)として改組、現在に至る。「シャンティ」はサンスクリット語で平和、心の静寂を意味する。
図書館運営や出版活動など、教育と文化支援に焦点を充てて開始した活動は、難民キャンプの閉鎖と人々の帰還に伴い、タイ、カンボジア、ラオス国内での復興・開発支援として再スタートされることとなり、現在では、アフガニスタン、タイ国境ミャンマー(ビルマ)難民キャンプでの取り組みも行われている。活動の原点ともいえる図書館を通じた教育支援は、いずれの国においても支柱的な位置づけにおかれ、これを中心として学校建設や教材開発・配布、教員養成などといった多岐にわたる支援が展開されている。また1995年に発生した阪神・淡路大震災を契機として、国内外で発生する災害救援活動の取り組みも続けている。

このたび第7回井植記念アジア太平洋文化賞受賞を受賞しますに当たり、一言感謝の言葉を申し述べさせていただきます。

先ほど、ご紹介にもありましたように、シャンティ国際ボランティア会は1999年、外務省認可の社団法人として、現在はタイ、カンボジア、ラオス、アフガニスタン、ミャンマー難民キャンプといった各地で、アジアの子どもたちの教育文化支援ということを行っているNGOの団体です。会の設立自体は、1980年のカンボジア難民支援にさかのぼり、既に四半世紀余を経過しているところです。シャンティという名前を冠したというのも、古代インドの言葉で、私ども仏教徒にとっても非常に縁の深い言葉、シャンティ(平和・寂静)という名前を付け、世界の平和を目指していこうということで、団体名の一番頭に付けました。われわれの団体の前身である曹洞宗東南アジア難民救済会議(JSRC)と、その後、曹洞宗国際ボランティア会という名前の組織名からもお分かりになるかと思いますが、日本のいわゆる既成教団の中から海外への支援をしようというのは、恐らく長い歴史の中でもほとんどというか、皆無ではなかったかと思います。そんな中で、私どもの先達が海外の悲惨な状況を見るに見かね、何とかしなければいけないのではないかという思いに駆られて、現地に飛び込んでいったわけです。

しかし、海外の支援活動というのは、マニュアルはほとんど皆無で、それこそ暗中模索ということで、この支援活動をどう進めたらよいのかということを考え考え、失敗を繰り返しながら進めてきたわけです。そんな中で次第に気付かされてきたことがあります。これは今となっては当然かもしれませんが、生活の基盤というものを奪われた人たち、それこそ着の身着のままで国境を命からがら逃げてきた人たち、本当に悲惨な状況であるわけで、まず何とか命をつなぐという意味での食事、それから雨露をしのぐという意味での家は、国連等々、外からの支援で何とか最低限の生活状況が成り立ちます。しかし、果たしてそれだけで事足れりとしていいのかどうか。そこでストップしてしまうと、こちら側は支援する側、あなたたちは支援される側という固定的な関係を作ってしまうのではないか。資金力のそうないわれわれにできることというのは、そうした最低限の条件が整った上で何が必要か。人々の内面の力を引き出すものは何か。将来に向かって自分たちが立ち上がり、進んでいくためには、やはり教育というものが一番必要ではないかということで、教育文化支援という目標がだんだんと定まってきました。

そう考えてみますと、われわれ日本の伝統文化の中には、幕末から明治の初めにかけて、学制が発布される以前、民間において教育を担ってきたのは寺子屋だったわけです。統計によると、幕末のころ、約4000の寺子屋が日本には存在していたそうです。まさに人口比から見れば、現在の義務教育に匹敵するほどの民間教育が行われていた。であるからこそ、あの動乱の時代に他の属国にもならずに、何とか自立を全うしてこられたのではないかという意見も聞いたことがあります。寺子屋というと、むしろわれわれの得意分野であるということで、この分野はほかの緊急支援というスパンよりも非常に長い時間を要しますが、ただ、これは必ず必要であるし、世界平和に向けては、共に生き、共に学ぶというSVAの理念に合致するものではないかということで、以来、地域の文化、伝統というものを大事にしながら、識字率向上に向け、絵本を中心にした図書館活動がわれわれの活動の中心となっています。

また、共に学ぶという点につきましても、例えば伝統的に私ども仏教の考え方ということでいきますと、北方の方は大乗仏教、南方の方を小乗仏教という。これは意識せずに使っておりましたが、実はどちらかというと、南方の仏教を低く見るような物の見方というものが伝統的にあったわけですが、それもわれわれが活動をしていく中で、南方の仏教は、それなりに素晴らしいものがあるということに気付かされました。やはりわれわれも一緒に学んでいかないといけないなということをつくづく感じさせられたわけです。これは学び得たほんの少しばかりのことですが、そうした彼の地には彼の地の良さというものがあるのだという、アジアの多様性というものをお互いに尊重し、共に生きるということが、これからのアジアの、いや世界の平和につなげていけることだと私どもは確信しているところです。

このたび、SVAの活動がこうして認められたことに対しまして、今まで共に支えてくださった多くの皆さんとともに一緒に喜びたいと思います。このたびは本当にありがとうございました。

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